#01 【英裕雄氏】在宅医療の延長線としての外来診療とは

新宿ヒロクリニックの英 裕雄院長は、「地域におけるかかりつけ医の役割とは、地域を健全にすること。健康な地域づくりを進めていくことだと考えています。ですから、疾病だけにとどまらず、患者さんを取り巻く社会問題にもアプローチせざるを得ないと思っています。」と語る。 在宅医療の延長線として外来診療を捉え、開業以来21年間、在宅医療で養ってきたノウハウやシステムを活かし、外来診療にも積極的に取り組んでいる。(全4回) (『ドクタージャーナル Vol.23』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)
英裕雄
英裕雄  新宿ヒロクリニック院長
医療法人三育会理事長、新宿ヒロクリニック院長。1986年慶応義塾大学商学部を卒業後、93年に千葉大学医学部を卒業する。96年に曙橋内科クリニックを開業し、2001年に新宿区西新宿に新宿ヒロクリニックを開業する。2015年に現在の新宿区大久保に新宿ヒロクリニックを移転、開業し、現在に至る。

1996年の開業時から在宅医療に取り組んできました。

最初の開業は1996年の曙橋内科クリニックでした。その後、2001年に新宿区西新宿に新宿ヒロクリニックを開業し、2015年に現在の新宿区大久保で新たに新宿ヒロクリニックを移転開業しました。今年で最初の開業から21年目になります。

開業当初から在宅医療に取り組んできましたが、当時はまだ介護保険もなく、在宅医療も本当にごく一部の医師が行っていたような状況で、周囲には教えてくれる人はいませんでした。在宅医療を学ぼうという気持ちから手探りで始め、独力で試行錯誤を重ねてきました。

当時一部の医師たちからは、これからは在宅医療が重要になっていくと言われていましたが、世の中の在宅医療に対する認識はまだ低かった頃です。それでも当時から、在宅での医療ニーズはありました。しかしそれは、かかりつけ医療の延長線であって、現在のようなシステムとしての在宅医療ではありませんでした。当然24時間対応も多くはありませんでした。

また多くの場合は、救貧的というか、人道支援の色彩が強く、在宅で最期まで看取るとか、自宅での治療を構築してマネジメントするということではなかったです。最初の頃はなかなか患者さんが来なくて、病院とか訪問看護ステーションに働きかけて、ようやく集まるようになってきましたが、それでも月に5人ほどでした。

その後、徐々に患者さんが増えてきたので、在宅医療専門のクリニックに切り替えました。患者さんの医療ニーズに応じた対応をして行くうちに、在宅医療に馴染んでいった。というところが正直な実感です。

医師にとって、在宅医療には多くの魅力があります。

在宅医療の魅力はたくさんあります。当クリニックのドクターの中にも、外来診療よりも在宅医療をしたいという人が多くいます。なんといっても、フィールドとしての楽しさがあります。

外来診療では仕方のないことですが、患者さんとはクリニック内での限られた時間での関わりとなります。しかも本人の生活環境が分からないし、介護の状態も分からないので適切なアドバイスが難しく、医療的な対応だけになってしまいます。患者さんが抱える医療以外の問題に対しての対応が難しいのです。

しかし在宅医療では、患者さんとの関わり方が違います。その人の人生に健全に寄り添っている実感性が強くあります。例えば、外来の患者さんで認知症があり高血圧もあるのに、介護の問題があるために、なかなか来院できない場合、こちらから積極的にアプローチするのは難しい。

在宅医療だとそれが一緒にできる。しかも健全にできるのです。さらに進んでいくと、患者さんやご家族との一体感が強くなったり、様々な協調関係に変わってくるのも在宅医療ならではの魅力です。

在宅医療の変貌に伴い、事業変容していきました。

新宿区西新宿で開業していた2001年から2009年くらいまでは在宅医療の患者数は伸びていましたが、その後は横ばいか、むしろ若干の減少傾向にありました。当初から在宅専門の医療機関としての位置づけでやってきましたが、この間の在宅医療の内容が非常に変貌していきました。

例えば、終末期のがんの患者さんで、ぎりぎりまで病院で治療して、最後の3日位を在宅で過ごすというような、非常に在宅医療の期間が短い人とか、入院が難しい困窮家庭の方とか、家族の介護力が極端に弱い方とか、いわゆる一般的な在宅医療の患者さんが減って、症状や生活環境が際立った在宅の患者さんの数が増えていきました。

これは、当クリニックの専門性や地域環境の特殊性による理由も大きかったと思います。このような状態で、自分たちは本当に地域の支えになっているのか、という振り返りから、2015年に現在の場所に新たに移転開業しました。

移転を契機に、かかりつけ医療機関の新しい在り方として、患者さんの社会生活がさまざまに変化しても一貫して対応できる総合診療を目指し、在宅医療に加えて外来診療も行うように事業変容してきました。移転については、最初から考えがあって大久保という地域を選んだのではなく、理想的な医療物件がここにあったということが一番の理由でした。しかし都内でも特殊な地域ということもあり、移転に際しては院内で賛否両論がありました。

在宅医療の延長線としての外来診療です。

現在私たちは、外来診療にも力を入れています。それは、在宅医療の延長線として外来診療を捉えているからです。私たちのように、在宅医療から外来診療に進むというのは稀な事例かもしれません。それまでの私たちは、在宅医療で患者さんの社会生活性を伸ばすことを大きな目標としていました。

しかし、虚弱になった患者さんが全て、必ず在宅医療になるわけはなくて、外来に来られている虚弱な患者さんも多くいます。そのような人に対しても、様々なアイテムを使い社会生活性を伸ばすことが、これからの、かかりつけ医療だと考えました。つまり、在宅医療で培ってきたいろいろなアプローチを、外来診療でも活かすということです。

外来診療に在宅医療の体制を取り入れる。

実際に外来診療にも取り組むことで、在宅医療で蓄積してきたことがとても活きていると感じます。在宅で診ていた患者さんが、病態が良くなって外来に移るということもありますが、在宅医療の患者さんでも、在宅ではできない検査や医療的な処置が必要な場合もあります。そのような時にはクリニックの外来に来て頂きます。検診も外来で行います。

また在宅医療と同じように、外来診療もチーム医療で対応します。ですから、ドクターも複数体制で動いていますし、チームには看護師に加えて栄養士や理学療法士なども加わります。外来診療にも在宅医療と同じように総合診療的な体制で臨んでいます。

(続く)

この記事の著者/編集者

英裕雄 新宿ヒロクリニック 院長 

医療法人三育会理事長、新宿ヒロクリニック院長。1986年慶応義塾大学商学部を卒業後、93年に千葉大学医学部を卒業。96年に曙橋内科クリニックを開業し、2001年に新宿区西新宿に新宿ヒロクリニックを開業する。2015年に現在の新宿区大久保に新宿ヒロクリニックを移転、開業し、現在に至る。

最新記事・ニュース

more

遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。

人工内耳の発展によって効果や普及率が格段に高まってきた現代。今だからこそ知りたい最新の効果、補聴器との比較、患者さんにかかる負担について伺いました。重度の難聴を持つ患者さんが、より当たり前にみな人工内耳を取り付ける日は来るのでしょうか。

本連載の最後となるこの記事では、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、これからの悠翔会にとって重要なテーマや社会的課題、その解決に向けてのビジョンについて伺いました。

こころみクリニックは正しい情報発信とぎりぎりまで抑えた料金体系、質の高い医療の追求を通して、数多くの患者を治療してきました。専門スタッフが統計解析して学会発表や論文投稿などの学術活動にも取り組み、ノウハウを蓄積しています。一方でTMS療法の複雑さを逆手に取り、効果が見込まれていない疾患に対する効果を宣伝したり、誇大広告を打つクリニックもあり、そうした業者も多くの患者を集めてしまっているのが現状です。 こうした背景を踏まえ、本記事ではこころみクリニックの経緯とクリニック選びのポイントについて伺いました。

前回記事に続いて、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、「死」に対しての向き合い方と在宅医が果たすべき「残された人生のナビゲーター」という役割についてお話しを伺いました。

人工内耳の名医でいらっしゃる熊川先生に取材する本連載、1記事目となる本記事では、人工内耳の変遷を伺います。日本で最初の手術現場に立ったのち、現在も71歳にして臨床現場で毎日診察を続けられている熊川先生だからこそお話いただける、臨床実感に迫ります。

本記事では主に医師に向けて、TMS療法に関する進行中の研究や適用拡大の展望をお伝えします。患者数の拡大に伴い精神疾患の論文は年々増加しており、その中で提示されてきた臨床データがTMS療法の効果を着実に示しています。さらに鬼頭先生が主導する研究から、TMS療法の可能性が見えてきました。

お話を伺ったのは、医療法人社団こころみ理事長、株式会社こころみらい代表医師でいらっしゃる、大澤亮太先生です。 精神科医として長い臨床経験を持ち、2017年にこころみクリニック、2020年に東京横浜TMSクリニックを開設され、その後も複数のクリニックを展開されています。 科学的な情報発信と質を追求した診療を通して、日本でも随一の症例数を誇るこころみクリニック。自由診療としてぎりぎりまで料金を抑え、最新のプロトコルを提供しながら学術活動にも取り組まれています。そんなこころみクリニックに取材した連載の第1回となる本記事では、臨床運営の現場から見えてきたTMS療法の治療成績と、コロナ後遺症への効果を検証する臨床研究をお聞きしました。