クリニックにおける電子処方箋導入のメリットとは

<本連載について>
オンライン診療・在宅医療・診療報酬などクリニック運営を取り巻く環境は変化しています。本連載では、開業医もしくはこれから開業する医師へ向けて、最新の医療制度や業界動向について専門家に解説していただきます。

日常生活のさまざまなシーンでペーパーレス化やオンライン化が進み、その波は医療分野にも及んでいます。2023年1月から運用開始が予定されている「電子処方箋」も、これまで紙で発行していた処方箋をデジタルデータ化しペーパーレスでやり取りできるようにする仕組みです。

今回は、クリニックにとっての電子処方箋の導入のメリットや必要な手続き、導入時に利用できる補助金についてご紹介します。

電子処方箋とは

電子処方箋とは、今まで紙で発行していた「処方箋」をデジタルデータ化し、オンライン上で登録や閲覧・管理をできるようにしたものです。

「オンライン資格確認等システム」の基盤を利用して、患者さんの同意のもと、レセプト由来の全国の医療機関と薬局の過去3年間の薬剤情報に加えて、電子処方箋からは直近の処方・調剤結果を参照できるようになります。

レセプト・・・患者毎に月単位で作成される診療報酬明細書のこと。行った処置や使用した薬剤等が記載されており、医療機関はレセプトをもとに健康保険組合に医療費を請求する。

電子処方箋とは
出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/denshishohousen.html
「電子処方箋の概要案内 病院・診療所向け」https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001015134
.pdf

データヘルス集中改革プランの一環としての電子処方箋

電子処方箋は国のデータヘルスの集中改革プランの一環として推進されている取り組みです。

データヘルス集中改革プランの基本的な考え方は、「オンライン資格確認等のシステムやマイナンバー制度等の既存インフラを最大限活用しつつ、必要な法制上の対応等を行った上で、効率的かつ迅速にデータヘルス改革を進め、新たな日常にも対応するデジタル化を通じた強靱な社会保障を構築する」というものです。

オンライン資格確認の詳細については、下記記事で詳しく解説しています。ぜひご参照ください。
オンライン資格確認の導入状況と今後の動向

厚生労働省が2020(令和2)年7月に発表した「データヘルス集中改革プラン」では、3つのアクションプランのなかの1つに電子処方箋の仕組みの構築を上げています。

出展:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-jyouhouseisaku_408412.html
「新たな日常にも対応したデータヘルスの集中改革プランについて」https://www.mhlw.go.jp/content/12601000/000653403.pdf

クリニックにおける電子処方箋導入のメリット

処方箋を電子化する一番のメリットとしては、医療機関と薬局間で処方や調剤に関する情報共有を円滑化・効率化できる点が挙げられます。

マイナンバーカードで患者さんの同意を得られていれば、複数の医療機関や薬局での処方・調剤情報を確認できます。患者さんの状況に合わせた診察や処方ができることに加え、同時に複数の医療機関に通院している場合でも重複投薬による薬害を防ぐことができます。

また、処方箋様式の統一により医療機関と薬局の情報共有やコミュニケーションを円滑に行えるようになります。

病院・診療所でできるようになること
出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/denshishohousen.html
「電子処方箋の概要案内 病院・診療所向け」https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001015134.pdf

在宅医療における電子処方箋のメリット

電子処方箋は在宅医療への効果も期待されています。厚生労働省の「電子処方箋の運用ガイドライン」では、電子処方箋のメリットとして『患者が公共性のある機関(自治体等)に情報を預ける等の方法により、例えば、在宅医療、救急医療及び災害時に、医療関係者が患者の服用している薬剤を知ることが可能となる。』という点を挙げています。

オンライン診療やオンライン服薬指導と電子処方箋を組み合わせることで、より効率的な在宅医療を実現することができます。

過疎地域の住民や高齢者など医療機関や薬局に行くことが難しい場合に、従来の紙の処方箋では郵送などで処方箋の受け渡しを行っていますが、電子処方箋であればオンライン上で医療機関・薬局・患者の3者間でやり取りができます。

電子処方箋の導入によって、医療機関は紙の処方箋(原本)を郵送する手間と費用が削減されます。

電子処方箋の開始に向けたスケジュール

電子処方箋の利用にあたっては、前提としてオンライン資格確認を導入している必要があります。そのため、まだオンライン資格確認を導入できていないクリニックの場合は、まずオンライン資格確認に必要なシステムや機器の導入から始めなければなりません。

オンライン資格確認で必要となる顔認証機能付きカードリーダーは受注生産となっており、申し込みから発送まで平均4か月は要するとされています。電子処方箋の運用開始を検討されている医療機関は、機器の手配やシステムの準備期間を考慮した上で運用開始日を検討するようにしてください。

電子処方箋の開始に向けたスケジュール
出典:厚生労働省ホームページ(https://www.mhlw.go.jp/stf/denshishohousen.html
「電子処方箋の概要案内 病院・診療所向け」https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001015134.pdf

電子処方箋の導入を支援する補助金について

厚生労働省は電子処方箋の導入に必要となるシステム改修費用の一部を補助する「医療提供体制設備整備交付金」を実施すると発表しました。

電子処方箋管理サービスを導入するために必要となるICカードリーダーなどの購入やレセプトコンピューターおよび電子カルテ等の既存システムの改修費用、電子処方箋の導入にあたっての職員への実地指導などに係る費用について交付されます。

補助金交付申請は2023年2月以降に開始予定で、交付を受ける保険医療機関等は2025年3月31日までに電子処方箋管理サービスの導入を完了させる必要があります。

出典:https://www.iryohokenjyoho-portalsite.jp/docs/denshi_hojokin.pdf

まとめ

  • 電子処方箋の導入により複数の医療機関や薬局での処方・調剤情報を確認できるようになる
  • 「オンライン資格確認」の基盤の上に「電子処方箋管理サービス」が構築されるため、電子処方箋の導入にはオンライン資格確認への対応が必須となる
  • 電子処方箋の導入にあたっては「医療提供体制設備整備交付金」を利用することができる

電子処方箋の運用を開始するには、基盤となる「オンライン資格確認」に対応ができていることが前提となります。裏を返せば、電子処方箋がどれだけ普及するかはマイナンバーカードやオンライン資格確認がどれだけ普及するかによります。

厚生労働省は2022年8月10日に開催した第527回中央社会保険医療協議会 総会において、医療機関・薬局でのオンライン資格確認を2023年4月以降の原則義務化を決定しました。9月5日に公布された保険医療機関および保険医療養担当規則にもオンライン資格確認の導入の原則義務化について令和5年4月に施行されることが記載されました。

これを受けて電子処方箋についても今後一層の推進策をとる可能性があります。

PHC株式会社ではオンライン資格確認をはじめ、医療現場のICT化をサポートするためのサービスや製品を提供しております。クリニックがICT化に取り組むための第一歩として、外来診療にも在宅診療にも対応できるクラウド型電子カルテ「きりんカルテ」を提供しています。

クリニック経営の効率化にご関心のある方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

ホームページ:https://xirapha.jp/
電子カルテとしての基本的機能に加えて、予約システムや在宅医療での利用など豊富な機能を搭載。
これまでの電子カルテ導入にかかっていた高額な初期費用・月額利用料などのコストを抑え、クリニックのスマートな経営をサポート。

運営元:PHC株式会社
ホームページ:https://www.phchd.com/jp/medicom
所在地:〒105-0003 東京都港区西新橋2丁目38番5号
TEL:03-5408-7750
事業内容:糖尿病マネジメント、診断・ライフサイエンス、ヘルスケアソリューションの事業領域における開発、製造、販売、サービス

この記事の著者/編集者

PHC株式会社 メディコム事業部 デジケアプロダクト部  

クラウド型電子カルテ『きりんカルテ』及び、デジタルヘルスケアサービスの開発、運用・保守を提供。

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