自由診療を選ぶべき理由とは 保険診療と比較したメリット・デメリット #03

今回取材している東京横浜TMSクリニックは自由診療のみを提供しています。治療方法や治療対象、料金体系などに自由度が高い自由診療。過去の記事でとりあげた保険診療とはどのように異なり、どのような患者におすすめできるのかをお聞きしました。

――お薬という選択肢もある中で、こころみクリニックではどのような患者さんにTMS療法を勧めていますか?

大澤:

TMS療法の最大の利点は、集中治療を行えば短期間で効果が出ることだと考えています。自由診療の場合は入院せずに通院して貰えば良いため患者さんの負担も軽く済みますし、お薬への抵抗がある方も治療をうけやすいことも利点です。当クリニックでは自由診療をおこなっているため、厳しい保険診療の基準に当てはまらない患者さんにもお越しいただいています。このように、短期間で治療したい方、薬を使いたくない方、保険診療が難しい方などがいらっしゃった際は、当院でのTMS療法をおすすめしています。

当クリニックの特徴として、2倍量のiTBS(シーターバースト刺激法)を使っています。パルスは多い方が効果が高いということは以前から指摘されていたことですが、台湾を中心に3倍量のプロロング法で良好な臨床成績が報告されており、当院では標準治療を2倍量としています。

ただし、維持療法はまだデータが蓄積されておらず、どのようにTMS療法を行っていくかの正解はありません。その必要性などは、これまでの精神科医としての臨床経験が重要となります。

――自由診療での治療が主流となっている現状にはどのような背景があるのでしょうか?

大澤:保険診療の適応項目は厳格なので、条件に当てはまる患者さんが少ないことが大きな理由です。基本的には入院する必要があり、1回の施術につき約1時間と長い時間がかかります。さらに保険診療を提供できる病院は限られているので、しばらく空きがなく、数ヶ月待たなければならない場合もあります。

自由診療と保険診療はどちらが優れているということはなく、それぞれにメリットと注意点があります。

病院側としては、高額な機器を購入しなければならない上に1回の診療で消耗品に1万円程度かかるため、1回の保険診療での医療費は1万2千円ほどになりますので、採算が合いません。したがって、患者さんに入院してもらわないと利益を確保できないという事情もあるんです。

また自由診療では、保険適応のプロトコールに縛られることがありません。欧米の最新プロトコルを導入しながら、柔軟に実施することができるというメリットもあります。たとえば当クリニックでは、TMS機器の扱いはおもに臨床検査技師さんが担当しています。医師が採血するより看護師さんの方が上手なように、医師がやるよりも、毎日機器を扱う専門のスタッフが扱う方が施術は上手になるんです。医師は臨床経験が豊富な精神科医が対応し、「判断」をしていきます。

自由診療は誰でも導入できるため、医療機関としての倫理観にばらつきがあったり、費用に幅があったりする点も特徴です。当クリニックのようにエビデンスに基づいた治療を行いながら利益を抑えて低い価格設定をしているクリニックは少なく、なかにはビジネス色の強い医療機関があるのが現実です。

――臨床検査技師の方は、資格を取る時にTMSの練習をされるんでしょうか?

大澤:いえ、TMS療法のことは知らない技師さんのほうが圧倒的に多いと思います。体系的に教育している医療機関も皆無ですので、私たちでは研修体制を構築しており、OJTの形で技術習得を行っていきます。ここにも適切なTMS治療の普及への課題を感じておりまして、当クリニックではノウハウを共有するフランチャイズ展開を進めています。動画や文章でのマニュアルを用意しており、現在は鹿児島と岡山のクリニックさんと提携しています。

我々はエビデンスを蓄積してマーケットを広げていく活動もしているので、代理店さんにも様々な協力いただいており、統計協力いただける医療機関様にはどこよりも安価に、機器や消耗品を提供できます。TMSを新規に始めるとなると受付の流れから機器操作まで手探りの状態からスタートする必要があるので、我々がフランチャイズ契約という形でTMSの導入支援することで、知識や技術、集患といった面もサポートできています。

現状は悪徳業者の誇大広告などが厳しく、誠実な医療を提供するとなるとビジネスモデルとしては厳しい部分もあります。しかし全国的なシェアを伸ばしてスケールメリットが強まれば、将来性のある取り組みだと考えています。

――患者さんは日本のどのような場所からいらっしゃるんでしょうか?

日本全国から、ときには海外からもいらっしゃいます。短期集中治療ができるので、休暇を利用してビジネスホテルに3週間くらい宿泊していかれる方も多いです。

特に地方からいらっしゃる方は、かなり調べて来られる方が多い印象です。当院は情報発信に力を入れている分、多くの方にリーチしていると感じています。今後さらにわかりやすいコンテンツを増やしていきたいと考えていて、患者さん向けにも動画制作をお勧めしています。

――こころみクリニックの特徴はどのような所にあるとお考えですか?

法人として、コンセプトを持って診療していることだと思います。

これから先、専門性が低い医療は、オンライン診療やAIに置き換わっていくと考えています。我々はこれを見据えて、逆に専門性が高く、流行によらず必要とされる医療を追求しようとしています。

たとえば血液系の希少疾患は、医療の発達によって患者さんが生きられるようになったので、みなさん働かれています。しかし血液を専門にしている医師が少ないので、患者さんは朝から仕事をお休みして病院に行って、長時間待って1日がかりで病院を受診しているような状況です。そこで、患者さんが夜に働いた帰りに寄ることができるクリニックがあると良いと考え、社会生活と治療を両立できるように、「21時まで診療の血液に強みを持つ総合内科クリニック」をコンセプトとした上野御徒町こころみクリニックを、2022年4月に開設しました。

また、コロナ感染が広まったことで発熱診療は電話のみの対応が中心となっていたことに問題意識を持ち、スマート発熱外来とオンライン診療に特化した「元住吉こころみスマートクリニック」も2022年8月に開設しました。周辺総合病院の多くの医師が勤務してくださり、協力して通院頻度や待ち時間の長さを抑えたスマートな診療を目指しています。

こうして社会問題の解決も意識しながら運営しているところは、当クリニックの特徴だと考えています。

――今後目指す所はありますか?

大澤:このように様々な取り組みをしてはおりますが、私自身は精神科医として、だれもが標準的な精神医療を受けられる世の中になってほしいと考えています。精神科の収入は患者の数で算定されてしまう仕組みになっているので、診療の回転率を上げることに注力し、診断書だけ素早く書いて次から次に診療していくような医療機関もあるのが現状で、そちらのほうがビジネスとしては成功してしまいます。その人の人生において休職などは非常に大きなポイントですし、またお薬も出口を見据えて提案していかないと、最終的にはその人の人生を左右し、社会の生産性も低下してしまいます。良い医療がしっかりと評価され、そうした医療機関が増えていく世の中にしたいと考えています。だから私たちは、‘「こころみ」なら「ひと安心」'という言葉を掲げておりまして、スタッフの行動規範として、「友達や家族を紹介できる医療をやろう」としています。

まずは自分達の目の前の患者さんに質の高い医療を提供していくこと、さらには法人として小規模クリニックの開業支援・運営支援を含めた医療連携をして、同じような価値観の医療機関を増やしていくことにチャレンジしています。個人開業よりもメリットがある形になっているので、こころみグループとしてスケールメリットを最大化し、「数」で評価される世界から「質」で評価される世界に持っていきたいです。企業も社員のメンタルが不調になった場合の機会損失って非常に大きいですから、そうした質の高いサポートに価値を感じてくれる企業さんに向けてサービスを作り、アプローチしていきたいと考えています。

それを保険診療でやっていくことにはまだ限界があって、自由診療をフィールドにしていきます。もちろん組織として、患者さんを集めないと生き残れませんから、一定数の患者さんを集める努力はします。しかしそれ以上は数ではなく質を追求していくことで、こころみの治療は安心でできると思ってもらえるというブランドを作っていこうと考えています。

あとがき

自由診療の現場から伝えるTMS療法をテーマに取材した本連載。大澤先生はTMS業界の課題に直面しながらも誠実な医療によって治療実績やノウハウを着実に蓄積していらっしゃること、また取材の際には今後の展望を楽しそうに語る姿が印象的でした。エビデンスのある医療が患者さんに届くために、自由診療から、患者に寄り添う診療が広まっていくことを願っています。

【医療法人社団】

東京横浜TMSクリニックHP:https://www.tokyo-yokohama-tms-cl.jp/

こころみクリニックホームページ:https://cocoromi-mental.jp

この記事の著者/編集者

ドクタージャーナル編集部(中条)   

薬学・生物学を専門的に学んだメンバーが在籍。ミクロな視点で最新の医療を見つめ、客観的にその理想と現実を取材する。科学的に根拠があり、有効である治療法ならば、広く知れ渡るべきという信念のもと、最新の医療情報をお届けする。

この連載について

【TMS療法、自由診療の現場から】エビデンスを読み解けば効果の高さがわかる

連載の詳細

最新記事・ニュース

more

遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。

人工内耳の発展によって効果や普及率が格段に高まってきた現代。今だからこそ知りたい最新の効果、補聴器との比較、患者さんにかかる負担について伺いました。重度の難聴を持つ患者さんが、より当たり前にみな人工内耳を取り付ける日は来るのでしょうか。

本連載の最後となるこの記事では、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、これからの悠翔会にとって重要なテーマや社会的課題、その解決に向けてのビジョンについて伺いました。

こころみクリニックは正しい情報発信とぎりぎりまで抑えた料金体系、質の高い医療の追求を通して、数多くの患者を治療してきました。専門スタッフが統計解析して学会発表や論文投稿などの学術活動にも取り組み、ノウハウを蓄積しています。一方でTMS療法の複雑さを逆手に取り、効果が見込まれていない疾患に対する効果を宣伝したり、誇大広告を打つクリニックもあり、そうした業者も多くの患者を集めてしまっているのが現状です。 こうした背景を踏まえ、本記事ではこころみクリニックの経緯とクリニック選びのポイントについて伺いました。

前回記事に続いて、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、「死」に対しての向き合い方と在宅医が果たすべき「残された人生のナビゲーター」という役割についてお話しを伺いました。

人工内耳の名医でいらっしゃる熊川先生に取材する本連載、1記事目となる本記事では、人工内耳の変遷を伺います。日本で最初の手術現場に立ったのち、現在も71歳にして臨床現場で毎日診察を続けられている熊川先生だからこそお話いただける、臨床実感に迫ります。