意外と知らない!各診療科の特徴から見たクリニックの良い立地とは?
2022.07.25
クリニックの立地を考えるうえで欠かせないのが、自院で扱う診療科についてです。診療科ごとにターゲットになる患者さまは変わります。そのため、適した立地も診療科ごとに異なるのです。今回は主要な診療科の特徴と望ましい開業場所についてご紹介します。
診療科ごとのクリニック数
まずは市場調査の一環として、各診療科を標榜しているクリニック数を把握しておきましょう。
診療科名 | 標榜クリニック数 | 総数に対する割合 |
内科 | 64,143 | 62.5% |
小児科 | 18,798 | 18.3% |
皮膚科 | 12,410 | 12.1% |
整形外科 | 12,439 | 12.1% |
眼科 | 8,244 | 8.0% |
耳鼻咽喉科 | 5,783 | 5.6% |
産婦人科 | 2,826 | 2.8% |
泌尿器科 | 3,763 | 3.7% |
※2022年現在、クリニックの総数は約10万軒です。2種類以上の診療科を標榜しているクリニックもあるので、上記の数字はあくまで目安と考えてください。
診療科ごとの特徴
各診療科の市場規模が把握できたところで、それぞれの特徴について掘り下げて見てみましょう。自院が標榜する予定の診療科についてよく知ることで、経営戦略を立てやすくなります。
内科
内科を標榜しているクリニックは約60,000軒。とはいえ内科にもいろいろあり、それぞれに専門領域があります。専門領域で見てみると、特に多いのは消化器内科、循環器内科、呼吸器内科です。一方、神経内科や血液内科などは軒数が少ない傾向にあります。
一般内科では、風邪やインフルエンザなどの病気や、咳、のどの痛み、発熱、鼻水、頭痛、腹痛、吐き気、めまい、動悸、息切れなどの症状を診ることが多いです。また、高血圧や糖尿病、脂質異常症、花粉症などの慢性疾患に対応することもあります。さまざまな不調が起きたとき、一番初めに来院されやすい診療科と言えるでしょう。精密検査や専門性の高い治療の必要がある場合は、専門のクリニックや大病院に紹介します。
なお、この頃は専門性の高い内科系のクリニックが増えており、それを「糖尿病クリニック」などのように名称に入れているところも少なくありません。差別化を図るうえでは悪くない方法です。ただ、クリニック名に組み込んでしまうと、一般内科を受診したい風邪などの患者さまが足を運びづらくなってしまう可能性があります。専門性の高い内容を押し出す場合には、その地域の競合や需要を調べたうえで慎重に検討しましょう。
小児科
小児科は内科と一緒に標榜されることが多く、標榜しているクリニックは20,000軒弱あるものの、主たる診療科としているクリニックは5,000軒ほどです。
小児科はあらゆる状態の子どもを診ることが求められるので、幅広い知識が必要です。内科と共に標榜しているクリニックでは、小児専門医ではなく内科医が子どもの診察を担当することもありますが、できるだけ小児科の勉強や研修を受けた専門医を担当にすることをおすすめします。なぜなら、小児科はママ友同士のリアルな口コミが集患に影響しやすいからです。
大人と同じ症状であったとしても、子どもに相手の処方や診断には特別な配慮が必要になります。万が一誤診などがあった場合、その噂はすぐに地域内の保護者に広がってしまうでしょう。ただしその逆もまた然りなので、質の高い医療を提供することによって、小児科の患者さまを獲得しやすくなることが期待できます。
なお、市や区などの行政区の境目では、自院のある行政区に住んでいない子どもは公費による医療費助成を受けることができないこともありますので確認が必要です。自院の行政区のみでしか公費による医療費助成を受けることができない場合は、できるだけ行政区の中心で開業した方が有利と言えるでしょう。
皮膚科
内科、形成外科、産婦人科、泌尿器科などと一緒に標榜されることが多く、標榜しているクリニックは約12,000軒あります。そのうち、皮膚科を主たる診療科として標榜しているクリニックは約5,000軒です。
競合としての脅威度は、別の診療科が中心のクリニックなのか、皮膚科専門のクリニックなのかで異なります。なお、自院が美容皮膚科も標榜するなら、美容クリニックも競合になるのでよく確認しておきましょう。
整形外科
整形外科を標榜しているクリニックは約12,000軒あり、主たる診療科として標榜しているクリニックは約7,000軒と多めです。
整形外科はリハビリ用の医療機器をどの程度設置するかによって、必要な物件の広さが変わります。また、患者さまの集まりやすさにも影響するので、医療機器の選定が非常に重要です。
眼科
眼科を標榜しているクリニックは約8,000軒あり、その多くが眼科を主たる科目として標榜しています。
眼科クリニックによっては、診察だけでなく手術まで行うところもあります。手術を行うかどうかによって望ましい物件の条件(広さや構造など)が異なるので、自院の開業形態を考えたうえで場所を検討しなければなりません。
耳鼻咽喉科
耳鼻咽喉科を標榜しているクリニックは約6,000軒です。耳鼻咽喉科は、内科や呼吸器内科、小児科とも競合になりやすいので、開業希望地のクリニックは幅広くチェックしておきましょう。
産婦人科
産婦人科を標榜しているクリニックは3,000軒弱です。レディースクリニックとして産婦人科、婦人科のみを診療することが多いです。しかし、内科や小児科、皮膚科、美容皮膚科、泌尿器科なども一緒に標榜する場合があるので、競合調査の際に必ず確認しておきましょう。
泌尿器科
内科、産婦人科と一緒に標榜されることが多く、泌尿器科を標榜しているクリニックは4,000軒弱あります。マイナーな診療科ではあるものの、高齢化の進展とネットの普及により、泌尿器科単科で開業するケースも増えています。
診療科ごとの来院経路
ある程度、各診療科の市場が把握できたのではないでしょうか。次に、それぞれの来院経路を考えていきましょう。
診療科の全体数や、患者さまのニーズによって通りがかりとネットの重要度は変化します。標榜する軒数が少ない診療科は、患者さまの生活圏において認識される機会が少ないので、ネット検索されやすいのが特徴です。
また、内視鏡検査や白内障手術などの専門性が高い治療が求められる場合や、婦人科、美容外科などのデリケートな診療内容の場合、ネットでホームページや口コミなどをじっくり見てから来院される患者さまが多い傾向にあります。
一方、全体数が多い内科(特に一般内科)の場合は通りがかりで来院されやすいと言えるでしょう。コンビニを探す人が少ないのと同じように、「歩ける範囲の近くにある」のが当たり前の診療科だからです。買い物や通勤時に認知されていることが多いので、調子が悪くなったときに「とりあえず行ってみよう」と思い出してもらえます。
これらに該当しない科目は、通りがかりとネットの両方からバランス良く集患しやすいです。それなのに、ネット経由の来院がほぼない場合は、ホームページや口コミの内容に問題があると考えられるので、一度精査することをおすすめします。
ちなみに、ネット集患に力を入れたいのであれば、「開業候補地+診療科名」や「開業候補地+疾患名」で検索されている数を調べると良いでしょう。その地域において自院がどれくらい求められるかを推定できます。検索数についてはGoogleのキーワードプランナーなどで簡単に調べることが可能です。
開業後は検索数が多い(=需要が多い)キーワードで上位表示を狙っていきましょう。関連キーワードで検索をかけた際に自院のホームページが上位に出てくれば来院の可能性が上がるからです。ネット広告を出す際のキーワード設定でも、検索数は一つの目安になります。
マイナー科目の集患
ネット中心の診療科は、産婦人科、泌尿器科、精神科、美容皮膚科などのマイナー科目。これらを主たる診療科としているクリニックの数は5,000軒以下と少ないため、集患範囲が広いのが特徴です。通りがかりで認知できる範囲はごく限られているので、患者さまの多くがネット経由で来院されます。
とはいえ、マイナー科目であれば立地に気を配らなくても良いかというとそうではありません。やはり通りがかりで認知されるのに越したことはないので、できるだけ多くの人に知ってもらいやすい場所を選びましょう。
また、マイナー科目以外も標榜しているクリニックにとっては、なおさら立地が重要になります。たとえば一般内科と産婦人科を標榜しているクリニックの場合。一般内科を受診する患者さまは通りがかり中心で近くに住んでいる人が多く、産婦人科を受診する患者さまはネット中心で遠くに住んでいる人が来院しやすく、同じクリニックであっても診療科ごとに来院経路や診療圏は大きく異なります。
遠方からも来院がある診療科
私が運営する新宿駅前クリニックは、内科、皮膚科、泌尿器科を標榜しています。各診療科の患者層は以下の通りです。
- 内科:半径500m前後以内の徒歩圏内で働いている人
- 皮膚科:半径1km前後以内の徒歩圏内で働いている人を中心に、隣駅や東京都心へ電車通勤している人
- 泌尿器科:半径1km前後以内の徒歩圏だけでなく、東京都心に電車通勤している人や東京都内にお住まいの人
それぞれの患者数を割り出してみると、メジャー科目の内科よりも、より広範囲から患者さまを集められるマイナー科目の皮膚科や泌尿器科の方が多いです。
言うまでもないことですが、患者数は売上に直結します。実際、私がこれまでコンサルティングしてきた中で特に大きな売上を出しているクリニックのほとんどは、マイナー科目を標榜していました。
売上をしっかり出していきたいのであれば、立地だけでなく何を標榜するかも重要です。
内科だけでは厳しいのか
一般内科は通りがかりで認知されて来院されることが多いため、ネット集患が効果的なマイナー科目よりも競合クリニックと差がつきにくい傾向にあります。
また、住宅街にある一般内科は新規患者さんの割合が10%ほどで、生活習慣病などの慢性疾患の患者比率が高いです。リフィル処方せんやオンライン診療の解禁により、他の診療科よりも影響を受けやすいともいわれています。
これから開業するのであれば、一般内科以外で医療需要のある診療科もあわせて標榜すると、より経営が安定していくことでしょう。
また、同じ内科でも競合の多くない専門領域(呼吸器内科や内視鏡検査など)を扱うことで、遠方からの新規来院が見込めます。
診療科に合わせた戦略を
今回ご紹介してきたように、診療科ごとに最適な立地や物件の条件は異なります。また、集患についても差が現れやすいので、診療科を決める時点から慎重に考えることが大切です。
自院にとって一番望ましい形で開業できるよう、この連載を役立てていただければと思います。以下の書籍もよろしければご活用ください。
森口敦 ドクタージャーナル東大生チーム・コーチ兼メンター