#01 【吉田智彦氏】医師として病気に立ち向かうことを理解させられた、ある患者との出会い

リウマチや膠原病というと、少し前までは、大学病院などの大規模病院でしか治療ができないと思われていた病気だ。 しかし、クリニックという立場で、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス、全身性硬化症や皮膚筋炎など、リウマチ・膠原病の治療を専門として、大学病院など高度医療機関と肩を並べる最先端治療を行っているのが「世田谷リウマチ膠原病クリニック」だ。 日本リウマチ学会認定リウマチ専門医とリウマチケアの専門知識をもつ看護師、日本神経学会神経内科専門医、日本東洋医学会漢方専門医など、リウマチ治療のプロが患者に合ったオーダーメイドの治療に当たっている。 (『ドクタージャーナル Vol.4』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)
吉田智彦
吉田智彦 世田谷リウマチ膠原病クリニック院長
聖マリアンナ医科大学大学院卒。聖マリアンナ医科大学病院リウマチ膠原病アレルギー内科に入局しリウマチ膠原病の診療と難病治療研究に従事する。日産厚生会玉川病院、児玉経堂病院リウマチ内科勤務を経て、平成18年6月に世田谷区に日本で初めてのリウマチ膠原病の専門施設として世田谷リウマチ膠原病クリニックを開業する。現在は、世田谷リウマチ膠原病クリニックと長野県坂城町の東信よしだ内科の2施設でリウマチ膠原病診療にあたりながら、全国で講演、学会発表、論文発表、市民公開講座などを行っている。

リウマチ・膠原病の専門クリニック

平成18年6月に開設した「世田谷リウマチ膠原病クリニック」。

その名の示すとおり、リウマチ・膠原病を専門として、大学病院など高度医療機関と同等、もしくはそれ以上のリウマチ・膠原病の最先端治療を行っているクリニックだ。

「研修医としてリウマチ・膠原病と出会いましたが、正直に言うと、最初はリウマチの診療や研究にあまり興味を持っていませんでした。」と笑いながら話し始めた吉田院長。

それではなぜ、リウマチ・膠原病の専門クリニックを立ち上げ、運営するに至ったのだろうか。

漠然と医学部に進み医師国家試験を受験

吉田院長は、曾祖父や父親が医師という家庭に育ったが、大学受験まで特に医師という仕事を意識したことはなく、大学は建築系を志望していたという。

吉田氏「建築学部にも行きたかったけど、聖マリアンナ医大しか合格しなかった(笑)。」

医学部に進学したが、時代はバブル期だったこともあり、サークル活動や学生での起業などに夢中になったりして、医師という職業について具体的なビジョンも描けないまま卒業し、医師国家試験を迎えたという。

吉田氏「思い返すと、今でも非常に反省しているのですが、当時は、自分には医師以外の可能性もあるのでは?などと漠然と考えながらも、しかし将来の目標もはっきりとしないまま医師国家試験を受けました。その頃の私は医師という職業を軽く見ていましたと思います。」

ターニングポイントは二人の人との出会い

今の吉田院長の医師としてのターニングポイントは二人の人間との出会いだったという。

一人は、同クリニックで漢方内科医として勤務していた山本医師の存在だ。山本氏は、大学時代からの親友でもあった。

医師国家試験には受かったものの、その後、どの〝専門〟に進むかを決めかねていた当時の吉田氏を、山本医師が自らも進んだ〝リウマチ内科〟へと誘ってくれたのだ。

その後も西洋医学を軸に補完代替医療を含めて患者さんを診察する診療視点、クリニックの運営やライフスタイルなどに関しても、山本氏から強い影響を受けてきたという。

友人・山本氏の勧めでリウマチ内科に入局した吉田氏だったが、リウマチ膠原病の診療や研究は難解で、当初はなかなか興味を持つことができなかったという。

吉田氏「今から20年くらい前のことです。ある患者様と出会ったことが、私が医師の仕事に目覚めるターニングポイントとなりました。

その患者様は、研修医でしかない私を、ちゃんと一人前の医師、主治医として認めてくれて接してくれたのです。

その患者様は、皮膚筋炎に間質性肺炎を合併する難病をわずらっており、急激に呼吸不全に陥って、人工呼吸器を付けるまでになってしまいました。」

この時に経験も知識もなかった吉田氏に対して、当時医局講師であった山田医師が治療だけでなく、患者様を診る医療の基本までも教えてくれたと話す。

「残念ながら患者様は改善と増悪を繰り返して、最後には亡くなられましたが、このときに患者様の話しを丁寧に聞いて所見をとり、難病を治療するために文献を調べて、世界の最先端の治療法と現在の自分の治療の水準を合わせるというトレーニングもさせてもらうことができました。

この患者様との出会いによって、私を信頼し、身体を任せてくれる患者様に対する医師としての責任、病態を深く考える習慣、アグレッシブな治療を実践する勇気、その医療を支える仲間の存在、努力するからこそ伴ってくる結果など、決して諦めずに医師として病気に立ち向かうということを、私なりに理解することができたのだと思います。」

「学生時代には、あまり勉強をしていませんでしたから(笑)、本気で勉強して、本気で患者様と共に病気を治そうと考えるようになりました。同時に、この患者様との経験が、自分が膠原病をやることへの迷いを消し去り、その後は『誰よりも、しっかりと、ちゃんと患者様を救いたい』という気持ちで大学病院での医師生活を送ることができました。」

吉田院長はこの出会いによって、自分の医師としての人生を〝リウマチ〟〝膠原病〟に専念していくことを決意したという。

(続く)

この記事の著者/編集者

吉田智彦 世田谷リウマチ膠原病クリニック 院長 

聖マリアンナ医科大学大学院卒。聖マリアンナ医科大学病院リウマチ膠原病アレルギー内科に入局しリウマチ膠原病の診療と難病治療研究に従事する。日産厚生会玉川病院、児玉経堂病院リウマチ内科勤務を経て、平成18年6月に世田谷区に日本で初めてのリウマチ膠原病の専門施設として世田谷リウマチ膠原病クリニックを開業する。現在は、世田谷リウマチ膠原病クリニックと長野県坂城町の東信よしだ内科の2施設でリウマチ膠原病診療にあたりながら、全国で講演、学会発表、論文発表、市民公開講座などを行っている。

最新記事・ニュース

more

人工内耳の発展によって効果や普及率が格段に高まってきた現代。今だからこそ知りたい最新の効果、補聴器との比較、患者さんにかかる負担について伺いました。重度の難聴を持つ患者さんが、より当たり前にみな人工内耳を取り付ける日は来るのでしょうか。

本連載の最後となるこの記事では、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、これからの悠翔会にとって重要なテーマや社会的課題、その解決に向けてのビジョンについて伺いました。

こころみクリニックは正しい情報発信とぎりぎりまで抑えた料金体系、質の高い医療の追求を通して、数多くの患者を治療してきました。専門スタッフが統計解析して学会発表や論文投稿などの学術活動にも取り組み、ノウハウを蓄積しています。一方でTMS療法の複雑さを逆手に取り、効果が見込まれていない疾患に対する効果を宣伝したり、誇大広告を打つクリニックもあり、そうした業者も多くの患者を集めてしまっているのが現状です。 こうした背景を踏まえ、本記事ではこころみクリニックの経緯とクリニック選びのポイントについて伺いました。

前回記事に続いて、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、「死」に対しての向き合い方と在宅医が果たすべき「残された人生のナビゲーター」という役割についてお話しを伺いました。

人工内耳の名医でいらっしゃる熊川先生に取材する本連載、1記事目となる本記事では、人工内耳の変遷を伺います。日本で最初の手術現場に立ったのち、現在も71歳にして臨床現場で毎日診察を続けられている熊川先生だからこそお話いただける、臨床実感に迫ります。

本記事では主に医師に向けて、TMS療法に関する進行中の研究や適用拡大の展望をお伝えします。患者数の拡大に伴い精神疾患の論文は年々増加しており、その中で提示されてきた臨床データがTMS療法の効果を着実に示しています。さらに鬼頭先生が主導する研究から、TMS療法の可能性が見えてきました。

お話を伺ったのは、医療法人社団こころみ理事長、株式会社こころみらい代表医師でいらっしゃる、大澤亮太先生です。 精神科医として長い臨床経験を持ち、2017年にこころみクリニック、2020年に東京横浜TMSクリニックを開設され、その後も複数のクリニックを展開されています。 科学的な情報発信と質を追求した診療を通して、日本でも随一の症例数を誇るこころみクリニック。自由診療としてぎりぎりまで料金を抑え、最新のプロトコルを提供しながら学術活動にも取り組まれています。そんなこころみクリニックに取材した連載の第1回となる本記事では、臨床運営の現場から見えてきたTMS療法の治療成績と、コロナ後遺症への効果を検証する臨床研究をお聞きしました。

この記事では、セルバンク社が提供する再生医療支援事業についてお聞きするとともに、日本の再生医療の中でセルバンク社が目指す役割について北條元治氏の思いを伺いました。

うつ病と診断されたら、まずは休養を取ることが大切。うつ病について知識を深め、自分の経験や感じ方を医師とともに考え直してみることも有効です。そのうえで、中等症の患者さんに対して検討されるのがお薬やTMS療法です。本記事ではこうした治療を比較検討したい患者さんに向けて、うつ病の治療フロー、TMS療法と他の治療との比較、費用負担の目安をお伝えします。

森口敦 1Picks

前回記事地域包括ケアの中核となるかかりつけ医の役割とはで語られた役割を果たすために、かかりつけ医が外来診療を行う意義について、西嶋医師・英医師の経験をもとに語っていただきました。

森口敦 1Picks

東京都町田市の西嶋医院で院長を務める西嶋公子医師と、新宿で新宿ヒロクリニックの院長を務める英裕雄医師は、ともに長年在宅医療に取り組んできました。本記事では英医師が聞き手となり、西嶋公子医師にターミナルケアにおけるかかりつけ医の役割について語っていただきました。

本記事では、再生医療の中でも臨床応用が進んでいる皮膚の再生医療について、現在行われている治療法と治療に使う細胞の取得法、患者さんにかかる負担をお聞きしました。

森口敦 1Picks