クリニックの人事・労務トラブルを防ぐには

<本連載について>
新宿で高い人気を誇る「信頼と実績」のクリニックを経営するカリスマ院長が、自らの実体験をもとにクリニック経営のノウハウをご紹介。クリニックを開業するにあたって重要な立地選び、ネット広告、接遇マナー、採用・教育など、今の時代に即した経営戦略をお伝えします。

患者さまからのクレームが多い、離職率が高いといった問題が起こる場合、その根本的な原因は「人」にあります。起こり得る労務トラブルを防ぐためには、人事としての管理にも力を入れなければいけません。今回はクリニックのトラブルにまつわる事柄についてご紹介します。

労務トラブルを起こしやすい種

クリニックで起こりやすい主なトラブルは以下の通りです。

  • 患者さまへの対応が悪くクレームを受ける
  • 院長や上司の指示を守らずに勝手な仕事の進め方をする
  • 他のスタッフや診療に支障をきたす休み方をする
  • クリニックの運営に影響が出るほどスタッフ間の仲が悪い
  • 突然欠勤するまたは辞める(来なくなる)

なぜこのようなことが起こってしまうのでしょうか。

こういった労務トラブルの種となるのは、大きく分けて「人」「ルール」の2つです。職場環境を構成する要素はいくつかありますが、そのどれもが人によって作られるもの。つまり、どんな人がいるかによって環境が左右されるということです。経営者である自身のスタンスや目的をしっかり定め、磨くことはもちろんですが、本当に必要な人材を集めることも大切になります。

ルールはスタッフ全員の足並みを揃えるために欠かせません。特にクリニックは他の業界とは性質が異なるので、何かあった時に注意・指導をしやすくしたり、クリニックや患者さま、スタッフを守ったりするためにも重要な役割を果たします。非常に重要なものだからこそ、ルールに穴があると思わぬトラブルの種になってしまうのです。

ここで言うルールとは、労働基準法や労働契約法、パートタイム・有期雇用労働法といった法律のことだけではありません。一般に「院内ルール」と呼ばれるそのクリニック独自のルールをも含みます。患者さんや他のスタッフの呼び方だったり、身だしなみについてだったり、法律では規定されていない細かな部分を決めることで、クリニック内の秩序が保たれます。すべてをルールで規定しなければならないというわけではありませんが、接遇や就業時間といった基本的な事柄や、労務トラブルに発展しそうな懲戒処分については、しっかり策定しておいた方が良いでしょう。

問題が起きてしまった時の対処法

solution

トラブルが起きないに越したことはありませんが、大なり小なり何かしらのトラブルがおきることは覚悟しましょう。大切なのはトラブルが起きてしまった後にどう動くかです。問題解決に向けて適切に対処できるよう日頃から準備をしておくことをおすすめします。ここでは、想定しておくべき対処法をいくつかご紹介するので、頭の片隅に置いてもらえたら嬉しいです。

第一段階:注意・指導

まずは口頭で注意や指導をしましょう。その際、何がいけなかったのかに気づかせることが大切です。何回か注意・指導をしても同じことを繰り返す場合や、重大なミスや労務トラブルが起こってしまった場合については、口頭ではなく書面で行うのも選択肢の一つです。ただし、どちらの場合でも周囲の目に付かないところで行ってください。他の人が見ているところだといらぬ羞恥心や反発心を煽ってしまい、別のトラブルに繋がりかねません。

第二段階:周囲からの声がけ

第一段階を経ても問題が相次ぐ時は、院長以外から声がけも試してみましょう。一緒に働く他のスタッフに注意を促してもらうことにより、院長からの注意とは違った印象を持ってもらいやすいです。

また、大抵の人にとっては雇用主よりも上司や同僚からの目の方が気になるもの。そんな相手に注意をされれば居心地の悪さは当然感じるでしょう。その結果、改善に結びつきやすいと言えます。

第三段階:採用・雇用の準備

職場と方向性や考え方などが合わなかった場合、退職を希望することもあります。退職届が出された時は速やかに新たなスタッフを雇い入れる準備を進めましょう。実際に退職を表明される前でも、辞めそうな雰囲気があれば雇用に向けて動いておくと良いですね。自院に適した人材を迎えられるよう、しっかり時間をかけて採用準備をしてください。

関連:長く勤務してもらえる職場作りと採用のコツ
関連:クリニックにおける採用・面接時の注意点

労務トラブルを未然に防ぐには

先ほど述べたように、トラブルを0にすることは非常に困難です。しかし、きちんと対策をしていれば防げるものもあります。ここではトラブル防止策を3つご紹介します。

①採用・教育に力を入れる

前回までの記事でも書きましたが、スタッフはクリニック経営を左右する重要な柱です。自院に合った人材を雇用することが労務トラブルの予防にも繋がります。ですから、新しく人を雇い入れる際には、よくその人柄や能力を吟味しなければいけません。

たとえば、能力が低い人や性格に難がある人は転職市場に出やすいです。転職が当たり前の時代になったとはいえ、職務経歴には十分に目を配る必要があります。また、他の業界では活躍できる人材だとしても、クリニックにおける職業適性は低い場合もあるでしょう。

がん細胞のような人がいるクリニックは、どれだけ経営者が手を尽くしても環境改善は望めません。環境は人に依存するということを念頭に置き、自院に合った人材確保と育成に力を入れましょう。

②ルール作りを徹底する

この記事の最初に、労務トラブルの種になるものの一つはルールだとお伝えしました。ルールでスタッフを縛りつけろというわけではありませんが、明確なルールがあることでクリニックへの理解や仕事に対する意識づけに役立ちます。個人経営の小さなクリニックだと就業規則を設けていないところもありますが、トラブル防止のためにも就業規則はしっかり定めておきましょう。

また、就業規則や雇用契約書、誓約書などの内容は定期的に見直すことも大切です。時代の流れと共に記載すべきことも変わってきます。開業前や開業した直後では分からなかったことも、後々必要性を感じることもあるでしょう。

③コミュニケーションを積極的に取る

人事に求められるのは把握とケア。クリニックの内情、ひいては人間関係を把握することで先回りした対応ができます。たまには一緒にごはんを食べるなど、仕事以外の時間も活用しながら円滑なコミュニケーションを取れるように気を配りましょう。常日頃からコミュニケーションを取りやすい雰囲気を築いておくことで、何かあった時の報連相も徹底できます。

人事・労務管理を大切に

近年はインターネットで簡単に情報を手に入れられるようになったことから、職場に不満を持ったスタッフが労働組合や労働基準監督署に駆け込むといった労務トラブルも増えています。

経営者である以上、開業前は場所の選定や融資の検討などに追われ、開業後も診療や収益計算、経営計画の立案などやることは後を絶ちません。ですが、忙しいからこそ余計な問題は持ち込みたくないはず。

不穏の芽は事前に摘み取り、万が一のことが起きてもスムーズに対処できるよう、人事・労務管理にも目を向けましょう。この記事が安定したクリニック経営に役立てられれば幸いです。

この記事の著者/編集者

蓮池林太郎 医療法人社団SEC 新宿駅前クリニック院長 

1981年、東京都生まれ。5児の父。医師。作家。帝京大学医学部卒業。2009年、新宿駅前クリニック開業。2011年、医療法人社団SEC設立。クリニックの開業支援や経営コンサルティング、記事執筆、講演などをおこなう。著書に「競合と差がつくクリニックの経営戦略―Googleを活用した集患メソッド」(日本医療企画)、「患者に選ばれるクリニックークリニック経営ガイドライン」(合同フォレスト)など。

  医療法人社団SEC理事長
  新宿駅前クリニック 皮膚科 内科 泌尿器科 院長
  蓮池林太郎(はすいけりんたろう) 
  蓮池林太郎ホームページ:https://www.hasuikerintaro.com
  ――――――――――――――― 
  〒160-0023 東京都新宿区西新宿1-12-11山銀ビル5F
  TEL:03-6304-5253   
  FAX:03-6304-5257   
  Mail:catdog8461@gmail.com
  
新宿駅前クリニックホームページ:https://www.shinjyuku-ekimae-clinic.info
  
医療法人社団SECホームページ :https://www.shinjyuku-ekimae-clinic.com
  
新宿駅前クリニックグーグルマイビジネス: https://goo.gl/maps/vuqvcQUASHikzUgA9

するとコメントすることができます。

新着コメント

  • 森口敦

    ドクタージャーナル東大生チーム・コーチ兼メンター 2022年01月26日

    今回も、経営者として手を抜いてはいけない重要なことを教えてくれています。
    ・信頼を深めるためにも、大切な方針・ルールは書面で交わす。
    ・スタッフが理解しやすい環境・関係を用意しておく。

この連載について

人気クリニック経営者・蓮池林太郎のネット集患テクニック

連載の詳細

新宿で高い人気を誇る「信頼と実績」のクリニックを経営するカリスマ院長が、自らの実体験をもとにクリニック経営のノウハウをご紹介。 クリニックを開業するにあたって重要な立地選び、ネット広告、接遇マナー、採用・教育など、今の時代に即した経営戦略をお伝えします。

最新記事・ニュース

more

遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。

人工内耳の発展によって効果や普及率が格段に高まってきた現代。今だからこそ知りたい最新の効果、補聴器との比較、患者さんにかかる負担について伺いました。重度の難聴を持つ患者さんが、より当たり前にみな人工内耳を取り付ける日は来るのでしょうか。

本連載の最後となるこの記事では、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、これからの悠翔会にとって重要なテーマや社会的課題、その解決に向けてのビジョンについて伺いました。

こころみクリニックは正しい情報発信とぎりぎりまで抑えた料金体系、質の高い医療の追求を通して、数多くの患者を治療してきました。専門スタッフが統計解析して学会発表や論文投稿などの学術活動にも取り組み、ノウハウを蓄積しています。一方でTMS療法の複雑さを逆手に取り、効果が見込まれていない疾患に対する効果を宣伝したり、誇大広告を打つクリニックもあり、そうした業者も多くの患者を集めてしまっているのが現状です。 こうした背景を踏まえ、本記事ではこころみクリニックの経緯とクリニック選びのポイントについて伺いました。

前回記事に続いて、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、「死」に対しての向き合い方と在宅医が果たすべき「残された人生のナビゲーター」という役割についてお話しを伺いました。

人工内耳の名医でいらっしゃる熊川先生に取材する本連載、1記事目となる本記事では、人工内耳の変遷を伺います。日本で最初の手術現場に立ったのち、現在も71歳にして臨床現場で毎日診察を続けられている熊川先生だからこそお話いただける、臨床実感に迫ります。