#01 【白濱龍太郎氏】睡眠医療の最大の課題は、専門医が圧倒的に少ないということ

「リズム新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック」は、在宅医療と睡眠医療に特化した検査と治療のできる専門クリニックとして2013年に新横浜駅に近接して開業しました。本記事では、設立者である白濱氏に睡眠医療の現状と課題について伺いました。

(記事内容は2020年取材日時点のものです)

取材協力:白濱龍太郎氏

リズム新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニック院長

  • 筑波大学医学群医学類卒業
  • 東京医科歯科大学病院・東京共済病院等での呼吸器専門外来・睡眠障害専門外来の臨床に従事
  • 睡眠専門クリニック院長、睡眠医療連携パス委員を歴任、千葉、静岡の総合病院内にて、睡眠センターを立ち上げる
  • 2013年に睡眠・呼吸の悩みを総合的に治療する医療機関、RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルクリニックを設立
  • 丸八研究センター所長として睡眠環境の提案等も行う
  • 『ビジネスマンの睡眠コントロール術』(幻冬舎)等著書・講演多数
白濱龍太郎

新幹線事故で注目を浴びた睡眠時無呼吸症候群

私が呼吸器内科の専門医として診療に従事していた頃から睡眠時無呼吸症候群は発生していましたが、その当時は興味は持っているという程度の認識でした。その睡眠時無呼吸症候群への取り組みが睡眠医療の分野に進む契機となりました。

睡眠時無呼吸症候群(SAS)の存在が一躍社会に知られるようになったのは、2003年に起きた山陽新幹線のオーバーランの事故です。

しかし、実はそれよりも以前から、睡眠時無呼吸症候群が睡眠中のいびきで日中に眠くなるというだけでなく、いろいろな病気と関係している。中には睡眠時無呼吸症候群によって死亡する方もいる。というデータが報告されていました。

でも当時、大学病院でも専門に取り組んでいるドクターはほとんど皆無でした。であれば自分が専門的に取り組んでみよう思ったわけです。

睡眠医療はまだ歴史の浅い領域です

当時は、そもそも興味を持っている医師が少なかった。沖縄の名嘉村先生が日本で最初の睡眠呼吸センターを始められたのが1990年で、それが日本における睡眠医療の実質的なスタートといえるほどまだ歴史の浅い領域です。その後しばらくは東京や首都圏においてもこの分野は市民権が得られていない状況でした。

先人達の努力の結果、2010年前後にやっと日本循環器学会で睡眠時無呼吸症候群に関してのガイドラインが作られました。そこでは睡眠時無呼吸症候群を積極的に診断治療につなげていくことで、いろいろな循環器系の疾病の発生リスクが落ちてくるということが発表されました。

その結果、睡眠自体に関しても社会の意識が高まり、睡眠時無呼吸症候群だけでなく、ナルコレプシーとか睡眠リズム障害などいろいろな睡眠障害が注目され始めて、今の段階に至っていると思います。

実際に睡眠医療に関してはこの10年で大きく変化してきていると感じます。それこそ10年前はあまり注目もされていなかった状況から、今では医学部の教科書にも載っています。睡眠時無呼吸症候群についていえば、ほとんどの呼吸器領域のドクターは意識されているでしょう。

いまだに多い睡眠医療に対する理解不足

今でも大変なのは、どのような検査をやるのか医療機関に限らず行政でもなかなか理解して貰えない部分があることです。

病院の中に睡眠センターを作るお手伝いをすることもあるのですが、睡眠検査では臨床検査にカテゴライズされる検査が必要になります。

しかしそのような場合に、睡眠検査に必要な知識を有する臨床検査技師が少ないのです。看護師も何をしたらよいのか分からない。

例えば大学病院で、従来行われている通常検査の中にひとつ余分な検査が入ってくると捉えられて、睡眠検査の重要性を説明してもなかなか理解されず、検査体制が作り難い場合がありました。

そのような時は、私と研修医の先生の二人で検査機械を病棟に運び込み、患者さんへの取り付けから翌朝の取り外しまで自分たちで行っていたこともありました。睡眠医療専門の検査技師は今でもまだまだ少ないと感じます。

睡眠医療

睡眠医療の連携体制が作れれば理想的です

睡眠時無呼吸症候群の患者さんの診療については、ある程度受け皿ができつつあると思いますが、必ずしも診療の質が伴っているとは言えないと思います。同じ受け皿でもしっかりと引き受けている医療機関もあれば、そうでないところもあるように感じます。

一定規模の地域に中核となるような睡眠医療の専門施設があって、患者さんの的確な診断や睡眠時無呼吸症候群以外の睡眠医療の診療が行える。

そこで診断が付いた患者さんは地域のかかりつけ医に戻し、例えば高血圧と睡眠時無呼吸症候群の医療を進めていく。

私としては、そんな連携体制が作れれば理想的だと思っています。

睡眠医療に多くの医師が入ってきてほしい

最大の課題は、睡眠医療の専門医が圧倒的に少ないということです。

日本睡眠医学会の睡眠医療認定医は全国で500人足らずという状況です(※日本睡眠医学会認定医師469名 2014年8月1日現在)。県によって一人とか数人というところもあります。

一方、社会的に見ると居眠り運転のバスの事故などは毎年起きています。そのことで本年の6月には道路交通法が改定されたり、厚労省からは「健康づくりのための睡眠指針2014」が出たりとか、良質な睡眠の在り方に対しての社会的な要請は非常に強くなってきているという印象はあります。

ですから、患者さんへの適切な診療を行う上でも、多くのドクターが睡眠医療にもっと興味をもって欲しいと思います。専門領域に加えてサブスペシャリティとして睡眠医療の専門知識を持つことにより、診療の成果はより高まると思われます。

例えば、循環器系等の専門領域における心臓係の疾患と睡眠時無呼吸症候群の関連など、いろいろな形で症状がオーバーラップしている状態があります。ですからいろいろな医師が一人でも多くこの分野に入ってきてほしいと願います。

(続く)

この記事の著者/編集者

白濱龍太郎 医療法人RESM 理事長 

筑波大学卒業、東京医科歯科大学大学院統合呼吸器学修了(医学博士)。同大学睡眠制御学快眠センター等での臨床経験を生かし、総合病院等で睡眠センターの設立、運営を行ってきた。それらの経験を生かし、睡眠、呼吸の悩みを総合的に診断、治療可能な医療機関をめざし、2013年に、RESM新横浜 睡眠・呼吸メディカルケアクリニックを設立。2014年には、経済産業省海外支援プログラムに参加し、インドネシア等の医師たちへ睡眠時無呼吸症候群の教育を行った。慶應義塾大学特任准教授、国立大学法人福井大学客員准教授、武蔵野学院大学客員教授、日本オリンピック委員会強化スタッフ、東京オリンピック(TOKYO2020)選手用医師、ハーバード大学公衆衛生大学院客員研究員などを兼歴任。「ぐっすり眠る習慣」(アスコム)「誰でも簡単にぐっすり眠る方法」(アスコム)など著書多数。「世界一受けたい授業(日本テレビ)」「モーニングショー」(テレビ朝日)、「林修の今でしょ!講座」(テレビ朝日)などメデイアにも数多く出演。社会医学系指導医、睡眠学会専門医、認定産業医を有し、教育、啓発活動にも継続的に取り組んでいる。

現任
医療法人RESM 理事長
福井大学医学部  客員准教授
順天堂大学医学部 非常勤講師
北里大学医学部  非常勤講師
武蔵野学院大学  客員教授
日本睡眠学会評議員
日本オリンピック委員会(JOC)強化スタッフ
日本サーフィン連盟(NSA)アンチドーピング医科学委員副委員長
国際交通安全学会(IATSS)特別研究員
横浜市港北区医師会常任理事
横浜市港北医療センター 副センター長
日本産業衛生学会職域における睡眠呼吸障害世話人
SRNG(Sleep Research Next Generation)  世話人
北東北睡眠医療研究会 世話人

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。