#03 楽をしようと思わないで、真剣に取り組み、能力を最大限に発揮して働くことが基本

群馬県高崎市の医療法人社団美心会黒沢病院が2009年7月に開設した「ヘルスパーククリニック」。最先端の予防医療、健康診断、治療、運動ができる施設である。 予防という概念がまだ重要視されていなかった時代に黒澤功理事長が構想して実現した、外来診療、メディカルフィットネス、人間ドック、デイケア、美容皮膚科などで構成される複合医療施設だ。 4階建て延床面積1万3千平方メートルという広々としたスペースは開放感に溢れ、病気の早期発見と予防に重点を置き、最高の総合医療サービスの提供をめざしている。 黒澤功理事長は、1代で総合医療サービスを提供する北関東随一の医療機関を築き上げた。 (『ドクタージャーナル Vol.1』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

働きやすい病院としての評価認定を受ける

「自分たちの幸せをつかむためには、世間から評価されなければならないと、職員には繰り返し言っています。仲間のためにも自分がきちんとしなければならない。

1人ひとりがきちんとしないと、仲間に傷がついてしまいかねないのです。また院内のいろいろなことは他病院にも伝わりやすく、そうした影響も配慮しなければなりません」

月1回院内勉強会を開催し、院内改革のために職員にレポートを提出させ、意見やアイデアを吸い上げるように努めている。レポートは黒澤理事長自身が目を通し、赤ペンでコメントし、それによって職員のやる気を引き出すようにしている。

また職員に対しては、勤続3年、5年、10年、15年、20年ごとに、表彰を行っている。この表彰では、5年目から外国に行かせており、その目的は世界を知って見聞を広めることにある。受賞した職員には帰国後にレポートを書かせ、黒澤理事長がやはり赤ペンでコメントしている。

こうしたことからも、職員の勤続年数は長い。黒沢病院は、NPO法人女性医師のキャリア形成・維持・向上をめざす会から、働きやすい病院としての評価認定を、全国で11番目に受けている。

「どんなことも真剣にやっていれば何が必要なのかが解ってきて、その人に人間としてのセンスが生まれる。しかし100%努力しない人には何も発見がないので、センスは生まれません。人間としてセンスがある人は、日々努力しています。」

人間の評価で、努力を上回るものはないのである。黒澤理事長は、日頃職員に繰り返しそう語っている。

苦労した分だけ人びとに喜んで頂ける

「倫理・道徳なくして経済は成り立ちません。それが経済の基本であり、医業経営のあり方もまさにそのとおりだと考えています。

自分がしたいことを行うのではなく、人びとがしてほしいと思っていること、望んでいることをさせてもらうというのが、私の経営の原点です。

そうやって一生懸命に働いていると自然に収益が出てくるものです。収益が上がれば、患者様を良くする医療器械を新しく揃えることで、結果として患者様に利益が戻る。幸いに、今はそのようにうまく循環しています」

医業経営は、机上の経済で儲かるような甘いものではないと、経済至上主義による生半可な取り組みを批判する。

お金儲けをしようと思う人に対して、お金を儲けさせるような人は誰もいないとも黒澤理事長は断言する。

使命感をもって社会貢献することが大前提

自分が楽をして人びとに喜んでもらうことはできない。自分が苦労した分、努力した分だけ人びとが喜んでくれる。だから自分が努力するしかないと黒澤理事長は強調する。

職員には常に、最後に二者択一を迫られた時に、自分が楽をする道を選んだ結果、患者さんから叱られても庇う事はできないと厳しく言っている。

しかし、大変だけれども患者さんがこうして欲しいと思う道を選んで叱られた時は、必ず守ると言う。厳しさと温かさを峻別する経営者のあるべき姿がうかがわれる。

ヘルスパーククリニックを建設する際、今の収益で経営できる範囲内の借金しかしないと決心した。当時の病床数の収益で経営を維持できる資金繰りを考えたのである。

ともすると病院を倍にするのだから収益は増えるという安易な想像をしがちとなる。しかし、それでは結果的に医院経営に失敗する確率が高いと指摘する。

かりに病院が経営に失敗すると、まず一番に大迷惑を受けるのはその病院の患者さんである。病院で働くスタッフにも迷惑をかけてしまう。それだけな断じて避けねばならない。

地域医療に携わるものとして、患者さんに対して使命感をもって社会貢献するということを大前提として、発想していくことを何よりも大切にしている。

楽をせず能力を最大限に発揮して働くこと

「医師の中にはサラリーマンのような生活を望んで開業する人が増えています。

住まいは診療所と別にして、そこには夜は誰もいなくなり、急な患者様には携帯電話で指示したりする。それでも、うまくいけばそれでもよいのですが、経営が苦しくなってもそのようなスタイルで続けられるかどうか疑問です。

覚悟をもたないで中途半端に開業して失敗することが無いようにしなければならないでしょう。医業の隠れた廃業は少なくないのです。」

「これからは、患者様が気楽に診てもらえる家庭医の存在価値は大きい。しかも、10キロメートル先よりは隣にいたほうがよい。何でも診て、どのようなことも適切に判断し、専門医に送り届けていけるようにしていけばよいのです。

楽をしようと思わないで、真剣に取り組み、能力を最大限に発揮して働くことが基本です。

じつは勤務医で仕事ぶりが芳しく人は、開業してもなかなか成功することは難しいのです。

人びとがしてほしいと思っていることをさせてもらうという医業経営の原点を、しっかりと忘れないようにしなければならないと常に心掛けています。」

この記事の著者/編集者

黒澤功 医療法人社団美心会 黒沢病院 理事長 

昭和16年6月14日群馬県多野郡中里村生まれ。医学博士。
群馬県立富岡高校、岩手医科大学を卒業後、群馬大学医学部泌尿器科に入局し、群馬大学医学部附属病院泌尿器科医局長、富岡総合病院泌尿器科医長、人工腎臓部部長を経て、昭和52年に黒沢医院を開設。昭和60年に黒沢病院を開設。平成8年に医療法人 社団美心会を設立した。平成11年に特別養護老人ホーム「シェステやまの花」を開設、平成14年に特別養護老人ホーム「シェステさとの花」を開設した。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。