rTMS療法を検討したいうつ病の患者さんへ。治療フロー、治療法の比較、費用負担の目安は  #02

うつ病と診断されたら、まずは休養を取ることが大切。うつ病について知識を深め、自分の経験や感じ方を医師とともに考え直してみることも有効です。そのうえで、中等症の患者さんに対して検討されるのがお薬やrTMS療法です。本記事ではこうした治療を比較検討したい患者さんに向けて、うつ病の治療フロー、rTMS療法と他の治療との比較、費用負担の目安をお伝えします。

①rTMS療法とお薬のどちらを選ぶべき?治療フローとその根拠

——優位性をお伺いすると、初めからrTMS療法で治療してしまう方が望ましいようにも思えます。うつ病の治療でお薬が第一選択療法(最初に選択される治療法)になっているのはなぜなのでしょうか。

鬼頭:rTMS療法をうつ病の治療に使う場合、まずは適正使用指針やガイドラインにのっとって治療フローを考えます。がん患者さんに、軽度の患者さんにいきなり手術しましょう、放射線を当てましょうといったことは言いませんよね。それと同じで、rTMS療法は中等症以上のうつ病の患者さんに使っていきます。

現状、うつ病の治療ガイドラインやrTMS適正使用指針では、rTMS療法とその他の治療は次の図のような位置付けとなると考えられます。

rTMS療法はうつ病に有効とはいえ、

・1日に約40分の治療と通院時間がかかる

・120万人の患者に提供するだけの人的資源や機器が無い

・1剤以上の薬を試した後でないとrTMS療法に保険が適用されない

こともあって、まずは薬による治療から始めるのが一般的です。

ただし、抗うつ薬を使っても、1種類目では4割弱くらいの患者さんにしか効きません。2種類目だと2割弱、その後急に5%、6%と、抗うつ薬が効きにくくなることが知られています。2剤目でも効かなかった場合、いろんなお薬を使っても効かなくて、治療が行き詰まってしまうことがあります。そこで患者さんを救えるのがrTMS療法なんです。

心臓ではよく心電図を取りますよね。これは心臓の働き、活動を電気的に記録することができるからです。脳も脳波を取って、その働き、活動を調べることからわかるように、電気的生理学的な器官なんです。したがって、お薬が効かない場合に電気や磁気で治療しようというのは、医学的に自然な発想といえます。3剤目、4剤目とお薬を試し続けるより、rTMS療法を選択する方が有効な場合もあります。一方で、幻覚や妄想を伴ううつ病の場合は、rTMS療法の有効性は期待できません。ほかの治療法を検討しても良いのでしょう。

うつ病のモノアミン仮説から、rTMS療法と抗うつ薬の関係を見てみましょう。抗うつ薬とrTMS療法の組み合わせは合理的と言えるかもしれません。うつ病には、不安や気分に関わるセロトニン、注意や覚醒に関わるノルアドレナリン、そして意欲に関わるドーパミンの3つが関与していると考えられています。いま日本国内で使われている抗うつ薬は、主に最初の2つ、セロトニンとノルアドレナリンに作用するものがほとんどです。ドーパミンのお薬を作ろうとすると、効きすぎて幻覚や妄想が出てきたり、依存性が出てきたりする可能性があります。一方rTMS療法は、脳の中でも主にドーパミンに関わる報酬系という部分にも作用することが知られていますから、お薬の弱点を補完してくれるということになります。

また、rTMS療法は、お薬の副作用が強い患者さんにとっての選択肢にもなります。そのような患者さんでは、rTMS療法を試す方が患者さんの負担は少ないかもしれませんね。

①自分には保険が適用される?パターン別で費用負担の基準を解説

先述の通り、1回12,000円、週5日で6週間通院する場合、自由診療では36万円がかかります。

保険診療の場合、自己負担は3割なので

(1回12.000円×週5日×6週間)×0.3 = 10.8万円

です。さらに精神疾患の通院には自立支援制度を利用でき、これにより自己負担を1割まで減額した場合、

(1回12.000円×週5日×6週間)×0.1 = 3.6万円

となり、世帯所得によっては、自己負担の月額を一定額にとどめることもできます。

さらに、入院する場合は高額療養費制度が適用される可能性があります。これはひと月あたりに医療機関でかかった費用が一定金額以上のときに、超過額が支給される制度です。この上限額は年齢や所得に応じて定められています。

また、rTMS療法を保険診療として受診できる医療機関は、日本精神神経学会のHPから確認できます。

https://www.jspn.or.jp/modules/advocacy/index.php?content_id=34

次回の記事では医師に向けて、実用化が近いrTMS療法のプロトコル開発研究と適応拡大の展望をお伝えします。

【国立研究開発法人国立精神・神経医療研究センター】
ホームページ:https://www.ncnp.go.jp

所在地:〒187-8551 東京都小平市小川東町4-1-1
TEL:042-341-2711

この記事の著者/編集者

ドクタージャーナル編集部(中条)   

薬学・生物学を専門的に学んだメンバーが在籍。ミクロな視点で最新の医療を見つめ、客観的にその理想と現実を取材する。科学的に根拠があり、有効である治療法ならば、広く知れ渡るべきという信念のもと、最新の医療情報をお届けする。

するとコメントすることができます。

新着コメント

  • 森口敦

    ドクタージャーナル東大生チーム・コーチ兼メンター 2023年09月13日

    現役東大生プロジェクトへのご協力、ありがとうございました。
    今回の記事には掲載されませんが、鬼頭伸輔先生がTMSに出会ったエピソードや、TMSの今後の発展・応用の可能性も、大変に興味深い話ばかりでした。

    頭蓋骨の中を直接しかも安全に刺激を与えながら治療する。
    画期的だからこそ、より丁寧に慎重に研究を重ねている鬼頭伸輔先生。

    引き続き、応援しております!!

この連載について

【うつ病治療の切り札】有効かつ副作用の少ない治療法、rTMS療法という選択肢

連載の詳細

最新記事・ニュース

more

遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。