連載院長・家族・職員・患者、みんなが幸せになる事業承継

#04 人を残し未来を託す、地域に愛された70歳の院長が勇退するまでの道のり

<本連載について>
本連載を読まれている先生方も1度は「事業承継」という言葉を聞かれたことがあるのではないでしょうか。事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのかわからず悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では、『院長・家族・職員・患者、みんなが幸せになる事業承継』をテーマに院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えられるような気付きを提供いたします。

『金を残すは三流、仕事を残すは二流、人を残すは一流』プロ野球史に輝く名将・野村克也さんの座右の銘としても有名ですが、元々は後藤新平という明治から昭和初期に活躍した医師であり政治家の言葉であるとも言われています。社会問題として診療所の後継者不在が囁かれる今、地域の医療を守るため人を残すことに奮闘したある院長の人生をストーリー仕立てで紹介いたします。

顧問税理士からの薦めでМ&Aを知り、不安と期待が混じりながら後継者探しをスタート

橋本先生(仮称)は70歳で1980年代に東北地方の住宅地で開業。診療所は内科医・小児科を標榜し最寄り駅から15分圏内と立地もよく、子供から高齢者まで幅広い年齢層の患者が来院します。通常診療に加え近所の幼稚園・小学校・中学校の学校医も務めており、子供を持つ親であれば知らない人はいないほど地域では評判の先生でした。

幼稚園・小中学校の健康診断を例年通り務めていたある日、1度に数十人から数百人の問診を行うなかで『あと何年くらい学校医を務められるだろうか…』ふと気に掛けたことが事業承継を考え始めるきっかけになりました。気がつけば開業から日曜祝日・お盆と年末年始以外はほとんど休暇を取ったこともなく診療に従事し続けてきた橋本先生。最近は1日の診療を終えるとまるで大きな荷物を降ろした時のようにぐったりと椅子に座ることがしばしばあったようです。

70歳という節目の年を迎え、昔に比べて体力も落ちてきていることを実感し『果たして今の生活をいつまで続けられるのか』と不安が心をよぎりました。橋本先生のご子息は2人兄弟でしたがいずれも医師ではなく、長男は大学の教員として次男は総合商社の社員として働いており親族にも医師がいなかったため後を継いでもらう宛がないと思うと更に不安が増してきたのです。

そこで良き相談相手になってくれたのは長年に渡り診療所の税務申告をお願いしていた税理士事務所の担当者でした。担当者とは20年以上の付き合いで診療所の財布事情から家族のことまで表裏なく話ができる信頼のおける人物です。四半期に1回行われている定例会議を終えた後に『体力的にもいつまで診療を続けられるか正直不安だ』とこぼしたところ、『廃業するという手もあるが…М&Aという方法もある』と答えてくれました。М&Aという言葉自体を初めて聞いた橋本先生でしたが、どうやら子供や親族以外の第三者に診療所を承継することを意味する言葉で廃業よりもメリットが多く、『まずはМ&Aの仲介会社に相談を持ち掛けると良い』とのアドバイスも貰い気持ちが少し楽になりました。

その後、税理士事務所がピックアップしてくれたいくつかの仲介会社と面談を重ね、最終的には日本М&Aセンターに依頼することに決めました。決め手となったのは多くの会社が「成功報酬以外無料」や「業界最安値」を謳っているのに対して、同社は唯一着手金の前払い制を採用しており、着手金の発生が逆に最後まで責任をもってサポートをしてもらえそうだという信頼感にも繋がりました。また、医療介護支援部という医療・介護業界の専門部隊を保有し、毎年数十件にも及ぶМ&Aを成立させている実績にも目がいきましたが、何より同社コンサルタントである西山氏(筆者)が真面目な風貌からは見えない熱を持っていたところに惹かれた、とありがたいお言葉をいただきました。

西山氏とは3回ほど面談を行い秘密保持の重要性やМ&Aの流れ、想定されるМ&Aのスキーム、着手金・成功報酬の目安など細かな説明を受けアドバイザリー契約を締結し、いよいよ初めての事業承継・М&Aがスタートを切りました。

1年間という時間を経てМ&Aが成立、後継の先生と従業員からの見送りが最後の想い出に

М&Aにより診療所の後継者候補を探していくわけですが、継いでさえくれれば誰でも良いというわけではなく、買い手に求める必須の条件を定めました。大切な従業員の生活を守りたいという思いから「職員の雇用を維持してくれる」、自身の健康状態とも相談し「引き継ぎの期間は1年前後」を条件としました。

後継者候補を探し始め半年が過ぎようとしたある日、西山氏から電話を受け関東で急性期の総合病院で働く勤務医の中川先生(仮称)が承継を希望しているとの報告を受けました。報告から2週間ほど経過した週末、自宅から近いシティホテルの会議室で中川先生と面談することになりました。

中川先生は元々東北の出身で医学部受験と同時に関東に行き、病院で診療の腕を磨く傍ら専門医も取得したばかりで「やっと開業に至る準備ができたところです」と笑顔で話してくれました。そのまま関東圏での開業も考えたようですが、生まれ育った東北への故郷愛もあり戻る決心が付いたそうです。なぜ診療所を新設するのではなく、承継による開業を希望しているのか尋ねたところ、「落下傘のように新規開業するより、これまで何十年も地域医療を守ってこられた診療所を承継するほうが住民も安心するのではないかと」と考えたというのです。これまでは事業承継を従業員や住民のためにと思っていた橋本先生ですが、これから開業を志す若手医師の力にもなれることに気づいたといいます。

若きエネルギーに満ちる中川先生から質問が飛び、診療所の歴史や働いている従業員の性格、学校医の務めや近隣医療機関との関係性などを詳細まで丁寧に答えていると2時間の面談があっという間に過ぎ、診療所の施設見学を経てその日は終わりました。後日、西山氏から電話があり中川先生が診療所の承継に関して話を更に進めたいとの意向が出たと報告を受け、初めての面談で好印象を受けた中川先生であれば安心して後継を任せられると改めて思い、気持ちよく『是非進めさせてください』と返答しました。

中川先生が病院と退職交渉を重ねる間に買収監査や最終契約の条件を摺合せ、最終的にはМ&Aがスタートした日から約1年が経過する頃に譲渡日を定めました。そして迎えた譲渡の日、中川先生と初めて会ったシティホテルで最終契約書に印鑑を押しМ&Aが成立する成約式が行われました。

成約式には橋本先生の奥様と2人のご子息にも出席頂き、ご子息からは花束の贈呈、奥様からは感謝の手紙が読み上げられました。手紙の最後には「橋本先生おつかれさまでした、中川先生これからよろしくお願いします」と綴られており、「おつかれさまとよろしくお願いします、この言葉を同じ日に言えたことが幸せです」と涙ながらに伝えたのです。

成約式の終了後、診療所に従業員を集めて皆の雇用が守られること、この地域に住む人々の健康を守るために診療所を譲渡する決断をしたことを説明しました。中川先生から明るく爽やかな挨拶もあり、従業員は不安どころか少し安心したような表情も見受けられ、こうして長くも短い1日が無事に終わったのです。

譲渡日から半年間は患者の引き継ぎはもちろん学校医の仕事や近隣医療機関への挨拶回りなどに追われ忙しく過ごしました。同じ大学出身の後輩開業医からは『橋本先生おめでとうございます、人を残すは一流といいますが、正にこういうことですね』と先輩が勇退する寂しさと羨ましさとが混じった握手を餞別の代わりに交わしました。

それからは診療を週5から週1日まで徐々に減らしМ&Aから成立した半年後、全ての引き継ぎを終え診療所を去る時が来ました。思えば独立してから様々な出来事がありましたが、最後は中川先生と従業員から笑顔で見送りをしてもらえたことが開業医人生のなかでも想い出に残る最後と1ページとなりました。

診療所の上手な事業承継の鉄則は「相談は早めに決断は慎重に」

本稿では診療所のМ&A事例をストーリー仕立てにご紹介いたしました。後日談ですがМ&Aが成立して数ヶ月後、橋本先生が体調を崩し2週間ほど入院した時期もあり中川先生に引き継いでいなければどうしていたのかと心配がよぎった日もありました。

生涯医師として診療を続けている先生もセカンドライフを楽しみにしている先生もいつか来る事業承継を上手く進める鉄則は早めに相談を持ち掛けることです。そして、相談した後はたくさん悩み慎重に決断してください。早く相談を持ち掛けた人から悩み・決断する時間の猶予が生まれます。

もしそのような相談先を知らないということであれば、日本М&Aセンターにご相談ください。日本で最も病院・クリニックの事業承継・М&Aを支援してきたプロフェッショナルチームがご相談をお伺いします。

日本M&Aセンターの基本情報

日本М&Aセンターは、設立30年で累計6,000件以上の成約実績を誇り、日本で最も事業承継の支援をしてきた会社です。病院・診療所・介護事業の第三者承継(М&A)を毎年約100件成功に導いてきた医療・介護分野の専門集団『医療介護支援部』が診療所の事業承継を支援します。また、当社が運営する『医新伝診(イシンデンシン)』は、診療所を誰かに引き継ぎたい医師と開業を目指す医師をマッチングする医師専用WEBサービスで、数百名を超える医師にご利用頂いています。

医新伝診

この記事の著者/編集者

西山賢太 日本M&Aセンター 事業承継コンサルタント 

日本M&Aセンター医療介護支援部コンサルティング室所属。薬剤師・調理師・医療経営士。
薬剤師免許取得後、経営コンサルティング会社にて病院の事業計画策定・病床機能転換・新築移転業務に従事。その後、社会福祉法人恩賜財団済生会支部埼玉県済生会川口総合病院にて薬剤師としての実務経験を得た後、日本M&Aセンタ-に入社し、病院・クリニックの経営改善や事業承継を支援している。

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事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのかわからず悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では、『院長・家族・職員・患者、みんなが幸せになる事業承継』をテーマに院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えられるような気付きを提供いたします。

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