国内屈指の生殖医療科を実現した杉山産婦人科グループ

前回の記事「【杉山力一】男性産婦人科医として不妊治療で活躍する2代目院長」に続き、杉山力一氏が創り上げた国内トップクラスの不妊治療体制について詳しくお話を伺いました。

杉山産婦人科の生殖医療科の特徴

引用:杉山産婦人科公式HP

当院の生殖医療科の特徴は、通常では大学病院で行う腹腔鏡手術を行っていることです。

大学病院などでは平均10か月から1年待ちの状態ですが、不妊治療の患者さんからすればあまりに長すぎます。そこで当院では待機期間を短縮するためのさまざまな取り組みをし、平均2か月程度で施術できるようにしました。

紹介での腹腔鏡手術は行わず、当クリニックの患者さんだけを対象にさせていただいています。さらに、日帰りで腹腔鏡手術を行えるのが杉山産婦人科ならではの特徴です。大学病院などはシステム上3泊〜4泊の入院が必要ですが、当院では基本的に日帰りで行っています。これは、いざという時にいつでも入院できる体制が整っているためです。金銭的な面はもちろん、会社の休みの都合など、患者さんにとって負担が少なく済むのは大きなメリットと言えるでしょう。

今は体外受精なら多くのクリニックでも行っていますが、腹腔鏡手術は特殊な手術なので、できるところは非常に少ない。

ですが、腹腔鏡手術を行うと、多くの方が体外受精をしなくても自然妊娠できるようになります。腹腔鏡手術という選択ができるのは当院の大きな強みです。

国内初の日帰り腹腔鏡手術

引用:杉山産婦人科公式HP

当院の腹腔鏡手術では傷跡が3mmとおそらく世界でも最小なので、手術が終わった後も縫合はしません。絆創膏を貼って終わりです。そのため抜糸もありません。このように磨き上げた技術で患者さんの負担を最小限に抑えているからこそ、日帰り手術が実現できるのです。

東京駅と直結する杉山産婦人科丸の内には、いつでも万全の状態で患者さんを迎えられるよう、5人の医師と1人の麻酔科医が常勤しています。

完全予約制で1日約130人の患者さんが来院されるのですが、現在は予約の患者さんでほとんど満杯状態です。不妊の患者さんは不妊治療をしても妊娠する確率が低いので、どうしても患者さんが増えやすい傾向にあります。

不妊治療に来られて妊娠されることを「卒業」と呼ぶのですが、卒業まで辿り着く患者さんは世間で思われるほど多くありません。最終的に妊娠できる方は全体の55%程度と低いのです。これは当院に限ったことではなく、不妊治療の平均的な成功率数値です。

出産の5割を占める無痛分娩

産科の特長として、当院では約50%の方が無痛分娩で出産されます。海外では無痛分娩が当たり前の国もありますが、日本ではまだ無痛分娩可能な産院はあまり増えていません。このような中でも患者さんが無痛分娩を選べるのは杉山産婦人科の強みとなっています。

無痛分娩の最大のメリットは痛みが無いので、お産の後のお母さんがとっても元気だということです。お産の疲れも無いので、翌日には普通に歩いています。

患者さんの立場で考えれば、無痛分娩はもっと広まってもおかしくありません。ではなぜ無痛分娩ができる産婦人科が少ないのか。

それはひとえに産婦人科側の資源不足が原因です。患者さんに麻酔をかけるので常時マンツーマンで診ている必要があり、膨大な時間と手間がかかります。

無痛分娩に臨む妊婦さんには血圧計から各種モニターまで付けるので、さながら手術中の患者さんのような状態です。担当医はひと時も休まず診ています。

そのため、人材確保の問題が大きい。ですから無痛分娩を行う産婦人科は少ないのです。産院全体の1割以下だと思います。

当院には無痛分娩での出産ができるということで来院される患者さんも多いです。無痛分娩を希望する患者さんのニーズに応えられるよう、杉山産婦人科としてできることをしていきます。

杉山産婦人科の構造

引用:杉山産婦人科公式HP

当院は、1階が不妊治療専用で、2階が産科専用のフロアになっています。

これは不妊治療の患者さんがなるべく他の人と会わなくて済むよう、エレベーターホールを使わないように配慮したのが一つ。もう一つの理由は、3階・4階の病棟と2階に産科の診察室をつなげ、産科医のフロア移動をスムーズにしたためです。他の産婦人科とは違う発想かもしれません。

患者さんの検査や治療内容に合わせて移動することは必須です。そのための動線を短くすることを最優先し、業務効率化を目指しました。また、圧迫感をなくすために廊下を広く、天井は高く設計してあります。

現在、全スタッフは約200名ですが、私は特にスタッフ教育やマネジメントのための会議などは行いません。基本的には現場のスタッフと責任者に任せています。服装なども自由です。ただし、「常に患者さんから親しまれ信頼される行動を取るように」と、これだけはスタッフ全員に常々言っています。

私が余計な口を出さない主義なので、現場のスタッフは逆に責任感が強くなり、患者さんからのクレームなども現場で解決していることが多いようです。自分たちの仕事に強いプライドを持って取り組んでいることが見ていて感じられます。

杉山産婦人科のコンセプト

私がこの医院を作った時の最大の目標は、「自分がいなくても杉山産婦人科であること」でした。院長である私がいなくても大丈夫な杉山産婦人科のブランドを作るということです。

私にはトップでいることへの思いや有名になりたいという願望は特にありません。願望といえば、医療以外の分野も含めていろいろなことがやりたいので、どんどん人に任せるようにしています。そして、現場が判断したことは尊重するようにするのが私の経営方針です。結果としてスタッフがそれぞれ責任感を持って行動するような組織が作れたと思っています。

また、クリニック経営の成功要因はと聞かれることがあるのですが、私は「一生懸命に仕事をすること」だと答えています。たとえば、患者さんが来院できる時間に病院を開けていることです。ごく単純なことですが、土曜日・日曜日も診療すれば患者さんは絶対に増えます。患者さんのことを思えばなるべく夜遅くまで診療を受け付けることも大切です。もちろんスタッフの疲労も考え、ローテーションやシフトの調整は工夫しています。

日曜日の診療は確かに大変ですが、お産も体外受精もこちらで曜日は選べないのが我々のようなクリニックの特徴です。しかし不妊クリニックによっては排卵日が日曜日なのに土曜日に卵子を取っているようなケースもあります。これは専門家から見て絶対に間違っています。

ですから患者さんには、不妊治療を受けるなら日曜日も受け付けてくれるクリニックを選びなさいと、これだけは患者さんに強く言います。このことも田中先生から教えられたことです。

続き:多くの人が知らない不妊の真実と、杉山産婦人科が目指す不妊対策

この記事の著者/編集者

杉山力一 杉山産婦人科 院長 

医療法人社団杉四会 理事長 杉山産婦人科院長
平成6年東京医科大学卒業、平成10年北九州市のセントマザー産婦人科で6ヶ月間の研修を受ける、平成12年杉山レディスクリニック開院、平成19年産婦人科総合施設として杉山産婦人科開院、平成22年杉山産婦人科丸の内開院、平成30年1月杉山産婦人科新宿新病院開院。

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