クリニックの立地を考えるうえで重要な電車社会と車社会とは?

開業場所の選定はとても重要です。好立地で開業すれば、それだけ売上を見込みやすくなります。
では「好立地」とは何でしょうか?
その条件は開業予定の地域や診療科によって異なります。今回は電車社会と車社会という観点から望ましい開業場所について考えてみましょう。

電車社会における好立地

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電車社会とは主な交通手段が徒歩か電車の地域のことです。自家用車を持つ人が少ない東京23区、大阪府や神奈川県の人口密度が高い地域、地方都市の一部などが該当します。電車社会であれば駅から近い場所で開業するのが望ましいです。そのため、開業候補地は駅を中心とした円状の徒歩圏内になります。

電車社会は住宅街、オフィス街、商業エリアの3つから構成されています。電車社会で開業する場合は、標榜する診療科のターゲット層を踏まえたうえで、最もターゲット層が集中しており通りがかりやすい地域を選ぶと良いでしょう。

ただし電車社会の中でも都市部は開業人気エリアのため、競争が激しい地域です。人気エリアほど1クリニックあたりの患者数が減少しやすいうえ、家賃や人件費が高くなることから採算が取りにくくなります。人気エリアで開業したいのであれば、実際の数値をもとにしたリアルな経営シミュレーションをし、どの程度の採算が取れるのか確認しておきましょう。

ちなみに、マイナーな診療科であるほど遠方から来院する患者さまが多くなる傾向にあるので、かなりマイナーな診療科であれば多くの路線が停車する駅が好ましいです。

電車社会における注意点

電車社会は一駅間の距離が短いという特徴があります。最寄り駅が2~3つあるというクリニックも珍しくありません。その分患者さまの来院経路が広がって良いように思えますが、駅と駅との距離が近いと診療圏が分断されてしまうこともあります。本来は診療圏になり得るはずの場所でも、駅と駅との中間付近で診療圏が途切れてしまい、狭い範囲でしか集患できない可能性も考えなければなりません。

駅との駅の間に住んでいる人は、職場へ最短で行ける路線の方へ行きます。買い物等もその駅から自宅までの間に済ませることが多いでしょう。クリニックも同様です。近くではあっても普段利用しないもう1つの駅にはあまり行くことがありません。同じ駅周辺に競合がなかったとしても、診療圏が極端に狭く需要が少ないこともあるので注意が必要です。

電車社会で患者さんが集まる立地とは?

電車社会の代表例である東京23区。多くの開業医からも人気を集めるエリアなので、競合がまったくない地域を探すのは不可能と言っても過言ではありません。ですから、需要が供給を上回る地域かつ少しでも競合が少ない地域を探すのが基本的なスタンスとなります。

また、駅は西口・東口などによって生活圏がある程度分断されるため、駅周辺にクリニックが多数あったとしても競合の影響はそれほど受けない場合があります。

とはいえ、需要が供給を上回る地域で競合がいないような空白地であれば、どの場所を選んでも良いわけではありません。将来的に競合が開院する可能性があるため、できるだけ参入障壁がある立地を選ぶことも大切です。

電車社会で開業するなら、駅から徒歩3分圏内かつ人通りがあるエリアの1階をおすすめします。1坪あたりの賃料が高い物件ばかりではありますが、通りがかる人が多ければ認知度が上がり、来院されやすくなるからです。

とはいえ、通りがかる人の多くがターゲット層と違っているなど、患者さまになり得ない場合には別の場所を探した方が良いでしょう。

ちなみに、ファストフード店やドラッグストアなどの大手チェーン店がすぐ近くにあるかどうかも一種の判断基準になります。本社で厳格な調査をし、採算が取れると見込まれた場所に構えているからです。ただし、コンビニは数が多すぎて参考にしにくいため注意しましょう。

電車社会で苦戦しやすい立地とは?

単一路線の駅で徒歩3分以上、規模の大きな複数路線の駅で徒歩5分以上の空中階にあるクリニックは認知されにくく、苦戦しやすい傾向にあるといわれています。駅から遠い場所は、電車を利用して来院する人にも敬遠されがちです。

同じビルでも階数が違えば認知度に差が出ます。通りがかった時に最も目に留まりやすいのは1階です。多少家賃が高くなっても、来院見込み数を考えると1階で開業した方が集患しやすくなります。

ですが、あまりにも規模が大きな駅だと1階の家賃がかなり高額になるため、固定費に経営を圧迫されがちです。ある程度の来院が見込めたとしても、最初からそこで開業するのはリスクが高すぎます。通りがかりよりもネット経由での来院が中心になるでしょうが、大きな駅の近くで開業する場合には、2階以上を選ぶのが無難です。

家賃の高い場所で開業する時代

競争が激しい歯科では、夜間診療や休日診療を行うクリニックが駅前の1階に進出しています。どれだけ診療時間を延ばしても、家賃が高いところでないと患者さまが集まりにくくなっているからです。

クリニック全体の競争が激化すれば、他の診療科においても同様の現象が起こると思われます。その時に有利なのは、当然ながら駅前1階に構えているクリニックです。クリニックはよほどのことがない限り、10年ほどは移転しません。その間に世の中は目まぐるしく変わっていきます。将来にわたって経営を安定させるためにも、家賃相場が高い好立地を初めから除外しない方が賢明です。

家賃の予算感

あくまで一般論ですが、クリニックを含む店舗型ビジネスにおいては、売上の10%前後が家賃の目安といわれています。

年間の売上が5,000万円なら家賃も通年で500万円、売上が1億円なら家賃は1,000万円が目安となるわけです。大きな売上を目指すほど、それに見合った家賃の場所で開業しなければなりません。

ところが、初めて開業する医師の場合、開業資金をある程度定めているため、家賃にかける予算は低いのにそれ以上の売上を目標にしていることがあります。

予算を抑えて物件を探すということは、あまり良いとは言えない立地ばかりが選択肢にあるということです。満足のいく売上を立てるのは難しいでしょう。

車社会における好立地

車社会に明確な定義はありませんが、日用品の買い物など、車を普段使いする人が多いのが特徴です。車社会では必ずしも駅前が好立地になるわけではありません。特に、駅の近辺に競合が多い場合には、駅から離れた場所を選んだ方が良いこともあります。

車社会において望ましい立地は、ロードサイド(幹線道路沿い)、大型スーパーやショッピングモールの隣、ショッピングモール内の3種類。

ロードサイドは飲食店やスーパー、衣料品店など、多くの業種が出店する場所です。したがって患者さまの来院も見込みやすいと言えます。ですが、交通量は多くても近隣住民の利用が少なかったり、駐車場へ入りにくかったりなどのマイナス要素があると、来院されづらくなるので気をつけましょう。

スーパーは週2~3回ほど来店される場所です。その隣にクリニックを開業すれば、買い物をするときに認知してもらえるので、通りがかりの患者さまを増やしやすいと言えます。

また、ショッピングモールであればスーパーよりも広範囲の地域から来店されるので、より広い範囲での集患が見込めるでしょう。ただし、ショッピングモール内外に競合が来る可能性もあるので注意が必要です。

なお、ショッピングモール内に構える場合、建物内での位置が重要です。ショッピングモール自体、人が集まりやすい場所ではありますが、だからといってどの場所でも良いわけではありません。人が集まりにくく通りがかる人数が少ない場所や、奥まっていて認知されづらい場所は避けましょう。

人が集まりやすいのは、メインの出入り口、駐車場からの出入り口、エレベーターやエスカレーター付近、人気テナントの近くが挙げられます。

車社会で好立地を選ぶ意味

車社会の中でも都市部から離れた地方の場合、競争がそれほど激しくないため、どの立地でもある程度の来院は見込めるでしょう。

そうは言っても、やはり認知度が高い立地で開業するに越したことはありません。家賃が比較的高くなったとしてもです。

好立地で開業するメリットは、単に売上が上がるだけではありません。患者さまが多ければ、自分の得意分野に絞って診療することもできます。また、高い家賃は参入障壁になり得るので、将来的に競合が増える確率を下げることもできるのです。

車社会で苦戦しやすい立地とは?

車社会は比較的集患しやすいと思われるかもしれませんが、苦戦しやすい立地もあります。患者さまが集まりにくい立地を以下に4つ挙げました。

交通量の少ない道路沿い

当たり前のことですが、交通量が少なければ多くの人に認知してもらうのは至難の業です。場合によっては、車社会にもかかわらず徒歩圏内の患者さましか来院されないこともあります。

駐車場が近くにない

車社会では、多くの人が移動に車を使います。具合が悪いのであればなおさらです。家族に車で連れてきてもらう患者さまも多くいます。そのため、駐車場が近くにない場合は他のクリニックへ流れてしまうこともあり、選ばれにくいのです。

また、駐車台数や駐めやすさもリピート率に影響するので、開業場所を決める際に駐車場のチェックは欠かせません。

乗降客数の少ない寂れた駅前

駅前であっても、駅の利用者が少なく駐車場の確保もしづらい場合には、集患しにくい立地と言えるかもしれません。車社会では、駅が絶対的な顧客誘導施設にならないからです。あまり栄えていない駅であれば、別の場所を検討してみた方が良いでしょう。

たとえば一日の乗降客数が2万人以下で、交通量も多くなく、駐車スペースを確保しにくい場所であれば、開業候補地から外した方が良いと思います。また、人が集まりやすいかどうかはテナントの空き具合によっても判断できるでしょう。

近くに調剤薬局がない

ごくまれなケースかもしれませんが、近くに調剤薬局がない立地もあります。院外処方を検討しているのであれば、調剤薬局がどの程度の距離にあるのかを確認しておきましょう。

周りにめぼしい調剤薬局がない場合、調剤薬局を誘致しやすい物件を選ぶのも一つの手です。

開業候補地は吟味してスマートな経営を

今回は電車社会と車社会を軸に据えて、望ましい開業場所についてご紹介してきました。現在検討している場所が電車社会と車社会のどちらに該当するのかを考え、慎重に候補地を選んでいくことが大切です。診療科やターゲット層を踏まえたうえで、もしここで開業したらどの程度の利益が見込めるかをシミュレーションしてみてください。

手間に思えるかもしれませんが、開業前にじっくり時間をかけることこそが、その後の経営を大きく左右します。まだ本連載は続くので、ぜひ他の記事も参考にしながら自院にとって望ましい立地を見つけていただければと思います。

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この記事の著者/編集者

蓮池林太郎 医療法人社団SEC 新宿駅前クリニック院長 

1981年、東京都生まれ。5児の父。医師。作家。帝京大学医学部卒業。2009年、新宿駅前クリニック開業。2011年、医療法人社団SEC設立。クリニックの開業支援や経営コンサルティング、記事執筆、講演などをおこなう。著書に「競合と差がつくクリニックの経営戦略―Googleを活用した集患メソッド」(日本医療企画)、「患者に選ばれるクリニックークリニック経営ガイドライン」(合同フォレスト)など。

  医療法人社団SEC理事長
  新宿駅前クリニック 皮膚科 内科 泌尿器科 院長
  蓮池林太郎(はすいけりんたろう) 
  蓮池林太郎ホームページ:https://www.hasuikerintaro.com
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この連載について

クリニック経営は開業場所で決まる。立地選びの大原則

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。