#06 高瀬義昌氏「システム・スタビライザーが必要」

東京都大田区で訪問診療を中心に取り組む「たかせクリニック」。院長の髙瀬義昌氏は臨床医学の実践経験・家族療法の経験を生かし、「高齢者が安心して暮らせる街」作りに取り組んでいる。 高瀬義昌氏の活動は、24時間在宅診療、医師会、地域ケア行政、日米医学医療交流、執筆、テレビ、マスコミでの啓発活動等、幅広い分野に及んでいる。 「認認介護」という言葉で、認知症の人が認知症の人を介護しているという現実を最初に訴えたのも高瀬義昌氏だ。 同氏は、在宅療養空間というシステムを安定させること、『システムスタビライザー』として機能することが在宅医療の役割だという。 (『ドクタージャーナル Vol.17』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

システム・スタビライザーが私の役割

在宅医療や地域包括ケアが上手く機能するためには、そのシステムを安定化させるためのカギがどこにあるのかを探り、どのスイッチを押せば時間と費用の効率化が図れ、最大限の効果を生み出すことができるかを考え実行する役割が必要です。

それを私はシステム・スタビライザーと名付けています。私の役割とはまさにそのシステム・スタビライザーだと思っています。

そして最大限の効果を生み出すカギはチームワークやネットワーク、フットワークというキーワードにあり、それらをシステムの中で効率よく動かしてゆくことが、今の私の仕事の面白さでもあります。

ホメオスタシスとか恒常性維持というように、人間の体はいろいろな機能を持ったそれぞれのパーツが無駄なく集まり一個の総体となって効率よく機能的に生体の状態が保たれています。

そのことを社会にも投影してみたら、同じことが言えるのではないでしょうか

世の中も一つの生き物と考えられます。地域包括ケアも、厚生労働省、医師会という組織も一つの生き物といえる。それぞれにシステム・スタビライザーは必要だと思います。

在宅療養空間システムを如何に安定させるか

地域のシステム・スタビライザーを自称する私にとって、在宅療養空間というシステムを如何に安定化させるかが重要なテーマです。

そのためには在宅療養の継続を阻害する種々のリスクを明確にし、それに対してのリスクマネジメントのプログラムを作り、参加する人たちが各々の役割を果たしてゆくという、全体がサイコドラマのような形で、トータルで在宅療養空間が安定して継続できるような仕組みをデザインすることが重要だと考えています。

と同時に、在宅医療空間が破たんする時があります。在宅の患者さんが、せん妄が起きたり骨折したり、肺炎などの感染症になったり合併症を起こしたりした場合です。これは認知症に限ったことではなく、老化によっても起きます。

その時に薬とケアでベストマッチングに持っていくことも大切です。

それをチームでモニタリングしながら患者さんにとって最適な在宅医療のPDCA(Plan・計画 → Do・実行 → Check・評価 → Action・改善)サイクルをチームで回すことを、それぞれの医師や看護師やケアマネジャーがデザインできれば素晴らしいと思います。

この記事の著者/編集者

高瀬義昌 医療法人社団 至髙会 たかせクリニック 理事長 

医療法人社団至髙会理事長、医学博士、認知症サポート医。
1984年、信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了、医学博士。麻酔科、小児科研修を経て、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年、東京都大田区に在宅医療中心の「たかせクリニック」を開業する。在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。『はじめての認知症介護』『自宅で安らかな最期を迎える方法』など著書多数。

この連載について

在宅医療のフィールドを使ったハイパフォーマンスヘルスケア

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。