連載院長・家族・職員・患者、みんなが幸せになる事業承継

#05 事業承継を考え始める『ベストタイミング』は何歳?~診療所М&Aの質問集➀

<本連載について>
本連載を読まれている先生方も1度は「事業承継」という言葉を聞かれたことがあるのではないでしょうか。事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのかわからず悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では、『院長・家族・職員・患者、みんなが幸せになる事業承継』をテーマに院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えられるような気付きを提供いたします。

この記事について

一般企業とは異なり医療業界のМ&Aは情報がほとんど公にならず、ブラックボックスに包まれているため、実際にМ&Aを進めているお客様からは多くの質問を頂きます。「事業承継は何歳ごろから検討し始める?」「従業員の処遇はどうなるの?」「М&Aをしたら即引退できるの?」、このような身近な疑問から少し細かい論点まで診療所М&Aの気になるを一問一答形式で回答していきます。

1.事業承継を考え始める『ベストタイミング』は何歳ごろ?

診療所の事業承継を考える時期はいつが最適なのか個別の事情はありますが、体力・気力・業績も順調なうちに検討を始めるほうが良い結果が生まれることは間違いありません。開業から数十年が経ち、診療所の業績も順風満帆、腕にも磨きがかかり、息子は勤務医として働き、次男は医学部在学中。このように先行き不安がほとんどなく余裕のある時は、様々な情報を整理整頓し、時間に余裕を持って検討・決断ができるからです。

時期はいつが最適なのかと問われれば、「60歳を超えたら」とお答えしています。世間では定年退職を迎える65歳が第二の人生のスタートと呼ばれ、新しいライフプランを考えるタイミングでもあります。長年付き添い支えてくれた奥様が好きな旅行を一緒に楽しむ、趣味の釣りを毎週楽しめる場所でゆっくりと暮らす、孫の世話を間近で見てあげるなど色々な場面が思い浮かびます。

開業医の事業承継が数ヶ月で何事も無く済んだという事例は極めて珍しく、大抵は数年単位で子供・家族・親族と話し合いや相続に向けた打合せなどが税理士事務所と行われます。大事な事は「事業の承継」と「財産の承継」をしっかりと分けて考えることで、「事業の承継」は早いと感じるくらいが丁度良く「検討は早めに、決断は慎重に」が鉄則です。

2.診療所をМ&Aで譲渡すると従業員の処遇は変わるの?

基本的にM&Aにおいて従業員の雇用や処遇は維持されます。特に診療所のM&Aでは従業員が大切に扱われます。なぜなら、新任の院長は初めての経営を任されながら診療も行わなくてはいけません。

慣れない環境で仕事をしなければならず不安のなかフォローしてくれるのが従業員です。患者の性格や要望への対応、書類の場所から問い合わせ対応の方法まで院内の全てを知り尽くす従業員は院長にとっても大切な存在です。診療所のМ&Aは資産や患者だけでなく従業員も引き継いで初めて成立しますのでどうかご安心ください。

3.診療所をМ&Aで譲渡すると法人名や診療所名は変わるの?

М&Aをした後も「法人名・診療所名は残して欲しい」あるいは「すぐに変えてもらいたい」という質問はよく聞かれます。田中医院・佐藤クリニックなどのように院長の名前が診療所名に入っていることも珍しくありません。

結論、法人名や診療所名の変更はМ&Aをする際の要望として買い手に提示することができ、残してもらうことも変えてもらうことも可能です。病院の場合は法人名・病院名をそのままで維持することが多いのですが、診療所の場合は「変える」と「そのまま」が五分五分くらいです。

4.М&Aで診療所を譲渡したら理事長・院長は退任しなくてはいけないの?

M&Aをしたら必ず退職しなければならないのかというと必ずしもそうではありません。「徐々に勤務日数を減らして2年後に引退したい」「週2だけ非常勤として勤務したい」このような希望を出して叶えられた先生もこれまで多くいらっしゃいました。

例えば、お相手が勤務医から開業を目指したような個人の医師であればМ&A後すぐに診療所で務めることもできますが、大手病院グループなど組織体が大きければ誰を新しく後任とさせるか人事の調整に時間がかかることもあります。

その際、数年間は継続勤務して欲しいという要望が買い手から出てくることもあります。М&Aを検討する際は、院長がこれからどのような働き方・暮らし方をしたいかまで要望としてお話頂きます。その上、可能な限り希望を叶えてくれるお相手も見つけるのがコンサルタントの役割のため遠慮せずに要望を伝えましょう。

5.「出資持分のある医療法人」が運営する診療所を譲渡する時はどんな手続きをするの?

診療所を運営する経営主体や譲渡対象によりМ&Aに必要な手続きは変わります。今回は経営主体の中で最も多い医療法人について基礎知識として認識頂きたい内容を簡潔にお答えします。

病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院の開設・所有を目的として設立された法人を医療法人といい、「社団医療法人」と「財団医療法人」に大別されます。全体の約99%を占める社団医療法人は、更に「出資持分のある医療法人」と「出資持分のない医療法人」に区分することができます。

出資持分とは医療法人を設立する際に出資した人がその出資額の割合に応じて払い戻すことができる権利をいい、詳細説明は控えますが出資持分は「財産権」と言い換えることができます。

また、医療法人には株式会社の株主に相当する「社員」という概念があり、社員総会は医療法人における最高意思決定機関です。特徴的なのは株式会社のように出資割合に応じた議決権ではなく、1人1個の議決権を有している点です。つまり、社員は「経営権」と言い換えることができます。

医療法人を譲渡する際は、財産権である「出資持分の譲渡」と経営権の移転するために「社員の入退社」が大原則として行われМ&Aが成立します。今回は「出資持分のある医療法人」を前提にしましたが、「出資持分のない医療法人」や「個人」の場合も別の機会に説明します。

日本M&Aセンターの基本情報

日本М&Aセンターは、設立30年で累計6,000件以上の成約実績を誇り、日本で最も事業承継の支援をしてきた会社です。病院・診療所・介護事業の第三者承継(М&A)を毎年約100件成功に導いてきた医療・介護分野の専門集団『医療介護支援部』が診療所の事業承継を支援します。また、当社が運営する『医新伝診(イシンデンシン)』は、診療所を誰かに引き継ぎたい医師と開業を目指す医師をマッチングする医師専用WEBサービスで、数百名を超える医師にご利用頂いています。

医新伝診

この記事の著者/編集者

西山賢太 日本M&Aセンター 事業承継コンサルタント 

日本M&Aセンター医療介護支援部コンサルティング室所属。薬剤師・調理師・医療経営士。
薬剤師免許取得後、経営コンサルティング会社にて病院の事業計画策定・病床機能転換・新築移転業務に従事。その後、社会福祉法人恩賜財団済生会支部埼玉県済生会川口総合病院にて薬剤師としての実務経験を得た後、日本M&Aセンタ-に入社し、病院・クリニックの経営改善や事業承継を支援している。

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事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのかわからず悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では、『院長・家族・職員・患者、みんなが幸せになる事業承継』をテーマに院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えられるような気付きを提供いたします。

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