緩和ケア診療所・いっぽ 理事長  小笠原一夫 氏
連載ホスピスケアをムーブメントと捉え、 患者の権利が基本の在宅ホスピスケアに取り組む

#06 病院から自宅に戻ってきた患者さんの笑顔を、たくさん見てきました

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「医療法人一歩会 緩和ケア診療所・いっぽ」の理事長 小笠原一夫氏は、在宅ホスピスの草分け的存在で、群馬県のホスピス運動の先駆者でもある。 勤務医時代に、患者の権利が無視された医療による数多くの悲劇に接してきて、患者の権利を基本にした医療を立ち上げたいと、在宅ホスピスケアのクリニックを開設した。 終末期がん患者の在宅ホスピスケアや、電話相談「がん110番」、がん患者・家族会の設立など、地域包括ケアを見据えた医療・介護・福祉ネットワークづくりなどの社会貢献活動が評価され、同氏には平成29年度第69回保健文化賞が授与された。 (『ドクタージャーナル Vol.24』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)

病院には自分の暮らしがない。

私が診た緩和ケアの患者さんで、緩和ケア病棟と在宅緩和ケアの両方を経験している患者さんが何人もいます。

その方たちに、一般病棟での治療と自宅での治療のどちらが良いか聞くと、皆さん当然自宅のほうが良いといいます。

では緩和病棟はどうかと聞くと、限りなく一般病棟と変わらない。というのです。中には緩和病棟よりも一般病棟のほうが良いと答えた患者さんもいました。

これは何を意味しているのでしょうか?

また、緩和ケア病棟で「せん妄」を起こしてしまった患者さんがいました。

対処に困り果て、医師からは、もう眠らせるしかない。という話が出た時に、家族が「かわいそうだから、それならば家に連れて帰ります。」ということになりました。

ところが家に帰った翌日から、その患者さんの「せん妄」が無くなったのです。

おそらくメンタルな面が大きく、私はこれを「入院せん妄」だと思っています。

患者さんからのSOSで病院から家に連れ戻す

ある患者さんの事例ですが、この方は病院に入院していた80歳代の男性で、「せん妄」を起こしているということで拘束されていました。

しかも誤嚥の可能性もあるということで、経口での食事はさせてもらえず、そのような状態が1週間ほど続いていました。

見かねた奥さんから私はSOSを貰い、半ば強引にその男性患者さんを病院から自宅に連れ戻しました。

自宅に戻られたその患者さんは、家族にありがとうと感謝しながら、おいしそうに水を飲み、翌日には気持ちよさそうに訪問入浴も受けていました。

私は、そのような病院から自宅に戻ってきた患者さん達の笑顔をたくさん見てきました。

緩和ケアは、患者さんの痛みをとるだけと思われがちですが、決してそうではありません。行き過ぎた医療に対するアンチテーゼでもあるのです。

大きく変わってきている最近の家族の在り様

当初、病院から連れ戻していた患者さんの特徴は、本人や家族の意識が高く、家族関係が非常に良好で、経済力もある、仲の良い夫婦とか、関係が良い3世代家族で高齢者の面倒を見る家族がいる、というような恵まれた人達でした。

しかし今は大きく変わってきていて、家族関係も実に様々です。

また驚くべきことに、在宅医療をしていて、中年の引きこもりの子供がいる家庭が実に多いということに気付きます。

彼らはロスト・ジェネレーション世代で、特に障害とかがあるわけでなく、人生のどこかで失敗して社会に出らなくなっている人たちです。

それと貧困層の多さも最近の特徴です。

さらには高齢者が増えているので認知症も増えています。今、在宅医療では認知症は避けて通れなくなってきています。

中には介護者が認知症というケースもあります。

例えば高齢者の夫が認知症で入院している場合、本人が家に帰りたいと言っても、家にいる介護者の妻に軽い認知症があったりすると、自宅での介護は無理と判断し患者さんを退院させません。

病院が考える家族の介護力とは、看護師の代わりを行うようなイメージですが、そんなことは決してありません。

そのような環境でも、在宅ケアがきちんと関与することで、患者さんの生活が上手くいくこともあるのです。

(続く)

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この記事の著者/編集者

小笠原一夫
小笠原一夫 緩和ケア診療所・いっぽ 理事長 

医師:麻酔科医 専門:ペインクリニック、緩和ケア、在宅医療 群馬県在宅療養支援診療所連絡会会長、群馬大学医学部臨床教授、高崎地域緩和ケアネットワーク会長。1976年群馬大学医学部卒業。1987年群馬県ホスピスケア研究会の立ち上げ初代代表。1991年「ペインクリニック小笠原医院」を開設し在宅ホスピスケアに本格的に取り組み始める。2008年「緩和ケア診療所・いっぽ」と名称変更。地域緩和ケアの専門診療所として開院する。2017年 第69回保健文化賞受賞(主催:第一生命保険株式会社 後援:厚生労働省、他)

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