#02 慢性期医療にこそチーム医療の原点がある

群馬県沼田市の医療法人大誠会内田病院 理事長 田中志子(たなかゆきこ)氏は、故郷の沼田市が大好きで、慢性期医療が大好きという。 田中志子氏は「地域といっしょに。あなたのために。」の理念を掲げ、「大切な、この故郷のために、地域の老若男女が安心して生きられるようなまちづくりをしたい。医療を通じてまちづくりに貢献したい。医師という専門職の立場から地域を見つめ、まちづくりに役立ちたい。」と話す。 「沼田市認知症にやさしい地域づくりネットワーク」の設立など、幅広い活動で地域に貢献する。 (『ドクタージャーナル Vol.19』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

亡くなるからこそ、しっかりケアするのです。

慢性期医療では、患者さんが生きている時から、最期のゴールを考えた治療がスタートします。私たちの理念である、慢性期医療のハッピーエンドにも繋がりますが、患者さんの生き様を知っているから、死に方も一緒に考えられるのです。

20年前は「なぜ、死んでいく人をケアしなくちゃいけないの?」と考えるスタッフも多く、そんな雰囲気もありました。家族も面会に来ませんでした。患者さんが大事にされていないから、見るのが辛くて来られないのです。そんな後ろめたい気持ちを抱かせるようなケアをしていました。

指針となるモデルもなく、医療でもケアでもどうしてよいのか分からない時代で、懸命に仕事をしている心あるスタッフも劣等感の中で働いていました。

私は「亡くなるからこそ、しっかりケアしてあげなきゃいけない」とスタッフに訴え続け、全員で手探りしながら、今のようにプライドをもって働ける形にまで持ってくることに取り組んできました。

開業して28年になりますが、私たちはこの間ずっと患者さんの死というものを考えてきました。認知症になっても見てきました。その中でどうしたら患者さんが笑いながら老いてゆき、亡くなっていくかということを本気で考えてきました。今はそれが私たちのプライドとなっています。

慢性期医療にこそチーム医療の原点がある。

慢性期医療は、急性期医療に比べるとどうしても傍流の印象があります。

平成7年からこの病院で働いていますが、当時においては、慢性期医療は敗北の医療のように見られていたような気がします。死んでゆく医療ともいえます。

そんな時代でしたから、医師は少ないしケアにしても教育にしても全くの未開の地でした。

その頃はチーム医療や多職種協働という考えもなかった時代でした。しかし看護師やケアスタッフも巻き込んだチーム医療でないと慢性期医療はうまくいかない。

最近言われているチーム医療も、慢性期医療では遥か以前から至極当然の姿なのです。

20年以上も前から慢性期医療の現場では、必要に迫られてチーム医療、多職種協働に行きついたわけです。

ともすると、急性期医療でのチーム医療にスポットが当たりがちですが、現在のチーム医療の原点は、まさに慢性期医療にあると思っています。

慢性期医療におけるチーム医療とは

慢性期医療におけるチーム医療は、急性期医療のような医師が頂点のピラミッドではなく、全員が各々の役割におけるフラットな関係です。

例えば医師一人に対して看護師20人と大勢のケアスタッフが関わる大所帯のチーム医療となります。そうなると一人の医師ができることには限界があります。

ですから指示命令よりは一緒に考え行動するチームの一員であり、時には医師の見落としをフォローしてもらう、というような補完関係ともいえます。

その上に、医師にはスタッフへの教育も求められます。褥瘡をつくらないためにはどうしたらよいのか、患者さんが本当に困っていることを聞き出すためにはどうしたらよいか。

例えば、患者さんは短期間の入院でしたら我慢してあまり要望しません。しかし長い入院になると、「ああしてほしい」といろいろな要望や、時には我儘も言います。それらをどのようにして聞き出し、整え解決するかということは、現場のスタッフにも求められている仕事なのです。

ですから慢性期医療では、医師は威張れません。威張ったら誰も協力してくれません(笑)。

私が知る限り、父も含めてですが慢性期医療に携わる医師は皆さん本当に優しいと感じます。

この記事の著者/編集者

田中志子 群馬県認知症疾患医療センター内田病院 センター長 

医療法人大誠会 理事長、社会福祉法人久仁会 理事長、群馬県認知症疾患医療センター内田病院 センター長。医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年病専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、認知症サポート医、認知症介護指導者、日本医師会認定産業医、介護支援専門員。日本慢性期医療協会常任理事、特定非営利法人手をつなごう理事長、特定非営利法人シルバー総合研究所理事長。

この連載について

生まれ故郷をこよなく愛し、大好きな慢性期医療に取り組む

連載の詳細

最新記事・ニュース

more

遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。

人工内耳の発展によって効果や普及率が格段に高まってきた現代。今だからこそ知りたい最新の効果、補聴器との比較、患者さんにかかる負担について伺いました。重度の難聴を持つ患者さんが、より当たり前にみな人工内耳を取り付ける日は来るのでしょうか。

本連載の最後となるこの記事では、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、これからの悠翔会にとって重要なテーマや社会的課題、その解決に向けてのビジョンについて伺いました。

こころみクリニックは正しい情報発信とぎりぎりまで抑えた料金体系、質の高い医療の追求を通して、数多くの患者を治療してきました。専門スタッフが統計解析して学会発表や論文投稿などの学術活動にも取り組み、ノウハウを蓄積しています。一方でTMS療法の複雑さを逆手に取り、効果が見込まれていない疾患に対する効果を宣伝したり、誇大広告を打つクリニックもあり、そうした業者も多くの患者を集めてしまっているのが現状です。 こうした背景を踏まえ、本記事ではこころみクリニックの経緯とクリニック選びのポイントについて伺いました。

前回記事に続いて、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、「死」に対しての向き合い方と在宅医が果たすべき「残された人生のナビゲーター」という役割についてお話しを伺いました。