連載藤田和子氏:しなやかさと力強さで創る認知症になってもだいじょうぶな社会

#02 認知症のことについて決めるときに、 私たちを抜きに決めないで!

藤田和子さんがサインをするときに書くことばとは、「笑顔を忘れず歩んでいこう♡」 「すべての認知症の本人とその周りでともに歩む人が、笑顔でいられる社会をみなさんとともに創っていきたい」というメッセージである。  どうすれば「認知症になってもだいじょうぶ」であることが可能になるか。その答えが、著者が渾身を込めて綴った本書に描かれている。  5月28日に東京で開催された出版記念会では、しなやかで力強い著者の話が聞けた。  (全2回) ― 株式会社メディア・ケアプラス 松嶋 薫 ― (『ドクタージャーナル Vol.23』より 構成:絹川康夫, デザイン:坂本諒)

アルツハイマー病とともに歩んだ10年間は幸福なことが多かった

藤田さんがこの本で語るもう一つのポイントは認知症の進行について。認知症というと初期も中等度も高度の時期も一緒に考えられてしまうことがある。本書で藤田さんは「今の社会の中にある認知症の人」のイメージはどのようなものでしょうか?」と問いかける。

そして、「『年をとったら認知症になる』『何もわからなくなる』『自分が自分でなくなる』『もの忘れをする』『周りの人に迷惑をかける行為をする』『認知症になったらおしまいだ』などなど……。何の希望も持てないマイナスのイメージが多いのではないでしょうか」と書く。

そして「私がアルツハイマー病とともに歩んできた人生の10年間は、予想に反して幸福なことが多かった」と上記の認識を覆している。

認知症という言葉はのあいまいさ

「人間関係が大事であり良い環境をつくるには、周りにいてくれる人との良い関係ができていることが必要だと思います。そのためには、早くに病気が発見されることが重要になるのですが、『早期』とか『初期』ということがどういう状況なのか、あまり知られていないのが実情ではないでしょうか。」

「そもそも認知症という言葉はとてもあいまいです。認知症は病名ではありません。認知機能が低下していく原因になる病気(原因疾患)があるのですが、診断はむずかしいとよく耳にします。たしかに原因疾患は130種類以上もあるといわれていますから。しかし、中には服薬や手術をすれば治る認知症もあります。私の場合はアルツハイマー病と診断されたのですが、根拠ある検査で診断をきちんとしていただけたので自分でもそうなんだと納得しています。」

藤田さんはこのように述べ、早期にきちんと診断され、周囲の人とともに歩むことができれば、もっと良い人生を歩める認知症の人が増えていくと話す。

「早期発見がふつうになっていく社会を創ることですね。そのためにも異変を感じたら、恐れることなく私は受診する方がいいと思います。がん検診と同じようにある年齢になったら、脳の検診も受けられるようになればいいのではないでしょうか。」と藤田さん。

島村さんは「早期診断を阻む理由の一つに認知症であると診断された時に傷つくのが怖いということがあると思います。せっかく今までとは違うと思い、自分に起こっていることを知りたいと意を決して受診したのに、きちんと調べてくれないなら“来なければよかった”となってしまう。藤田さんが現在受診している先生は、藤田さんと同じ方向を見つめながら治療を続けてくれていますが、そこまで医師との信頼関係が結べない人もいると思います。空白の期間をつくらないような医療が必要だと思いました。」と現状を見ている。

藤田和子さんと川口寿弘さん

2つの意味で認知症を自分のこととして考えてください

次に登壇したのは、鳥取で藤田さんたちが作る「若年性認知症問題にとりくむ会・クローバー」でともに活動をしてきた川口寿弘さん。

藤田さんと出会ったのは、藤田さんたちが学校で「人権を考える会・たんぽぽ」を立ち上げ、そこに話題提供者として招かれた時からだとのこと。本書の「はじめに」にも書かれているが、新聞の記事について「認知症について正しく伝えてほしい」と新聞社に掛け合った。

その後、記者が藤田さんの家に何度も来てくれ、最終的に特集で記事を書くことになったのだが、そのときにも川口さんが関わった。「それから10年、認知症、アルツハイマー病についての捉え方も変わってきていると改めて思った。」という。

「藤田さんはいつも認知症を自分のこととして考えてくださいと話します。意味するところの一つ目は、もし自分がアルツハイマー病になった時にどう生きていきますかということ。それから二つ目は、認知症になっていなくても、これまで認知症についてどのように考えてきたのか。もし、関係ないとしてきたのであれば自分の問題として考えてほしいということだと思います。この二つ目がないと他人事になっている。」と話した。

『そんな社会を創っていこうよ』 の目指すところ

現在はリンクワーカーや認知症初期集中支援チームがある。でも10年前は、認知症についての社会の認識はほとんどなく「私は自分がアルツハイマー病と診断されたので、たんぽぽの会を今後どうするのかと川口さんに相談に行ったのでしたが、その時に認知症については偏見があり、理解が得られていないということを話し、そこを何とかしなければいけない。そもそも認知症への偏見は人権問題だということになり、クローバーの立ち上げにつながりました。」と設立のいきさつを語る。

会を立ち上げた後も藤田さんが講演すると「認知症の人に支援がいるのですか。支援が必要なのは家族の方ではないでしょうか。」と聞かれることもあった。

川口さんは本書タイトルにある、『そんな社会を創っていこうよ』の意味とは、「“今はまだそんな社会ではない”という告発であり、当事者の方に一緒にやろうよという呼びかけであり、周りの方に一緒にやっていこうよと連携を呼びかけることだと思います。この本がこれからの社会を変えられることにつながればと思います。」と結んだ。

当日は本書を読んだ当事者の方が、手書きの文を持参して参加した。64歳のその男性は、「14年間住みなれた家を出たとたんに方向が分からなくなり、違う風景に見えてしまった。自分に何かが起きていると感じて受診した結果、アルツハイマー病と診断されました。」と辛い思いを告白し、そんなときに本書を読んで希望を持てたと感想を述べた。

藤田さんは「認知症になったら社会から排除されてしまう。その人がしたいことができない。行きたいところに行けないというのはおかしいと思います。クローバーの会のマーク四葉のクローバーの葉には、ことばを受けとめて一緒に考えていく本人、家族、支援者、社会という4つの意味を込めています。認知症になると辛いことも多いですが、そればかりではないのですから。」と励ました。

認知症のことについて決めるときに、 私たちを抜きに決めないで!

最後に登壇したのは認知症介護研究・研修東京センター研究部長の永田久美子さん。

「最初にクローバーの会で藤田さんに会った時に、“私たちのことを私たち抜きで決められてしまいます”私たちは声を上げていきたい。と話してくれました。常識を変えていく勇気のいる一歩だと思いました。重要なことは藤田さんが声を上げるのは、声を上げたくても上げられない人たちがいて、その人たちも含めてみんなで本人の声を伝えていきたい。本人だからこそわかることを伝えて、希望をもって暮らせる社会を一緒に創っていきたいという切実な願いに根差している点です。そうした思いから2014年には日本認知症ワーキンググループを設立して、本日もここに来られている佐藤雅彦さんと共同代表として積極的に行動しています。同グループは、メンバーの声を集めて厚生労働省に提案書を持って行ったり、運転免許に関して警察署に提案を届けたりするなど、先延ばしにせずアクションしていく姿がすごい。こぶしを振り上げるのではなく、切なる声を原動力にして前向きな提案をしていることがお役人や社会の人々に響き、共に創る確かな流れが生まれてきている」と、藤田さんたちの活動について解説しエールを送った。

同グループは一方的に主張を通すというのではなく、「決めるときには本人の声を入れてほしい」と提案している。

藤田さんは「みなさんとつながっていくことで、声を出しやすくなります。今後、日本認知症ワーキンググループは、運転免許や障がい者手帳を認知症の人が使いやすくする見直しなどについて取り組んでいくところです」とこれからの抱負を語る。

一歩先を歩む藤田さんだが、決して一人で歩むのではなく、700万人とも言われる認知症の人たちと、そして社会のさまざまな人たちとともに歩もうとしている。このことを本書で具体的に示している。

認知症になっても大丈夫!そんな社会をつくっていこうよ
『認知症になっても大丈夫!そんな社会をつくっていこうよ』藤田和子・著

この記事の著者/編集者

藤田和子   

鳥取県出身、鳥取県鳥取市在住。認知症の義母を9年間介護し、その後看護師として勤務中の2007年に自身がアルツハイマー病と診断された。以来、鳥取県で「若年性認知症問題にとりくむ会・クローバー」を立ち上げるなど、認知症の人も誰もが生きやすい社会をめざして講演や執筆を続ける。若年性認知症問題にとりくむ会・クローバー副理事長、日本認知症ワーキンググループ共同代表。 本年3月に著者を取材しNHK総合で放送されたドキュメンタリードラマ『母、立ちあがる』が第54回ギャラクシー賞奨励賞を受賞。

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