病気や障がいが障害にならない環境をつくることが重要
連載:【在宅医療経営】患者さんも医療従事者も幸せになる在宅医療
2023.11.02
前回記事に続き、首都圏で最大規模の在宅医療チーム『悠翔会』を率いる佐々木淳氏に、認知症の在宅医療で大切となる環境整備に対する考え方や、オンライン診療の可能性についてお話を伺いました。
(記事内容は2019年取材日時点のものです)
認知症の人にとって最も大切なのは「快適な環境整備」
―認知症の在宅医療についてお聞かせください―
私たちが在宅医療を行っている患者さんのうち、2割ががんと難病の方であり、8割が主に高齢者です。その中にはもちろん高齢者で癌の方もいます。
高齢者の中で8割は認知症の方で、その中でも半分は中等度以上の認知症の方ですから、重度の方の割合が高い。
認知症で周囲が苦慮するのは、いわゆるBPSD(認知症の行動と心理症状)と言われるものですが、BPSDは基本的には環境の不適合からの逃避行動であり、その環境、つまり生活環境と人間関係に何らかの問題があることが多いです。
認知症の人の行動にはすべて理由があります。本人の行動が意味するものは何なのか、本人にとって最適な環境とは何かを、関わる全員でアセスメントします。
「迷惑行動」というのはこちら側からの見え方です。一番困っているのは本人なのだと考え、その結果としての行動は私たち自身を含む環境に問題があると理解すれば、BPSDで苦慮することは少なくなるでしょう。
実際に最近は、認知症の人の在宅医療で苦慮するケースは少なくなっているように思います。本人が穏やかな状態になると、認知症そのものも、記憶障害はあったとしても、症状としては進まないケースも多く見られます。長期間穏やかな状態で暮らしている認知症の方もたくさんいます。
病理学的な変化よりも、症状としての環境との不適合がその人の病状経過に大きく影響を及ぼすということは感覚的にもありますし、エビデンスとしても示されています。
その人にとって快適な環境とは何なのかを一緒に考え、できるだけ早くそこにリーチしてゆく。そのお手伝いをすることが、認知症ケアにおける私たちの重要な役割です。
障がいを規定するのはその時代の社会
病気や障がいを持った人たちが、 不自由なくコミュニティに参加できるような環境をつくるお手伝いも、私たちの重要な仕事だと考えています。
ホーキング博士はALSという病気を持っていましたが、最期まで科学者として活躍しました。それは彼の「こう生きたい!」という強い思いに加え、医療や介護、そして彼を理解してくれる支援者によって、彼の強みが発揮できる環境を作ることができたからです。
現代は、体に障がいがあったとしても、こういう生活がしたいとか、社会に参加したいとか、強い思いがあれば、技術的に可能な世の中になっています。
例えば私は近視ですが、眼鏡があるから何不自由なく生活できます。視力が低下しても生活機能は制限されないから、今の世の中で近視を障がいと思う人はいません。それは社会が近視を障がいとは思わない、近視がハンディにならない世の中だからです。
これからテクノロジーが進化していくと、障がいと言われる範囲はますます狭くなっていくでしょう。一方で、障がい者自身が持つ諦めや思い込みが、彼らの人生をものすごく窮屈にしている側面もあるように感じます。
病気や障がいがあっても、やりたいことができる環境を作ること、障がいが障害にならない環境を作ることが私たちにはできるはずだと思っています。
オンライン診療の可能性
―2018年からオンライン診療が認められましたが、在宅医療にとってオンライン診療の有効性はどのようにお考えですか? ―
在宅医療にとって、オンライン診療の可能性は非常に高いと思っていますが、現状に関しては使い勝手はまだ限定的だと感じています。
私たちは以前から電話再診という遠隔医療を行っていますが、オンライン診療が入るとそこに画像がつきますから、往診で対応していた一部は、オンライン診療で置き換えられるようになるでしょう。
また、オンライン診療によって医療へのアクセスがより容易になるため、例えば人工呼吸器をつけているALSの方や状態の不安定な要介護高齢者が多数入居しているような老人ホームなどにオンライン診療の端末があれば、ご本人・ご家族や介護職もより安心して療養生活・療養支援ができると思います。
現状では、高齢者でデジタル機器を使いこなせる人はまだ少ないですが、団塊の世代の多くはスマホを使いこなしています。彼らに在宅医療が必要になる頃には、オンライン診療が主流になり、たまに様子を見に訪問するというような形が一般的になるのではないでしょうか。
(続く)