がん遺伝子治療にかける阿保院長の思い。

がん遺伝子治療を始めた経緯

——がん治療の自由診療としては、他にがん免疫療法などがありますが、この療法を始めた経緯について教えてください。

阿保:もともと、がんに対して闘うには、早期発見・早期治療をし、また予防に取り組むことが大切である考えていました。一方で、手の施しようがなくなった末期がん患者に対しても何かしてあげられることはないかと考えを巡らせていて、私の臨床体験上、がん免疫療法のアウトカムは期待するほどではないように感じていました。

そんな中、40歳のある女性に出会いました。彼女は末期がんを患っていたのにも関わらず、溌剌と、生き生きとされていました。話を聞くと、それは中国の青島医科大学で数回CDC6 RNAi療法による治療を受け、その効果を体感しているからだということがわかりました。腫瘍が縮小し、呼吸苦や痛みなどの症状が改善しているとのことでした。

彼女は私に、日本で継続してこの治療を受けたいと嘆願してきました。当然、治療の度に青島に赴くのは負担が大きいのです。

私は複数の英語論文を読み、南カルフォルニア大学所属の分子生物学者であり、本療法の開発者であるLuo Feng博士に何度もメールで質問を繰り返し、熟慮の上でこの治療を開始することにしました。何より、患者さんご自身の、がん遺伝子治療でこの病気に打ち克てるという希望に応えたかったのです。

——本治療の国内におけるパイオニアとして治療を始められたのですね。そのお立場として何か実践されていることはありますか?

阿保:Luo Feng博士と頻繁に連絡をとり、直接学んだこともあって、彼の日本での講演を代わりに日本語で務めたこともあります。その講演には医療関係者が多く参加し、国内で本療法を広める良い機会になったと思います。

また、大学で講座を設立するなどして基礎的なエビデンスの構築にも取り組んでいます。

認知に関する課題

——がん遺伝子治療が正しく広まり、本療法を望む患者さんが治療を受けられるようになるといいですね。本療法の認知について何か課題はありますか?

阿保:大病院で働き標準治療を扱う医師の中には、CDC6 RNAi療法のような自由診療に否定的な方がいらっしゃいます。標準治療を受けて限界を感じた患者さんが、私たちの元へ相談に来たのち、「CDC6 RNAi療法を受けたい」と大病院の医師に相談すると、「そうであればもうこちらでは面倒見ませんよ」と突き返すケースがあるのです。

そうした医師が自由診療を忌避する理由は大きく3つだと考えています。一つは、そもそも民間療法は一般的にインチキであるという先入観があり、その上で民間療法と自由診療を一括りにしてしまっていること。次に、大病院とクリニックで協力した際、有事の際の責任の所在が明らかでなくなってしまうこと。そして、大病院では治験を並行して進めており、それができなくなってしまうことです。

一方で、がん遺伝子治療の市民権が得られ始めてもいます。標準治療の限界に気付き始めた医師も少なくなく、某大学病院の膵臓チームや、それとは別の病院のチームが私の元へ話を聞きに来てくれています。実際、先ほどの「もう面倒見ませんよ」と告げた医師の方は、本療法で患者さんの具合が良くなっていく様子を見て驚き、協力して治療を行っていこうとなったことがあります。

——標準治療であれ自由診療であれ、患者さんにとって最適な治療法が提供されるようになるといいですね。

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    ドクタージャーナル編集部(藤原)   

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