クリニックを開業したい医師におすすめ!好立地の物件探しのコツ

これまでの記事で、立地が重要であることをお伝えしてきましたが、そもそも好立地の物件が見つからないと悩む方もいらっしゃるのではないでしょうか。

良い条件であればあるほど、クリニックに限らず他業種にも狙われやすくなります。将来の集患に繋げるためには、時間や労力を惜しまず物件を探すことが必要です。今回は物件の探し方について詳しくご説明します。

物件の探し方

location

まずは、需要が供給を上回り、競合が弱い地域をリストアップします。リストや競合のある位置はノートや地図に書き込むと、より整理しやすくなるでしょう。開業場所はその後の経営を左右する非常に重要な要素なので、ここで手間を惜しんではいけません。

地域が決まったら次は物件探しです。それにあたり、前テナントの退去が決まった後の流れを把握しておいた方が良いでしょう。

一般的には、前テナントから退去の申し出があると、管理会社が物件オーナーにその旨を連絡します。物件オーナーは不動産会社に依頼して新たに入居希望のテナントを探すのですが、正式に募集開始する前に不動産会社が関係者に物件情報を伝えることもあります。その際に物件が押さえられてしまう場合もあるので、先回りして行動するのがおすすめです。

それでは物件探しについて詳しく見ていきましょう。

不動産会社に直接依頼する

不動産会社であればどこでも良いというわけではなく、開業希望エリアの不動産会社に直接出向くのが好ましいです。地元の不動産会社であれば、ネットに出てこないさまざまな情報を持っていることがあります。

一社のみでは取り扱っている物件が限られているので、複数の不動産会社を利用すると効率的です。たとえ条件に合う物件がなかったとしても、駅からの距離、坪数や家賃などの希望を伝えておけば、空き物件が出てすぐに連絡してもらえることもあるので、上手く不動産会社を活用しましょう。

ネットで探す

「地域名+貸店舗」「地域名+店舗+賃貸」「地域名+テナント+賃貸」などのキーワードでネット検索すると、さまざまなサイトが表示されます。この際、上位に出てくるのは各種不動産ポータルサイトです。「アットホーム」「ホームズ」「スーモ」などのサイトを使う際は、希望する条件を登録しておき、新規物件が掲載された際には通知されるように設定することをおすすめします。

また、各種不動産会社ポータルサイト以外にも、その地域にある不動産会社の物件情報ページが表示されることもあります。これらの情報を手がかりに、直接訪ねる不動産会社を決めるのも良いでしょう。

調剤薬局に依頼する

調剤薬局はクリニックの開院・閉院の情報をもとに、新規出店や閉店を判断しています。そのため、各地に展開している大きな調剤薬局に開業場所を探していると伝えることで、薬局近辺の物件が空いたときに、情報提供してもらえることがあるのです。

調剤薬局には、医師が出した処方箋を持つ患者さまが多く訪れます。周辺にクリニックができることは、薬局の利益に繋がることです。もちろん、近くに調剤薬局があることはクリニック側のメリットにもなります。

開業コンサルティング会社に依頼する

クリニックを開業するためには諸々の手続きが必要です。開業場所の選定を始め、事業計画書の作成や、メーカー・業者との価格交渉など、幅広く開業支援してくれます。

ただし、コンサルタントによっては紹介料が発生する物件のみを紹介したり、不動産ポータルサイトで掲載されている物件しか情報提供しなかったりする人もいるので注意が必要です。開業コンサルタントの最も重要な役割は「患者さまが集まる開業場所の物件情報を探し、その立地を正しく評価・分析できること」だと私は考えています。開業コンサルタントの良し悪しを見極めるためにも、自身でしっかり情報収集することが大切です。

地域を歩いて探す

地域を実際に歩いてみて、テナント募集している空き物件を探すのも一つの手です。気になる物件があれば、テナント募集の看板に書いてある連絡先へ問い合わせましょう。

ただし、テナント募集となっている空き物件は退去から時間が経っていることが多いです。長期間契約が結ばれないということは、相場より家賃が高いなどの理由が考えられます。問い合わせ時に、物件の詳細や前の契約者の退去理由をよく聞いた方が良いでしょう。

物件のチェックポイント

物件を確認する際、賃料や広さばかりに注目していませんか?

もちろん、これらも大事なチェックポイントですが、開業後の集患を考えるのであればさらに吟味する必要があります。ここでは、内見のときによく確認しておいた方が良いことを項目別にお伝えします。

前テナントの退去時期

前テナントの退去時期によっては、内装工事や開院の日程に影響することもあります。どのような店舗だったのかにもよりますが、原状回復工事に1か月ほどかかることがあるからです。また、内見のときに物が残っているようであれば、どのような状態で引き渡しになるのか確認しておきましょう。

視認性

これまでの記事でも述べてきた通り、認知されやすい場所であるかどうかは非常に重要です。具合が悪くなったとき、思い出してもらえるか否かで集患状況も大きく変わってきます。

ですから、基本的には1階であることが望ましいです。しかし、1階であっても奥まった位置にあったり、路地裏だったりすると、外から見ても分かりにくいので注意してください。

一般的に、角地やT字路に位置する物件は、複数の方向から人が歩いてくる(車が通る)ため、認知されやすくなります。人や車が立ち止まりやすい信号機や横断歩道の近くも同様です。また、間口は広い方が認知されやすくなります。その物件が、道路に面している幅もよく見ておきましょう。

看板を設置できる場所

ビルなどの場合、看板費用が別途かかることがあるので、事前に確認が必要です。また、看板がどこに設置できるかも確かめましょう。ビルごとに看板の設置場所やデザインのルールがある場合もあります。

十分なスペースの確保

location

クリニックにおいては、受付、待合室、診察室、処置室、トイレ、更衣室、休憩室などのスペースが必要です。給排水の設備も含め、クリニックを問題なく開業できるかどうか、内装工事会社などに見てもらうことをおすすめします。後になって保健所の基準を満たせなかったということになると大変なので、契約前にしっかり確認を取りましょう。

また、診療科や治療内容によっては、検査室や手術室なども必要になることがあります。坪数は十分でも、物件の形や柱の位置によっては診療に適したスペースが取れない可能性があるので、人の出入りや棚の設置などまで細かく考慮しなければなりません。

内装の状態

内装の状態は内装費用に直結するので、予算を鑑みて一つひとつ確認してください。天井や壁、床がコンクリートむき出しになっている状態をスケルトンと言います。一から整備しなければいけないので、内装費用は高額になりやすいです。一方で、自分の好みに設計しやすいというメリットもあります。

空調や天井、床、トイレなどがある事務所仕様であれば、これらの設置工事が必要ないため内装費用が抑えられるので、開業費用をできるだけ安くしたい方におすすめです。なかには前テナントの設備や什器がそのまま残された居抜き物件もあります。もし前テナントがクリニックであれば、かなり費用を抑えられるでしょう。

近隣のテナント

同じビルの上下階、左右のテナントで騒音や匂いがないかなども確認してください。飲食店が多い場合やゴミの集積場所が近くにある場合は、綺麗にゴミ出しされているかどうかも確かめます。クリニックは清潔感が大切なので、周囲の環境ゆえに敬遠されることがないか、よく見ておくことが必要です。

なお、日中に内見して問題がなかったとしても、夕方以降は近隣の飲食店の音や匂いが気になってしまうこともあります。時間帯によって営業しているお店が異なりますので、周りのテナントに問題ないかどうかは営業時間も含めて確認しておくと良いでしょう。

近隣のテナントは内見の際に確認することもできるでしょうが、Googleアース、Googleストリートビューなどのアプリを使えば、現地に行かなくても物件の外観を閲覧することができます。事前にネットで確認しておき、気になる箇所などをリストアップしておくと、内見当日に漏れなくチェックしやすいです。

駐輪場・駐車場

電車社会と車社会の中間地域では、自転車による来院が多くなります。自転車置き場がなく、クリニックの前が通りにくくなってしまうと、近隣住民とトラブルになることがあるので、駐輪場の有無にも気を配らなければなりません。

また、車社会においては駐車場の数や駐車しやすさも重要です。車での来院が不便な物件だと、来院率やリピート率が下がってしまうことがあります。他の条件は良いけれど駐車場だけがないということであれば、近くの駐車場と提携するなどの工夫もしてみましょう。

調剤薬局の位置

院内処方ができるクリニックであれば問題ありませんが、多くのクリニックは院外処方だと思います。患者さまの多くは薬を必要とするため、近所に調剤薬局がない場合は利便性が下がってしまい、来院されにくくなってしまいます。徒歩5分圏内に調剤薬局がないのであれば、その場所での開業は検討し直した方が良いかもしれません。

好立地の物件に入居するには

今回は物件の探し方や見極めるポイントについてお伝えしてきました。ただ、立地や条件の良い物件を借りたいのはクリニックだけではありません。コンビニ、ドラッグストア、飲食店、理美容室など、さまざまな業種の店舗がライバルです。各方面からの需要が高いので、当然のことながら良い物件ほどすぐに次の契約が決まります。

ですから、ネット上に掲載されるのを待っていては遅いのです。物件を所有・管理するオーナーや不動産会社と繋がりを作り、いかに早く物件情報を得られるかが重要になります。居住用の物件探しとは異なることを念頭に置き、じっくり腰を据えて吟味しましょう。

開業後の立ち上がりで苦労しているのは、立地が悪いクリニックばかりです。「駅から遠い」「外からでは分かりにくい」「人通りが少ない」といったマイナスポイントがあると、他の条件が良かったとしても台無しになってしまいます。何よりも患者さまに来院してもらえる立地であることが大切です。そのため、身内などからクリニックや土地を継承する場合でも、本当にその場所で来院が見込めるかを慎重に検討する必要があります。
もっと詳しく立地について知りたいという方は、クリニックの立地選びに特化した解説本『クリニックは立地で決まる!患者が集まる開業場所の選び方』をぜひ参考にしてみてください。

クリニックは立地で決まる!患者が集まる開業場所の選び方

この記事の著者/編集者

蓮池林太郎 医療法人社団SEC 新宿駅前クリニック院長 

1981年、東京都生まれ。5児の父。医師。作家。帝京大学医学部卒業。2009年、新宿駅前クリニック開業。2011年、医療法人社団SEC設立。クリニックの開業支援や経営コンサルティング、記事執筆、講演などをおこなう。著書に「競合と差がつくクリニックの経営戦略―Googleを活用した集患メソッド」(日本医療企画)、「患者に選ばれるクリニックークリニック経営ガイドライン」(合同フォレスト)など。

  医療法人社団SEC理事長
  新宿駅前クリニック 皮膚科 内科 泌尿器科 院長
  蓮池林太郎(はすいけりんたろう) 
  蓮池林太郎ホームページ:https://www.hasuikerintaro.com
  ――――――――――――――― 
  〒160-0023 東京都新宿区西新宿1-12-11山銀ビル5F
  TEL:03-6304-5253   
  FAX:03-6304-5257   
  Mail:catdog8461@gmail.com
  
新宿駅前クリニックホームページ:https://www.shinjyuku-ekimae-clinic.info
  
医療法人社団SECホームページ :https://www.shinjyuku-ekimae-clinic.com
  
新宿駅前クリニックグーグルマイビジネス: https://goo.gl/maps/vuqvcQUASHikzUgA9

この連載について

クリニック経営は開業場所で決まる。立地選びの大原則

連載の詳細

最新記事・ニュース

more

遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。

人工内耳の発展によって効果や普及率が格段に高まってきた現代。今だからこそ知りたい最新の効果、補聴器との比較、患者さんにかかる負担について伺いました。重度の難聴を持つ患者さんが、より当たり前にみな人工内耳を取り付ける日は来るのでしょうか。

本連載の最後となるこの記事では、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、これからの悠翔会にとって重要なテーマや社会的課題、その解決に向けてのビジョンについて伺いました。

こころみクリニックは正しい情報発信とぎりぎりまで抑えた料金体系、質の高い医療の追求を通して、数多くの患者を治療してきました。専門スタッフが統計解析して学会発表や論文投稿などの学術活動にも取り組み、ノウハウを蓄積しています。一方でTMS療法の複雑さを逆手に取り、効果が見込まれていない疾患に対する効果を宣伝したり、誇大広告を打つクリニックもあり、そうした業者も多くの患者を集めてしまっているのが現状です。 こうした背景を踏まえ、本記事ではこころみクリニックの経緯とクリニック選びのポイントについて伺いました。

前回記事に続いて、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、「死」に対しての向き合い方と在宅医が果たすべき「残された人生のナビゲーター」という役割についてお話しを伺いました。

人工内耳の名医でいらっしゃる熊川先生に取材する本連載、1記事目となる本記事では、人工内耳の変遷を伺います。日本で最初の手術現場に立ったのち、現在も71歳にして臨床現場で毎日診察を続けられている熊川先生だからこそお話いただける、臨床実感に迫ります。

本記事では主に医師に向けて、TMS療法に関する進行中の研究や適用拡大の展望をお伝えします。患者数の拡大に伴い精神疾患の論文は年々増加しており、その中で提示されてきた臨床データがTMS療法の効果を着実に示しています。さらに鬼頭先生が主導する研究から、TMS療法の可能性が見えてきました。

お話を伺ったのは、医療法人社団こころみ理事長、株式会社こころみらい代表医師でいらっしゃる、大澤亮太先生です。 精神科医として長い臨床経験を持ち、2017年にこころみクリニック、2020年に東京横浜TMSクリニックを開設され、その後も複数のクリニックを展開されています。 科学的な情報発信と質を追求した診療を通して、日本でも随一の症例数を誇るこころみクリニック。自由診療としてぎりぎりまで料金を抑え、最新のプロトコルを提供しながら学術活動にも取り組まれています。そんなこころみクリニックに取材した連載の第1回となる本記事では、臨床運営の現場から見えてきたTMS療法の治療成績と、コロナ後遺症への効果を検証する臨床研究をお聞きしました。