#02 新宿区大久保での診療活動で見えてきた20年後の日本の姿

新宿ヒロクリニックの英 裕雄院長は、「地域におけるかかりつけ医の役割とは、地域を健全にすること。健康な地域づくりを進めていくことだと考えています。ですから、疾病だけにとどまらず、患者さんを取り巻く社会問題にもアプローチせざるを得ないと思っています。」と語る。 在宅医療の延長線として外来診療を捉え、開業以来21年間、在宅医療で養ってきたノウハウやシステムを活かし、外来診療にも積極的に取り組んでいる。(全4回) (『ドクタージャーナル Vol.23』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

外来診療に24時間体制を取り入れる。

加えて、在宅診療で当たり前だった24時間体制を、外来診療にも取り入れています。当クリニックには、高齢者や虚弱な患者さんが比較的多いのですが、その方たちを支えるのに24時間体制が何といっても重要だからです。在宅医療の患者さんは、発熱したり食事がとれないなどの理由で頻繁に電話を入れてきます。

しかし外来の患者さんには、見守り体制がない人達も多く、かなり状態が悪くなってから私たちに連絡が入ることが多く、社会的にも身体的にも虚弱な人がかなり多いと実感します。そのような人たちを支えるにあたって、通常の昼間の外来だけでは対応できません。その人達の診療が全て救急医療の負担に回ってしまいます。

私たちは、在宅医療の患者さんに行っていた24時間対応を、外来診療にも取り入れています。24時間365日の緊急往診から、夜間休日・日曜祝日も対応しています。在宅医療の延長線上に位置しているのが当クリニックの外来診療です。

新宿区は国内で外国人登録者数が最も多い地域です。

なかでも大久保地域は外国人居住者、特に韓国、中国、ネパール、タイなどアジア系の居住者が多く、それらの異なる文化を持つ人種が共生する多文化都市ともいわれています。新宿区大久保という特殊な地域で開業していて、いろいろな発見がありました。

ひとことで言えば、20年後の日本の姿がここにあると言えるかもしれません。理由の一つに、実はこの地域での日本人の高齢者は減ってきているのです。住民の高齢化率は16%ほどです。ただその中に一人暮らしの高齢者が40%もいます

それと、壮年層も含めて生活保護を受けている人が非常に多い。加えて外国人居住者の多さです。クリニックがある大久保2丁目では37%が外国人居住者です。大久保1丁目では47%にも及んでいます。

しかもこの外国人居住者の割合は年々伸びています。10年後もしくは20年後には、この地域に住む日本人はいなくなり、外国人だけが住む地域になるかもしれません。そう考えると、現状のこの地域での姿は、将来の日本の姿ともオーバーラップします。つまり、外国人が増えていき、日本人が減っていく。しかも高齢者は一人暮らしが多く、困窮した生活保護受給者も多くなる。

さらに将来は、外国人の高齢化という問題も起きてくる。ですから、この地域での現状の問題にしっかりと対応していくことは、将来の日本の課題に有効にアプローチできる可能性があると思っています。

やりがいはとても感じていますが、この地域での診療活動には難しいことが多くあります。例えば、アルコール依存や薬物依存の方とか、海外で感染して国内に持ち込まれる輸入感染症の人もいます。結核感染者もすごく多いです。

日本ではすでに撲滅されている感染症への対策や、外国語への対応とか、それこそ多種多様な対応を考えなければなりません。外国人が抱えている慢性疾患にも、民族それぞれに違いがあります。

これからは、韓国の人のための慢性疾患治療や在宅医療、中国の人のための慢性疾患治療や在宅医療など、それぞれの民族や国民性の違いも踏まえた地域医療も考えなければならなくなるでしょう。現状ではそれらはまだ手探り状態です。

お互いに接しても交わらない民族コミュニティー特性

ここに住んでいる外国人の多くは、程度の差はあっても日本語を理解できます。しかし、中には稀に20年以上も日本に住んでいても一言も日本語が話せない人もいます。

自分たちのコミュニティー深奥部で生活している人達は、日本語を使えなくても十分に生きていけるのです。ここでは民族コミュニティーが多く存在しています。また、それらのコミュニティーに根差した医療活動を行っている専門のクリニックもあります。

但し、地元の医師会とのコミュニケーションはあまりとれていません。これからの課題の一つだと思います。私どものクリニックには、日本の方だけでなく外国の方も多く来院されていますが、例えば飲食店などで、日本の人がよく行くお店と、韓国の人の行くお店、中国の人が行くお店とか、それぞれの出身国で分かれる傾向があります。

国際化というのは、多民族、多国家の人が席を同じくしてコミュニケーションを取り合うということではなく、それぞれの民族や国籍のコミュニティーが、多民族のコミュニティーと接しながらも交わらず、それぞれで存在し続けるというということではないかと思います。

地域密着性が非常に強い、患者の集客特性。

ここで外来診療を始めてみると大きな地域特性に気付きました。外来患者さんの集客で地域密着性が非常に強いということです。外来患者さんの多くは半径500mくらいのとても狭いエリアの人達です。

そうなると、その狭い地域の変動によって、当クリニックの外来診療や医療の在り方から、クリニックのすべてが大きく影響を受けます。それが時代と共にどのように変動するのか、無関心ではいられません。いろいろと調べたり、それに合わせた対応をしていくうちに、先ほど述べたように、この地域に起きている大変なことに気づいたわけです。

(続く)

この記事の著者/編集者

英裕雄 新宿ヒロクリニック 院長 

医療法人三育会理事長、新宿ヒロクリニック院長。1986年慶応義塾大学商学部を卒業後、93年に千葉大学医学部を卒業。96年に曙橋内科クリニックを開業し、2001年に新宿区西新宿に新宿ヒロクリニックを開業する。2015年に現在の新宿区大久保に新宿ヒロクリニックを移転、開業し、現在に至る。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。