#04 患者さんは様々な不安を抱えている。だから支援する医療、優しい医療を目指す。
連載:緩和ケアや在宅医療の目標とは、QOLを高め、生活を支えること
2020.08.19
医療とは、患者さんを支援すること
患者さんは様々な不安を抱えています。だから支援する医療、優しい医療を目指すのです。一般的に、医療を施すという言い方がありますが、施す医療とは古い時代の医療になっていくのではないでしょうか。
医療とは、医学という専門の知識を使ってどのように患者さんを支援するかということであり、医師も支援者として考えれば、介護や福祉に携わっている人たちとの立ち位置は何ら変わるものではありません。
まず医師が医療の垣根を取り払い、関わる全ての人がフラットな関係性の中で対人支援ができることが理想だと思います。場合によっては患者さん本人もフラットな関係性になっていろいろな情報を共有しながら治療の意思決定を共有しながら治療を進めていくというのも今後の大切な方向性だと思います。
時には患者さんのお宅に多職種の人たちが集まって、患者さん本人とご家族も交えて在宅ケアカンファレンスも行います。そこでは全員がそれぞれの立場から、今後の患者さんやご家族にとっての最善のケアを検討し決定していきます。そこでは全員が完全にフラットです。当院ではそのように取り組んでいます。
さらに加えて、最近思っているのは「安心」ということです。認知症の患者さんだけでなく、高齢者の方々も様々な不安を抱えています。
例えば最近胸がおかしいのは死に至る病ではないか、とか悩んでいるような方がいます。それを大丈夫ですよと安心させてあげるだけで、その方の全体のQOLが上がってくることもあります。
それを私は、優しい医療を目指すと言っているのですが、そのような患者さんとのコミュニケーションや優しさは、これからの医療に必要となってくるのではないでしょうか。
但し、それには手間がかかります。今後高齢者の方がますます増えてきたり、終末期の患者さんが増えてきたら、果たしてどこまでできるのかとの不安はあります。
しかし、優しさが伝わり不安とか心配が解消されれば、そのあとの診療過程ではスムーズに進むことも多くなり、最終的にはどちらの方が手間がかからないかは、一概に判断できないとも思っています。
不安はQOLを損なう因子の一つです。高齢者の方で不安を抱えて日々を暮らしている方は多いと思います。私は医師として、その不安を少しでも解消できるように患者さんに関わっていきたい。
私の顔を見るとホッとするとか安心すると言って頂ける外来や在宅の患者さんがいます。とても嬉しいことです。実はその関わり方が大事なことだと思っています。
一人の町医者として町づくり関わる
私は商店街や地域と積極的に関わって、医療関係者以外のいろいろな人たちとも繋がりながら、これからの高齢者社会を一緒に支援していけるような町づくりと体制を作っていきたいと思っています。
医師が町づくりに関わるとしても、主体者にはなれません。町づくりとは、そこに住む住民の方々と一緒に取り組んでいくことだと思っています。
私自身も住民の一人として、また主体者の一人として、街作りに取り組んでいるいろいろな人たちと繋がって、一緒にできることを行っていきたい。その積み重ねでこの町全体が優しく住みやすい地域になっていくということが町医者としての私の目標です。
東京はコミュニティーが崩壊して冷たい町も多いと言われています。しかし、父が50年以上も前から診療所を開き、私が生まれ育った大田区のこの地域にはまだたくさんの繋がりがあり、昔からのコミュニティーも残っています。
地域の人が困った時には、その相談がきちんとこちらに伝わってくるような繋がりのある町にしたいと思っています。そんな街づくりも、私の医師としての使命だと思っています。
在宅医療は医療の頂点
私は、午前午後に外来診療を行なう普通の内科診療所の医師です。東京の大田区で仕事をしています。患者さんからのニーズに応じて在宅診療を行なうようになり、気づいたときには、在宅医療にすっかり魅了されてしまいました。
ここには、医療の原点があるように思います。医師と患者、家族の信頼関係。世代を通して存在する医師と家族とのつながり。困難な時を医師と患者と家族が協力して乗り切る姿。効率性を重視し死を避ける医療を目指したあまりに、現在の病院医療が失いかけているものです。
在宅医療を新しい医療と捉える仲間もいます。しかし、私は在宅医療を古くから存在する当たり前の医療と考えています。
歩けるうちは近くの診療所に通い、歩けなくなれば在宅医療を受ける。やがて家族に囲まれて、その最期を迎える。最も自然な形の医療ではないでしょうか。
これを支える存在が地域における主治医という存在であり、かかりつけ医、家庭医、プライマリ・ケア医と呼ばれるものではないかと考えています。
残念ながら、このような医療は日本においては決してメジャーな医療ではなくなってしまいました。もちろん医療側の問題以外にも、社会的な問題の影響が大きいことは承知しているつもりです。
しかし、そのような医療が可能な社会的環境を持っていても、それを生かすことができないケースも決して少なくないと考えています。それは主治医の機能を十分に活用することができなかったケースではなかったのではないでしょうか。
このような医療は確かに簡単なことではありません。相当な努力が必要かもしれません。しかし、がんばったあとは、少しだけ気分がよくなります。医師としての自分の存在意義が少しわかってきたような気にさえなるのです。
こんな気分を今まで在宅医療を知らなかった皆さんにも味わっていただきたい。私はそのように願っています。
(一般社団法人 全国在宅療養支援診療所連絡会ホームページより)
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森口敦 ドクタージャーナル東大生チーム・コーチ兼メンター