疾患別の治療成績 対象疾患と展望は #01

お話を伺ったのは、医療法人社団こころみ理事長、東京横浜TMSクリニックこすぎ神奈川院院長でいらっしゃる、大澤亮太先生です。

精神科医として様々な臨床経験を持ち、2017年にこころみクリニック、2020年に東京横浜TMSクリニックを開設され、その後も複数のクリニックを展開されています。

科学的な情報発信と質を追求した診療を通して、日本でも随一の症例数を誇る東京横浜TMSクリニック。自由診療としてぎりぎりまで料金を抑え、最新のプロトコルを提供しながら学術活動にも取り組まれています。そんな東京横浜TMSクリニックに取材した連載の第1回となる本記事では、臨床運営の現場から見えてきたTMS療法の治療成績と、コロナ後遺症への効果を検証する臨床研究をお聞きしました。

取材協力:大澤亮太氏

医療法人社団こころみ理事長、東京横浜TMSクリニックこすぎ神奈川院院長

  • 2003年 開成高校卒業
  • 2005年 一橋大学 経済学部 中退
  • 2011年 山梨医科大学 医学部 卒業
  • 2011~2013年 国際医療福祉大学附属熱海病院
  • 2014~2017年 紫雲会横浜病院・ハートクリニック精神科医 (株)エリクシア 精神科産業医
  • 2017 元住吉こころみクリニック 内科、呼吸器内科、心療内科開院
  • 2020 医療法人社団こころみ 理事長就任 東京横浜TMSクリニック開院

現在首都圏に7つのクリニックを展開

―こころみクリニックでTMS療法を提供している対象疾患をあらためてお伺いできますか?

大澤先生(以下、敬称略):今はうつ病、強迫性障害、双極性障害が中心です。うつ病はエビデンスをもとに保険適用になっていますし、強迫性障害もアメリカではすでに認可されています。双極性障害も先進医療の枠組みで実施されていて、今後の臨床研究次第ですが、ほぼ間違いなく効果が見込めると考えています。こうした科学的に実証されているTMS療法の治療効果については、学会発表をしたり企業さまにお話ししたり、専門家向けに講演でお話ししたりといった情報発信をしています。

―臨床成績について、まずは保険適用もされているうつ病のデータと解釈をあらためてお伺いしてもよろしいですか?

大澤:海外で42施設で257人に対して行われた治療データでは、TMS療法によって患者さんの45%が寛解し、70%弱が持続的に治療反応を示しました。

次に、東京横浜TMSクリニックで取った統計をお見せします。1年半程度でおおむね1000人の患者さんがお見えになりました。

東京横浜TMSクリニックでは、通院していただいている患者さんを治療回数によって3段階に分けて診察しています。10回で副作用のチェック、20回で効果のチェックと今後の治療方針の相談、30回で治療効果の最終評価をおこない、データ化しています。ある程度の回数を重ねなければ治療効果がわからない治療ですので、回数券を作ることでより長く通ってもらえるように工夫しています。

30回治療施術した患者さんのデータをみると、寛解率は53%と高い値になっています。反応率も70%を上回り、とてもよい治療成績となっています。

20回の治療で効果がみられなかった患者さんが脱落している可能性も検討して、20回の治療時点でのカルテ記載をもとに、再集計したデータがこちらです。この時点でも30回の治療と大きくは変わらず、過半数が寛解、約70%が治療効果を示すという良い結果になりました。プラセボ効果もあるため一概にこれがTMS療法の作用であるとは言えませんが、お薬の治療にも携わっている身としても十分効果があると感じますし、TMS療法は非常に有効な治療選択肢と感じています。TMSとお薬の両方の選択肢を提示できる点で、当院の治療水準が高まっていると実感しています。

――この結果は他の医療機関と比べて優れているといえそうでしょうか?

他施設と合わせた海外研究結果では、反応率は60〜70%、寛解率45%でした。従って寛解率が50%以上となった当院の結果の方がやや優れていると言えそうです。ただ、ここで比較対象としている他施設を含む患者さん群には、先に試したお薬があまり効かなかったなどの素地(治療抵抗性)がある方も多く、単純に比較することはできません。また当院のスタッフは非常に優秀かつ接遇もよく、そうした治療外の部分も影響しているかもしれません。

――強迫性障害の臨床成績はいかがでしょうか?

強迫性障害についても、当クリニックでは半数の患者さんが、心理検査で30%以上の改善を示しました。強迫性障害に対するTMS療法が正式に承認されているアメリカでは、患者さんの4割近くが改善目標である30%の回復を達成し、さらに患者さんの半数以上が20%以上の改善を示したという報告があります。当クリニックではこのデータとほぼ同じで、やや優れた結果となりました。

改善率を示す30%、20%といった数字はYBOCSという評価スケールでの値です。30%以上の改善率が目標値(エンドポイント)です。30%と聞くと低く感じられるかもしれませんが、現実的にはかなり大きな値です。強迫性障害はあまり知られていませんが、とても重い病気なんですよ。「WHOが選ぶQOLを下げる疾患」のうち、10の重度の病気にとりあげられるほどに生活への支障が大きいのです。そういった患者さんにとって、30%の改善というのは非常に大きな数字です。

たとえば、学校の先生がいらっしゃって、産休のタイミングで急激に症状が悪化してしまい、外出の準備をするだけでも3時間あまり要するといったご相談を受けたことがあります。薬物療法は何をやっても十分に効果がなく、休職期限が迫ってしまったケースでした。最後の手段としてTMS療法を始めた結果、28%改善し、無事に復職できています。28%の改善が生活においてそれだけ重要な差であるということです。

TMS療法と心理療法を合わせて進めることで、半数程度の患者さんに効いています。効かなかった方には、論文で効果が示された別のプロトコルも5回ほど無償で提供しています。治療の際は病院に行ってもらって、頭頂部あたりに低頻度の刺激を与えるというもので、磁場を当てる部分が他の治療法と異なるので、ノウハウを見出しながら進めています。

――現在はコロナ後遺症を対象にTMSの効果を検証していると伺っています。これはどのような取り組みなのでしょうか?

大澤:2023年9月から、コロナの後遺症に対する臨床研究を始めました。コロナ感染が広がる中で複数の患者さんからご相談をいただいたので、お金はいただかない形で20例ほど治療を行い、あとから解析してみたんです。すると生活の質がだいぶ良くなり、特にブレインフォグと呼ばれるような認知機能低下の改善効果が際立っていることがわかりました。TMSのメカニズムからコロナ後遺症に対する治療が期待されていましたから、私たちも治療効果を科学的に正確に実証するためRCT(二重盲検ランダム化比較試験)の開始を決めました。

倫理委員会(CRB)での審査で認可をうけ、今年9月より70例のエントリーを目指して、臨床研究を開始しています。これから2年間を研究期間として、コロナ後遺症に悩む患者さんに効果が見込まれるTMS療法を当クリニックで提供していきます。次回の記事では、東京横浜TMSクリニックの経緯とクリニック選びのポイントについてお伝えします。

【医療法人社団こころみ】
東京横浜TMSクリニックHP:https://www.tokyo-yokohama-tms-cl.jp/

こころみクリニックホームページ:https://cocoromi-mental.jp

この記事の著者/編集者

ドクタージャーナル編集部(中条)   

薬学・生物学を専門的に学んだメンバーが在籍。ミクロな視点で最新の医療を見つめ、客観的にその理想と現実を取材する。科学的に根拠があり、有効である治療法ならば、広く知れ渡るべきという信念のもと、最新の医療情報をお届けする。

この連載について

【TMS療法、自由診療の現場から】エビデンスを読み解けば効果の高さがわかる

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。