#02 治療の真髄。家族関係の改善が患者を治癒へ導く

前回記事「【高瀬義昌氏】患者の家族も治療の対象として考える」に続き、本記事では家族療法におけるリフレーミング技法について伺いました。

(記事内容は2021年に公開されたものです)

小児科医が見たリフレーミングの力

小児科医として勤務していた際に、家族療法の一環としてリフレーミング(物事や状況の見方を別の視点から捉え直すという心理学の用語)を学びました。

両親が不仲な、小児喘息の患者さんがいました。両親は食事も毎晩別々に出かけるというような状態でしたので、子供の薬の服薬管理もされていませんでした。

当然、その子供の患者さんは入退院を繰り返していました。そこで、診察室の医者が座る席と患者さんの席を入れ替えてセラピーを試みたり、週に1回は両親揃っての食事をお願いしました。

その結果、子供さんの服薬管理も上手くできるようになり、喘息の状態も改善しました。また、不登校気味だった子供さんも学校に通えるようになりました。おそらくは、両親の関心が子供さんに向けられたことが影響したと思われます。

この成果の大きさには驚きました。ある事象を、考え方の枠組みを変えることで、ネガティブなスパイラルからポジティブなスパイラルに変えることができることを痛感しました。これがセラピストとしての力量が問われる部分でもあると思います。

リフレーミング技法とは
家族療法におけるリフレーミング技法は、ある物事を新しい視点や枠組みで見ることを指します。心理的な枠組みを変えることで、体験や物事の意味を変えようとする技法です。

「リフレームの目的は、今までの考えとは違った角度からアプローチしたり、視点を変えたり、焦点をずらしたり、解釈を変えたりと、誰もが潜在的に持っている能力を使って、意図的に自分や相手の生き方を健全なものにし、ポジティブなものにしていくことです」
西尾和美『リフレーム 一瞬で変化を起こすカウンセリングの技術』より

アメリカで学んだ治療を成功させる一番の早道

1988年、家族療法についてさらに学びたいと思い、アメリカのペンシルベニア大学にある全米最古の小児病院であるフィラデルフィア小児病院を訪れました。

その小児病院内にはフィラデルフィア・チャイルド・ガイダンス・クリニック(P.C.G.C.)という施設があります。日本でいうと児童相談所のような場所で、カウンセリングルームが100室もあり、そこでは患者に目を向けるだけでなく、家族、特に両親への心理療法的アプローチが行われ、見事な成果を挙げていたのです。

偶然にも、視察中に、夫婦仲が悪い両親に育てられている白血病患者の子供の在宅医療について、病院の医師や看護師、在宅のチームドクター、両親が参加するカンファレンスを見学する機会がありました。

そのカンファレンスでは、両親が不仲であることが家庭環境を悪化・不衛生にさせ、肺炎などの再入院リスクを高める可能性があるため、子供の在宅医療にはまず両親の関係改善が必要であるとの話し合いが行われていました。そして、この議論は医師ではなく家族療法のスーパーバイザーが中心となってなって行われていました。

当時のアメリカでは、家族だけでなく医療チームや医師、看護師など、患者に関わる全ての人々の信頼関係も治療効果を左右する要因として注目されていました。

さらに、チーム医療において医師の意思決定が絶対ではなく、セラピストやソーシャルワーカーの判断が重視される場面が珍しくないことも、私にとって非常に驚くべきことでした。今から25年前の話です。

一見すると、合理主義のアメリカにおいて手間がかかりで非効率なように見えますが、実は全く逆なのです。家族をも治療の対象として家族関係の改善を行うことで、患者の病気の治療を図ることが、結果的には治療を成功させる一番の早道なのです。

私は、日本人はこの手法をさらに進化させ効果的に実践できる能力を持っていると考えています。ですから日本でもできないはずはありません。

(続く)

この記事の著者/編集者

高瀬義昌 医療法人社団 至髙会 たかせクリニック 理事長 

医療法人社団至髙会理事長、医学博士、認知症サポート医。
1984年、信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了、医学博士。麻酔科、小児科研修を経て、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年、東京都大田区に在宅医療中心の「たかせクリニック」を開業する。在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。『はじめての認知症介護』『自宅で安らかな最期を迎える方法』など著書多数。

この連載について

時代と共に進化する。高瀬氏の考える地域医療とは

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東京都大田区で訪問診療を中心に取り組む「たかせクリニック」院長の髙瀬義昌氏は、臨床医学の実践経験や家族療法の経験を生かし、「高齢者が安心して暮らせる街づくり」に取り組んでいます。 本記事では、高瀬氏に家族療法との出会いについて伺いました。