クリニック選びは慎重に。TMS市場の現状 #02
連載:【TMS療法、自由診療の現場から】エビデンスを読み解けば効果の高さがわかる
2023.10.28
医療法人社団こころみ東京横浜TMSクリニックでは、正しい情報発信とぎりぎりまで抑えた料金体系、質の高い医療の追求を通して、数多くの患者を治療してきました。専門スタッフが統計解析して学会発表や論文投稿などの学術活動にも取り組み、ノウハウを蓄積しています。一方でTMS療法の複雑さを逆手に取り、効果が見込まれていない疾患に対する効果を宣伝したり、誇大広告を打つクリニックもあり、そうした業者も多くの患者を集めてしまっているのが現状です。
こうした背景を踏まえ、本記事ではこころみクリニックの経緯とクリニック選びのポイントについて伺いました。
――元々は心療内科全般のクリニックを開業されて、その3年後にTMSを専門にする東京横浜TMSクリニックを開設されたと伺っています。これはどのような経緯だったのでしょうか?
大澤:医療というのは属人的なサービスなので、質の高い医療を継続しようとすると、良い医療者を確保し、安定して勤務いただくことが必要不可欠です。経営者としてコンスタントに質の高い医療を提供するには、こうした採用・労務管理の難しさがあります。
そんな課題感を持っていた時期に、TMS療法に注目しました。TMS療法は当時、有効性と安全性が示されて保険適用になったものの、まだ新しい治療法のためあまり普及していない状態でした。専門のクリニックを立ち上げることで、rTMS療法を勉強したいという向上心ある人材の獲得と、私たちの医療法人にしかできない強みを作りたいと考えました。
加えて、ビジネスが主目的となり、誤ったTMS療法を提供している業者(医療機関)が少なくなく、問題意識を持っていました。そうした誤った治療の被害者がたくさんいらっしゃるなか、エビデンスのある治療を届ける医療機関は社会にとって必要だと思いました。
――誤った治療をしているクリニックはどう見分ければいいんでしょうか?
大澤:たとえば過度な効果を謳っているところはおかしいと気付けます。8割9割の効果を謳っている所はエビデンスに基づいていません。そんなに劇的に効くなら、そもそも薬は使われずに広く保険適応となって普及していますよね。世界中の医療機関で行われている治療法ですから、良い手法などがあればすぐに広まっていきますので、あるクリニックだけ並はずれて効くということはありません。
発達障害の患者さんに導入しているクリニックも危険で、日本精神神経学会も声明を出して警告しています。ADHDやアスペルガー症候群といった発達障害は明らかに適用外で、その特性自体に対する効果が示されていません。しかし発達障害の方は一度考えを持つと固く信じてしまう傾向があるため、効果があるという広告や説明を受けると騙されやすいんです。そこを狙ってビジネスをしているということです。
さらに、TMSの機械は子供の頭のサイズに合っておらず、じっとしていることも苦手ですからズレてしまいます。安全性は高いといわれている治療法ですが、発達途上のお子さんにどのような影響があるかわかっておらず、子供に導入しているクリニックにも注意が必要です。
東京横浜TMSクリニックでは、適用外の疾患である発達障害などでご相談された方は、予約の段階でお断りしています。また、薬から試した方がいいと考えられる患者さんもいらしたので、そのように説明してお薬から始めてもらったこともあります。
こうした患者さんに正しい説明をせず、とにかくTMS療法を使ってしまうクリニックでは、症例数の多さを謳っていても適用外の患者さんの人数が多いので注意が必要です。
正しい知識や臨床データは、我々が主催している「精神科医のためのTMS治療実践セミナー」でもお話ししました。開業医をはじめとして、TMS療法に携わっている医療者に参加していただいています。専門家でも懐疑的な目を向ける方はまだいますが、治療者として実際に携わったりデータをちゃんと解釈すれば、とても可能性のある治療選択肢であると理解いただけると考えています。
――こころみクリニックはTMS療法を含めて提供している治療の幅が広く、症例数やノウハウも蓄積されていますね。一方、料金設定は非常に良心的な印象を受けました。
大澤:TMS療法に関しては、収支がほぼプラスマイナスゼロになるような料金に設定しています。本来であればもっと利益を出せるところですが、今はエビデンスの蓄積と臨床研究が必要な段階だと考え、低い価格に抑えることで症例数を増やし、統計データをもとに研修や学術活動にリソースを割いています。
――営利ではなく患者さんに合った治療を提供するというモチベーションが、クリニック経営のベースにあるのでしょうか。
大澤:私自身は精神科医で、元々は産業医に興味を持って企業嘱託医をしていました。クリニックも、産業医としてのサービスを充実させるための手段として仲間とスタートした医院です。今でこそ首都圏に大きく展開できていますが、はじめは知り合いに声をかけ、少しずつ掛け持ちしながら、それぞれのシナジーを働かせてやってみようという取り組みでした。もちろんやってみたら、組織運営というのはそんなに甘いものではなくて、なんとか人の縁でここまで大きくなってきたところです。先輩や後輩、同級生が協力したいと声をかけてくれたのが大きかったです。おかげさまで面白い仕事ができていて、せっかくここまで基盤ができたのだから自分にしかできない仕事をしたいという思いも強くなり、クリニック運営に注力するようになりました。そして増えてきたメンバーにも夢や希望を与えたいなという思いが、さまざまな取り組みをする上でのモチベーションになっています。
さらに医療の視点でいうと、2つの目標があります。TMS療法しかり、メンタル疾患はどの医療機関と出会うかで人生が変わるといっても過言ではありません。「こころみならひと安心」と思っていただけるよう、経営を通して社会インフラとしての仕組みを作っていきたいと考えています。そしてよい医療を行うにはお金がかかります。現状の保険診療では「数」で評価される医療となっていますが、「質」で評価できる仕組みづくりを目指しています。
次回の記事では、自由診療と保険診療の比較についてお伝えします。
【医療法人社団こころみ】
東京横浜TMSクリニックHP:https://www.tokyo-yokohama-tms-cl.jp/
こころみクリニックホームページ:https://cocoromi-mental.jp
森口敦 ドクタージャーナル東大生チーム・コーチ兼メンター