#03 高瀬義昌氏「在宅医療では認知症は避けて通れない。」

東京都大田区で訪問診療を中心に取り組む「たかせクリニック」。院長の髙瀬義昌氏は臨床医学の実践経験・家族療法の経験を生かし、「高齢者が安心して暮らせる街」作りに取り組んでいる。 高瀬義昌氏の活動は、24時間在宅診療、医師会、地域ケア行政、日米医学医療交流、執筆、テレビ、マスコミでの啓発活動等、幅広い分野に及んでいる。 「認認介護」という言葉で、認知症の人が認知症の人を介護しているという現実を最初に訴えたのも高瀬義昌氏だ。 同氏は、在宅療養空間というシステムを安定させること、『システムスタビライザー』として機能することが在宅医療の役割だという。 (『ドクタージャーナル Vol.17』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

大田区に在宅医療クリニックを開業

その後、東京都荒川区の病院で院長をしていた時に、在宅医療と出会いました。そこでは外来に加えて往診も行っていましたので、ある高齢者の方の在宅医療を行い、私は生涯で初めて患者さんの看取りも経験しました(北島康介君の祖父!)。

そのご高齢の患者さんは、ご家族の手厚い介護で最後まで大切にされ穏やかな臨終を迎えられました。元来、小児科医療に携わっていた頃から、患者と家族の関係が病状に反映することには注目していましたが、この看取りで医療と家族との良好なチームワークを経験した私は、在宅医療への思いがますます募りました。

在宅医療は、継続的に生きる意味や生きる在り方とか、あるいは死ぬということの意味を私に問いかけてきます。

2004年9月に、大田区の現在の地で在宅医療専門の「たかせクリニック」を開業しました。

元々家族療法による診療を志向していた私には、一人の診察に時間を取れる在宅医療が向いていると思っていましたし、外来クリニックの場合、患者さんが増えてくると診療時間を十分に取れなくなることもあり、外来と在宅医療を両立させるのは難しいと考えたからです。

また、近隣には高校時代の友人達の病院が幾つかあって、在宅における病診連携のバックベッドの確保が見込めたことも大きな理由です。

大田区は、高額所得者が多く住んでいる田園調布から、生活保護の人が多い蒲田地区まで住民の経済格差の大きい区で、ここでは日本の縮図のようなものが見られるかもしれないと思いました。開業当時は、大田区で在宅医療に取り組んでいる医師はまだ少なかったですね。

認知症は避けて通れないことに気付く

在宅診療を始めてみると、患者さんに認知症の高齢者の方が非常に多いことに気付きました。更にはその患者さんを支える家族にうつ状態の方が多い。

診療を続けていくうちに、在宅医療では認知症は避けて通れないことに気付いたのです。

在宅医療のキーワードは、「フットワーク」「チームワーク」「ネットワーク」です。それに、現場をきちっと見る目配りの「アリの目」、木を見て森を見ないことにならないように客観視する「トリの目」、それと魚眼レンズのように広角視野で見る「サカナの目」の3つの目が必要です。

この記事の著者/編集者

高瀬義昌 医療法人社団 至髙会 たかせクリニック 院長 

医療法人社団至髙会理事長、医学博士、認知症サポート医。
1984年、信州大学医学部卒業。東京医科大学大学院修了、医学博士。麻酔科、小児科研修を経て、包括的医療・日本風の家庭医学・家族療法を模索し、2004年、東京都大田区に在宅医療中心の「たかせクリニック」を開業する。在宅医療における認知症のスペシャリストとして厚生労働省推奨事業や東京都・大田区の地域包括ケア、介護関連事業の委員も数多く務め、在宅医療の発展に日々邁進している。『はじめての認知症介護』『自宅で安らかな最期を迎える方法』など著書多数。

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在宅医療のフィールドを使ったハイパフォーマンスヘルスケア

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