#01 【伊藤公一氏】甲状腺疾患専門の診療機関であり続けることが私たちの最大のプライドです。

伊藤病院は年間外来患者数30万6000人、年間初診患者数2万2000人(※2011年度実績)。全国から患者が訪れる甲状腺疾患専門の民間病院だ。東京、表参道の一等地に位置し60床の小規模病院ではあるが、7床のアイソトープ専用病床を有し、重症のバセドウ病や甲状腺がんの治療も含め、甲状腺を患う全ての患者に対して完璧な自己完結型医療を提供している。 創業以来、甲状腺疾患の専門病院としてのプライドを貫きながらも、常に新しい事にチャレンジを続けるのが3代目院長の伊藤公一氏だ。 ※2016年度実績/年間外来患者数36万8000人、年間初診患者数2万6000人  (『ドクタージャーナル Vol.5』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)
伊藤公一
伊藤公一
伊藤病院院長。外科医。甲状腺疾患専門。 1985年北里大学医学部卒業、東京女子医科大学内分泌外科学教室入局。1990年東京大学医科学研究所 細胞遺伝部、1992年米国シカゴ大学 内分泌外科、1998年伊藤病院院長就任。日本内分泌外科学会理事、日本甲状腺外科学会監事、厚生労働省診断群分類調査研究班班長、日本病院管理学会評議員、全国病院経営管理学会常任理事、国際観光医療学会理事、日本国際医学協会理事、等歴任。

不変の理念「甲状腺を病む方々のために」

伊藤病院は、私の祖父が昭和12年に開業した甲状腺疾患の専門病院です。

元来祖父は、病理学を専攻する医師でしたが、顕微鏡を介して甲状腺の病気に興味を持ち甲状腺外科医を志しまして、大分県の別府にあります甲状腺疾患専門の野口病院で副院長を務めた後、祖母の郷里であるこの表参道の地で開業しました。

その後、昭和34年に父が院長を承継し、平成10年には、私が院長に就任しました。開院以来75年を経て現在に至っていますが、その間一貫して民間病院として甲状腺疾患専門の病気に取り組んできたこと、これからも甲状腺疾患専門の診療機関であり続けるということが私たちの最大のプライドです。

それは、試行錯誤の結果や戦略的な医療経営の視点から甲状腺疾患の専門病院になったわけではなく、開業当初から甲状腺疾患の専門病院を作りたいという祖父の思いを、父、そして私と継承して、ただひたむきに甲状腺疾患に取り組んできた結果です。

私が最初にした事とは理念の策定でした。

私は大学卒業後、東京女子医科大学、東京大学医科学研究所、米国シカゴ大学など、いろいろな研究施設で甲状腺の臨床や研究に関わり、研鑽を積んできました。

10年経った時点で父の管理する伊藤病院に着任しました。3年の助走の後に院長として病院経営に携わる事となった時に、私が最初にした事とは理念の策定でした。

既に完成されていた「甲状腺を病む方のために」を私の恩師である元東京女子医科大学内分泌外科教授の藤本吉秀博士に直筆揮毫を頂き、院内のいたるところに掲げ、あらためて、職員も含めて患者様と共に甲状腺の専門病院に徹すると言う事を再確認しました。

甲状腺の専門医や専門病院が非常に少ない

甲状腺疾患の患者様は非常に多くおられます。発見されていない方も含めると40歳以上の女性ですと10人に一人位は甲状腺の病気に罹っているといわれ、境界型を含めれば糖尿病の患者様よりも多いと言われているのが、甲状腺の病気です。

ところが、甲状腺疾患の専門病院も専門医も非常に少ないというのが現状です。

全国的に見て甲状腺専門の病院や有床の診療所は当病院を含めても4箇所位しかありません。

専門医不在の県も複数あります。また大学病院で真剣に甲状腺疾患に取り組んでいるところも少なく、27年前に私が医師になった当時でも、内分泌外科の教室があったのは私が学んだ東京女子医科大学と岡山の川崎医科大学の2つだけでした。

その後多少は増えていますが、今日でも80の医科大学で内分泌外科として甲状腺外科の講座があるところは本当に数えるほどです。

甲状腺専門の病院も少なければ、甲状腺疾患の専門医も少ない。社会的にも、これは非常に大きな問題だと思っています。

甲状腺の分野においては、数少ない民間の専門病院が臨床と研究を優位に進めてきたという歴史がありまして、大学病院と比較しても非常に多くの症例と研究の業績を蓄積しています。

特に当病院には、ある程度甲状腺疾患の経験を積んだ意欲的な医師が集まってくるため、それが臨床でも病院経営に於いても大きな強みとなっておりますし、私たちが専門医の資格を得るための機関として、また甲状腺疾患の専門医を育てる教育機関としての一端も担っていきたいと思っております。

伊藤公一

常に最新技術の導入と努力を惜しまない。

採血による甲状腺ホルモンの測定では、四半世紀前は一週間掛かっていましたが、現在、当病院では、20分で正確に検査結果が出せるようになりました。

よって以前のように検査結果を聞くための再来院は無くなり、血液検査を行った当日に診療方針が立てられ患者様を非常に効率よく外来診療で治療できるようになりました。

さらに、当院ではIT化を駆使して独自の電子カルテを作り、効率のよい診療を心掛けて取り組んでいます。同時にインフォームドコンセントにも役立てています。

超音波検査についても、あえて予約制を取らずに、来院されたらどなたでも当日に検査ができる体制になっております。

当病院にいらっしゃる患者様は、甲状腺疾患の治療という明確な目的で来院されますから、全ては患者様のためにスピードも重視した診療体制を整えているつもりです。

このように臨床検査には非常に力点を置いており、60床の病院規模に対して30名以上の臨床検査技師が働いております。

診療情報管理に重きをおいています。

当病院では、診療録を大切にしています。現在7名の診療情報管理士が在籍し、独自の電子カルテシステムを駆使して電子化と統計整理に取り組み、完全な可視化、ペーパーレス化を実現しています。

私は早くから診療情報管理士の資格や仕事に注目しておりまして、栃木の国際医療福祉大学からは継続的に大学生の実習先として受け入れを行っています。

実は当病院では、祖父の代からカルテは一冊も捨てないと言う信念で今も永久保存をしています。空襲で病院と同時に焼失してしまった一期間分を除いて、昭和12年の開業から現在に至るまでの全てのカルテを保存しています。

これは戦時中の逸話ですが、戦火の中で、患者様の救済活動を行うと同時に、大切な診療録を守るために、リヤカーに乗せて逃げたと言うことも語り継がれています。

昔も今も診療録の管理に対してはそれほど強い信念を持っています。これが当院の歴史と伝統です。

それらのカルテは従来からの倉庫会社での管理に加えて、8年前からは先述の電子カルテでのデータ化を地道に進めています。そこから正確な診断と治療もできることに加え、学術的な研究に繋がっています。

これには相当な労力と費用が掛かっていますが、それがあってこそ私共の診療や研究ができるのだと思っています。

この記事の著者/編集者

伊藤公一 伊藤病院 院長 

外科医 甲状腺疾患専門。
1985年北里大学医学部卒業、東京女子医科大学内分泌外科学教室入局。1990年東京大学医科学研究所 細胞遺伝部、1992年米国シカゴ大学 内分泌外科、1998年伊藤病院院長就任。日本内分泌外科学会理事、日本甲状腺外科学会監事、厚生労働省診断群分類調査研究班班長、日本病院管理学会評議員、全国病院経営管理学会常任理事、国際観光医療学会理事、日本国際医学協会理事、等歴任。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。