これからの在宅医療にとって重要なテーマとは

前回記事に続き、本連載の最後となるこの記事では、理事長である佐々木淳氏に、これからの悠翔会にとって重要なテーマや社会的課題、その解決に向けてのビジョンについて伺いました。

(記事内容は2019年取材日時点のものです)

新しい形の在宅チーム医療を作り上げていく

― 佐々木先生にとって、これからの悠翔会にとって重要なテーマとは何でしょうか ―

私は、チームに集ってくれた全職員を幸せにしたいと思っています。その一つとして継続的な待遇の改善を実現したいと考えています。

今後、高齢化に伴い、在宅医療に対するニーズはさらに高まっていくと思います。一方で、社会保障財源は厳しさを増し、診療報酬は下がっていくかもしれませんし、医療介護専門職の人材不足も深刻化していくでしょう。

限られた人材で、より多くの患者さんにより大きな安心感・納得感を提供できるよう、よりハイレベルな診療、より生産性の高い診療ができる医療チームを作っていかなければなりません。同時に、診療以外の業務は最小化していかなければいけない。

そのための情報共有システムの開発や他職種との連携、特に看護師との役割分担などを進めながら、新しい形の在宅チーム医療を作り上げていくことが重要なテーマの一つです。

在宅医療の普及によって社会医療費を削減する

もう一つは、社会コストの削減に貢献するということです。

保険診療の中で在宅医療は高額な診療です。悠翔会の年間診療報酬が増えた結果として、全体の医療費もその分増えてしまったのでは意味がありません。

私たちが在宅医療をしっかりと行うことで「高齢者の入院が減りました」「救急搬送が減りました」「自宅で最期まで生活できる人が増えました」その結果として「全体では大きく医療費の節約になりました」となれば、これは社会に貢献できたということになります。

今、国の高齢者医療費は年を追うごとに伸びていますが、増えている部分が必ずしも病気の高齢者のQOL(生活の質)に貢献しているとは思えません。

望まぬ入院や入院の長期化、入院中の摂食障害など、この部分に大きな医療費がかかっている現状を考えると、なるべく入院しないで最期まで自宅で過ごせる環境を作ることで、医療費の伸びを抑えることができるのではないかと思います。それは医療のコストパフォーマンスを高めることでもあります。

在宅医療が普及することで、医療費が増えるのではなく、在宅医療がきちんと機能することで入院医療費を節約し、救急搬送などの社会コストが削減でき、トータルでは社会医療費が節約できた、という結果を出していかなければならないと思っています。 

地域住民の医療依存度を下げるために

― 最後に佐々木先生の今後のビジョンをお聞かせください。―

地域住民の「医療依存度」を下げていく取り組みをしたいと思っています。

日本人は病院が大好きです。例えばインフルエンザにかかればみんな病院に行って薬をもらいますが、これはあまり意味がありません。忙しい病院の外来を混雑させるばかりか、逆に感染を拡大させる可能性もあります。

大切なのは、自分できちんと対処できるようにしておくことです。つまり、きちんと予防する、そしてかかってしまったら、自宅でしっかり静養して治癒を待つ。体力や抵抗力のない人を除けば、これで十分です。病院は本来の仕事ができ、感染拡大のリスクも減ります。

一人一人が健康に対するリテラシーをもっと高めることと、自分の人生については自信を持って医師と対等に対話できるようになることが、すごく大事だと感じています。

そのために、医師は地域の人たちに、病気になってから治療するのではなく、どうしたら自信を持って健康な人生を最期まで送ることができるかコーチングする必要があります。

医師が無理だというから家に帰れないではなく、それでも私は家に帰りますとはっきり言える、そういう人たちを一人でも多く作っていきたいと思っています。

高齢者はほとんどの人が病気を持っていますが、それでも自分は健康に生きていると言えるのであれば、それで良いと思うのです。

医学的にはどうであれ、その人が健康な生活や健康な人生を送れているかということはすごく大事です。なるべく医療にかからず、美味しいものを食べたり、楽しい所に行ったりして人生を送った方が絶対にハッピーなはずですから。

成功報酬型の地域医療報酬制度が理想です

私が理想と思っているのは、現状の出来高制の医療報酬制度ではなく、患者を減らしたら評価される成功報酬型の医療報酬制度です。

例えば、自治体のマネジメントの範疇にある高齢者医療と介護保険の予算を、それぞれの地域単位で決めてしまう。そして医師は地域に対して高齢者が最期まで健康で幸せであるように適切な介入を行い、その結果として医療保険費用や介護保険費用が抑制でき、予算に対して余剰分が出る。その余剰分を地域の医療・介護事業者が成功報酬として受け取る。

病人を作らないことが収益につながる仕組みは、医療側のモチベーションも上がり、より一層気持ち良く努力できるのではないでしょうか。

健康なコミュニティを育て守ることで、成功報酬をもらうという医療のモデル事業を、医療特区などで実現できたらよいのではないかと考えています。

 ソーシャルインパクトボンド(SIB)のような枠組みを活用することでも、できるような気がします。

― 本日はありがとうございました。―

ソーシャルインパクトボンド(SIB):官民連携の一つの手段であり、行政機関が民間から調達した資金で事業者に公的サービスを委託し、事業者が成果に応じて資金提供者に利益を還元する仕組みで、自治体が民間のノウハウを活用しながら社会的課題を解決するための手法である。欧米を中心に普及している。

医療法人社団悠翔会の基本情報

組織名医療法人社団悠翔会
ホームページhttp://www.yushoukai.jp/
住所〒105-0004 東京都港区新橋5-14-10 新橋スクエアビル 7F
電話番号03-3289-0606(代表)
運営医療機関24カ所(2023 年 6 月現在)
東京都  8 カ所
埼玉県  5 カ所
千葉県  3 カ所
神奈川県 4 カ所
愛知県  1 カ所
鹿児島県 1 カ所
沖縄県  2 カ所

この記事の著者/編集者

佐々木淳 医療法人社団 悠翔会 理事長・診療部長 

1998年筑波大学医学専門学群卒業。社会福祉法人三井記念病院内科/消化器内科、東京大学医学部附属病院消化器内科等を経て、2006年に最初の在宅療養支援診療所を開設。2008年 医療法人社団悠翔会に法人化、理事長就任。2021年より 内閣府・規制改革推進会議・専門委員。現在、首都圏ならびに愛知県(知多半島)、鹿児島県(与論町)、沖縄県(南風原町・石垣島)に全24拠点を展開。約8,000名の在宅患者さんへ24時間対応の在宅総合診療を行っている。

【出版】
『これからの医療と介護のカタチ 超高齢社会を明るい未来にする10の提言』(日本医療企画、2016)、『在宅医療 多職種連携ハンドブック』(法研、2016)、『在宅医療カレッジー地域共生社会を支える多職種の学び21講』(医学書院、2018)、『在宅医療のエキスパートが教える 年をとったら食べなさい』(飛鳥新社、2021)、『現場で役立つ よくわかる訪問看護』(池田書店、2023)他。

この連載について

【在宅医療経営】患者さんも医療従事者も幸せになる在宅医療

連載の詳細

最新記事・ニュース

more

遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。

人工内耳の発展によって効果や普及率が格段に高まってきた現代。今だからこそ知りたい最新の効果、補聴器との比較、患者さんにかかる負担について伺いました。重度の難聴を持つ患者さんが、より当たり前にみな人工内耳を取り付ける日は来るのでしょうか。

本連載の最後となるこの記事では、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、これからの悠翔会にとって重要なテーマや社会的課題、その解決に向けてのビジョンについて伺いました。

こころみクリニックは正しい情報発信とぎりぎりまで抑えた料金体系、質の高い医療の追求を通して、数多くの患者を治療してきました。専門スタッフが統計解析して学会発表や論文投稿などの学術活動にも取り組み、ノウハウを蓄積しています。一方でTMS療法の複雑さを逆手に取り、効果が見込まれていない疾患に対する効果を宣伝したり、誇大広告を打つクリニックもあり、そうした業者も多くの患者を集めてしまっているのが現状です。 こうした背景を踏まえ、本記事ではこころみクリニックの経緯とクリニック選びのポイントについて伺いました。

前回記事に続いて、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、「死」に対しての向き合い方と在宅医が果たすべき「残された人生のナビゲーター」という役割についてお話しを伺いました。

人工内耳の名医でいらっしゃる熊川先生に取材する本連載、1記事目となる本記事では、人工内耳の変遷を伺います。日本で最初の手術現場に立ったのち、現在も71歳にして臨床現場で毎日診察を続けられている熊川先生だからこそお話いただける、臨床実感に迫ります。

本記事では主に医師に向けて、TMS療法に関する進行中の研究や適用拡大の展望をお伝えします。患者数の拡大に伴い精神疾患の論文は年々増加しており、その中で提示されてきた臨床データがTMS療法の効果を着実に示しています。さらに鬼頭先生が主導する研究から、TMS療法の可能性が見えてきました。

お話を伺ったのは、医療法人社団こころみ理事長、株式会社こころみらい代表医師でいらっしゃる、大澤亮太先生です。 精神科医として長い臨床経験を持ち、2017年にこころみクリニック、2020年に東京横浜TMSクリニックを開設され、その後も複数のクリニックを展開されています。 科学的な情報発信と質を追求した診療を通して、日本でも随一の症例数を誇るこころみクリニック。自由診療としてぎりぎりまで料金を抑え、最新のプロトコルを提供しながら学術活動にも取り組まれています。そんなこころみクリニックに取材した連載の第1回となる本記事では、臨床運営の現場から見えてきたTMS療法の治療成績と、コロナ後遺症への効果を検証する臨床研究をお聞きしました。