医療法人社団如星会 山王耳鼻咽喉科 院長  緒方哲郎 氏
連載東京でクリニックを運営する傍ら、 日本最西端の離島でへき地医療に取り組む。

#01 へき地医療の主な目的は、離島の人たちの慢性疾患の急性増悪や悪化を防ぐこと。

緒方哲郎氏は、20年以上前から取り組むへき地医療を、クリニック開業後の現在も続けている。毎月2回、平日の診療後に最終便で沖縄に入り、翌日は離島での診療を行い、その日に帰京し翌日からクリニックで診療を行うというハードなものだ。 住んでいる場所で受けられる医療に差があってはならない。しかし現状の過疎地や離島におけるへき地医療は、多くの医療関係者の善意や使命感によって維持されている状況にある。 ホームドクターとして地域医療に携わりながらも、へき地医療に取り組み続けている緒方哲郎氏にへき地医療の現状や課題を伺った。 (『ドクタージャーナル Vol.17』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)

離島の医療では病気の予防や管理が大切

― 緒方先生は長年、東京での診療と沖縄での離島医療に取り組まれています。実際にへき地医療の現場に身を置かれているので、日本の地域医療格差の実態がおわかりになっていると思います。離島におけるへき地医療の実態と課題をお聞かせください。―

へき地医療で主な目的は、離島の人たちの慢性疾患の急性増悪や悪化を防ぐことなのです。

離島の医療というと、ドクターヘリや緊急搬送などの救命医療のイメージが強いですが、専門医の私たちが離島で行っている主な仕事は救急対処ではありません。

離島の医療で大切なのは、病気の予防と基礎疾患や慢性疾患を有する患者さんが病気をさらに悪化させないようにコントロールする事なのです。

病気の予防やコントロールが大切なのは離島に限らずどこでも同じですが、都市部と大きな違いは、その症状が悪化した時に、離島の患者さん達は簡単に医師を選んで医療を受けることが非常に難しい。

その機会も極端に少ない。ということなのです。

ですから離島の医療では、病気の予防と慢性疾患をコントロールするための医療に主眼を置いているのです。

耳鼻咽喉科の私が与那国島や伊江島に行く日程は月に1回と決まっています。当然、急病は私がいない時に出ることのほうが多いのです。

例えば鼻炎持ちの子供は中耳炎になりやすいので、診療時には鼻炎を抑えるようにすると共に、そのための日常生活の指導もします。

そうすると中耳炎の発症が非常に少なくなります。内科の先生による糖尿病患者さんの血糖値コントロールなども同じです。

稀に緊急の手術を行うこともありますが、島民の慢性疾患の急性増悪や悪化を起こさないようにすることこそが私のへき地医療であり、使命もそこにあると思っています。

そのために診察の時だけでなく学校健診でも、日頃の健康管理や健康維持の啓蒙と予防医学的なレクチャーを精力的に行っています。

離島では医療に掛かる経済的負担も深刻

離島の人たちは、普通に医療を受けるだけでも大きな経済的負担が生じてしまいます。

医療過疎の問題だけでなく、医療に掛かる経済的負担の問題も深刻なのです。

例えば与那国島の子供が中耳炎を起こし、親が近くの医療施設に連れて行かなければならない時でも、耳鼻科の医師がいる一番近い診療所は石垣島です。

与那国島からだと石垣島まで飛行機で30分、船では4時間もかかります。中耳炎ですと準救急に近いから急ぐ場合は飛行機となります。しかも大人の付き添いが必要ですから2人での移動となります。

石垣島で診察を受けても、1日の便数が少ないので当日には帰れませんし、石垣島への到着時間によっては翌日の診察となったりします。

いずれにしても、必ず2人で1泊2日の行程となります。場合によっては再診察でまた往復しなければならないということになったりもします。

そうなると、治療費以外に2人分の4往復の運賃と2回の宿泊代が余計にかかってしまうのです。安く単純計算しても5万円以上になってしまう。

東京に住んでいると考えられないでしょう。2人でわざわざ大阪まで1泊2日で診察に行くようなものです。でもこれが島の子供が急病になった時の日常なのです。

離島の経済は決して豊かとは言えません。それなのにお金が島から流出してしまうこととなり、結果的には島がますます疲弊することになってしまうのです。

離島の人たちと生活の大変さとはそんなところにもあるのです。

中耳炎でそうなのですから、多少の体の具合の悪さは我慢してしまい、そのために病気がますます悪化してしまうという悪循環もよくあるのです。

これは医療格差が生んでいる大きな問題の一つと言えるでしょう。

(続く)

この記事の著者/編集者

緒方哲郎 医療法人社団如星会 山王耳鼻咽喉科 院長 

【専門領域】耳鼻咽喉科学全般。大学では耳の疾患の手術療法を中心に研究を行う。 1989年東海大学医学部卒業、東海大学医学部耳鼻咽喉科入局、1995年東海大学医学部大学院医学研究科修了 医学博士、2006年山王耳鼻咽喉科開院。1992年より厚生省の「僻地医療支援プログラム」に参加し、沖縄県八重山地方の耳鼻咽喉科診療に取り組み、現在も月2回沖縄県の離島での検診を行っている。

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