#01 世界中に大きな影響を与えている「スコットランド認知症ワーキンググループ」

―NHKハートフォーラム「認知症700万人 当事者が拓く新時代~先進地スコットランドからの提言~」より 2015年11月― イギリス北部のスコットランドでは、2002年に世界初の認知症の当事者活動団体「スコットランド認知症ワーキンググループ」が発足されました。この当事者活動団体を設立し、初代議長を務めたのが、認知症当事者のジェームズ・マキロップ氏です。 同ワーキンググループは、スコットランド自治政府に粘り強く働きかけ、2009年には政府の認知症戦略策定に参加し、当事者の声を認知症政策に反映させた各制度作りに関与してきました。 (『ドクタージャーナル Vol.17』より 取材・構成:絹川康夫, デザイン:坂本諒)
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ジェームズ・マキロップ
1940年11月26日生まれ、74歳。スコットランド・グラスゴー在住。59歳の時に脳血管性の認知症と診断され、一時は深く落ち込むが、献身的な支援者との出会いによって立ち直り、世界初の認知症の当事者活動団体「スコットランド認知症ワーキンググループ」を結成、初代議長となる。ワーキンググループでは認知症を正しく理解するための啓発活動に取り組むとともに、スコットランド自治政府との対話を実現し、当事者の声を政策に反映させてきた。2009年の「スコットランド認知症戦略」の策定にも参加し大きな役割を果たした。その功績により2011年に大英帝国勲章を受章する

認知症当事者のジェームズ・マキロップ氏

2015年11月に東京と大阪で行われた、NHKハートフォーラム「認知症700万人 当事者が拓く新時代~先進地スコットランドからの提言~」(主催:NHK厚生文化事業団)において、ジェームズ・マキロップ氏の講演が行われました。

認知症当事者のジェームズ・マキロップ氏は、2002年に「スコットランド認知症ワーキンググループ」を設立し、初代議長を務めました。その功績により2011年に大英帝国勲章を受章し、現在は役職を離れ各地で講演活動などを行っています。

「スコットランド認知症ワーキンググループ」は、「国の認知症の見方を一変させた」といわれるほど活発に活動しており、認知症当事者団体の先駆けとして世界中に大きな影響を与えています。

日本においても、2014年10月11日に佐藤雅彦氏、中村成信氏、藤田和子さんを共同代表とする「日本認知症ワーキンググループ」が設立され、活動がスタートしています。

NHK厚生文化事業団の招聘により、2015年11月に東京と大阪でジェームズ・マキロップ氏の講演が行われました。当日は、藤田和子さんの講演とマキロップ氏との対談も行われました。

2002年に「スコットランド認知症ワーキンググループ」を立ち上げる。

ジェームズ・マキロップ氏(以下マキロップ氏)は、1999年、59歳の時に脳血管性認知症と診断されます。いわゆる若年性認知症です。当時のスコットランドでも認知症は正しく理解されておらず、多くの認知症の人が周囲の無理解や誤解、偏見で苦しんでいました。

診断を受けたマキロップ氏もショックと恐怖に打ちのめされ、絶望でうつ状態となります。

しかし彼はそのわずか3年後の2002年に、世界で最初の認知症当事者団体「スコットランド認知症ワーキンググループ」を立ち上げました。

失意の中、2人の女性との出会いが人生を変える

マキロップ氏にとって、2人の女性との出会いが人生を大きく変えました。

一人は当時、アルツハイマー協会の職員だったブレンダ・ビンセント女史で、引きこもり状態だった彼をボランティア活動に連れ出しました。

彼はこの経験で自信を取り戻し、困難に立ち向かって前向きに生きれば、この先もまだ質の高い人生が待っているのだ。という確信を持ちます。

さらに、認知症の研究者でエディンバラ大学教授のヘザー・ウィルキンソン女史は、彼に認知症の当事者として、聴衆の前でスピーチすることを提案しました。

当時は、認知症の本人が人前でスピーチをすることなどあり得ない時代でしたが、ブレンダの献身的なサポートにより、回を重ねる毎に長いスピーチも難なくできるようになってゆきます。この経験が彼に、自分には、多くの人に正しく認知症を知ってもらうための役割があるのだ。と気づかせることとなります。

まだ医療関係者の多くが、認知症の人は自分の考えを表現することはできないと考えていましたし、世間でも認知症だということは隠すべきことと考えられていた時代のことです。

そんな時代に私が、正常で筋の通った会話ができる認知症の人がいるということを証明したのです。とマキロップ氏は言います。

世界で最初の認知症当事者団体「スコットランド認知症ワーキンググループ」

医師や看護師には自分たちの団体がある。電車やバスの運転手や学生、介護者にも自分たちの団体がある。既にある認知症のグループも主体は介護者で、認知症当事者の団体は世界のどこにもない。これはおかしいのではないか。

認知症の人たちが、自分たちの声で発言できるグループが欲しい。との思いが彼に、世界で最初の認知症当事者団体「スコットランド認知症ワーキンググループ」の設立を実現させました。

2002年の設立当初、グループ内で認知症の当事者は彼一人しかいませんでしたが、あらゆる所に出向いて訴えかけ、グループのメンバーを増やしていきました。

彼は、認知症当事者グループの活動を通して、「認知症の人は自分の力を発揮でき、失われた自信を取り戻すことができます。そうして新たな生きる意味を得ることができるのです。」と語ります。

ワーキンググループでは、当事者の各メンバーが自らの認知症についての病識を持ち、その上で自分たちを取り巻く環境や状況について意見を出し合い、全員の合議制で活動内容を決めるという、まさに当事者が中心となった運営が行われています。

認知症への偏見をなくすためのキャンペーン

設立当初からスコットランド認知症ワーキンググループは、ヘルプカードの作製(自分は認知症で今こんなことで困っているから手助けをして欲しいと相手に伝えるためのカード。携帯して使えるように作られている)や、本人にとって役に立つ生活支援パンフレットの製作など、当事者の目線でいろいろな活動を展開していきます。

長年にわたるスコットランド議会への度重なる働き掛けもその一つで、今では、国内の認知症に関する全ての会議において、常にワーキンググループの参加が必須とされ、彼らの意見は国家戦略に反映されるまでになっています。

その中でも特筆すべき活動の一つが、2002年からワーキンググループが展開した認知症への偏見をなくすためのキャンペーンです。

それまで使われていた「認知症患者」などという差別的な表現を改めさせ、「認知症の人」「認知症とともに生きる人」という表現に変更させました。

現在ではスコットランド政府をはじめ、ヨーロッパ・アルツハイマー協会、イングランドのアルツハイマー協会、スコットランド・アルツハイマー協会でも「認知症の人」に表記が改められています。

この記事の著者/編集者

ジェームズマキロップ   

1940年11月26日生まれ、74歳。スコットランド・グラスゴー在住。59歳の時に脳血管性の認知症と診断され、一時は深く落ち込むが、献身的な支援者との出会いによって立ち直り、世界初の認知症の当事者活動団体「スコットランド認知症ワーキンググループ」を結成、初代議長となる。ワーキンググループでは認知症を正しく理解するための啓発活動に取り組むとともに、スコットランド自治政府との対話を実現し、当事者の声を政策に反映させてきた。2009年の「スコットランド認知症戦略」の策定にも参加し大きな役割を果たした。その功績により2011年に大英帝国勲章を受章する

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。