#03 患者さんが望む生活を支援する在宅医療

新田クリニック院長 新田國夫氏は、平成2年に国立市で開院した当時から一貫して在宅訪問診療に取り組んできた。 これから私たちの前にある大きな課題は、高齢時代を如何にむかえるか、そして個々人がいつまでも心豊かに過ごせることが可能か、障害を持ったとしても、その人なりに地域で暮らしていくことが可能な地域医療と介護体制の確立が必要と新田院長は訴える。 一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会の会長としても活躍する新田國夫氏に、これからの在宅医療の在り方について伺った。 (『ドクタージャーナル Vol.14』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

これまでの日本における在宅医療の取り組み

それまでは、各種の活動団体がそれぞれ独自に在宅医療に取り組んできましたが、時代の状況から日本医師会でも在宅医療に取り組むことになり、在宅医療連絡協議会が作られました。

私も委員の一人として在宅医リーダー研修会や在宅医療支援フォーラムなどで在宅医療への啓発を行っています。

国としても平成23年には在宅医療連携拠点事業を開始しました。目的は、今頑張っている在宅支援診療所の医師と、これから始めようという地域のかかりつけ医が、それぞれの役割を作りながら一緒に地域医療を作っていくことです。

かかりつけ医も、自分の患者さんが通院できなくなってきたら、当然その患者さんの在宅医療に取り組んでほしい。その上で能力以上の対応が必要な時には、在宅支援診療所の医師がバックアップする。それぞれの地域の特性を生かしながらも、日本全体でシステム化された在宅医療体制を作るということです。

かつての往診とは聴診器しかなくて、診療できることは限られていました。今の在宅医療とは、携帯型の超小型エコーやポータブルX線撮影装置もありますし、私の所ではMRIも搭載車が在宅まで撮りに来てくれますので、手術を除けば、検査に関してはほとんど病院と同じといえます。

医療の中身においては病院と変わらないことが、医師の能力によってできるわけです。

国立市の取り組み

国立市では、市の行政システムの中に在宅重視主義を置いています。

地域包括体制をどうするかを、介護保険の中の運営協議会指針の中に入れ込んで推進し、地域モデルを作っていきたいと考えています。

取り組みの一つは認知症です。国立市では、「認知症になっても安心して暮らせるまちづくり」を推進しています。
認知症では早期発見が必要といっても、早期発見から誰がしっかりとつくのかというサポートシステムが無ければ、早期発見は進まないでしょう。多くの医師が、若年性の認知症の人に対する対応が十分にできていないという共通認識も持っています。

仮にBPSDが起きたら、外来治療や入院治療では対応できません。かといって一人の在宅医でも難しい。その場合は、認知症チームが本人と家族ケアの対応を行うという、初期対応とアウトリーチを兼ねた体制を、現在作り上げつつあります。

これだけ増えてきている認知症に対しては、個別対応ではなくて地域対応の必要性を強く感じています。

具体的には国立市との共同作業で、MCI(軽度認知障害)、初期、中期という認知症発症の流れの中の各ステージにどのようなサービスを組み入れていくかという絵柄を描いています。

そこに足りないものを埋めていき、多くの個別症例を集めて地域ケア会議で検討し、フィードバックの積み重ねでその精度を高めて施策化する作業を進めています。

一般社団法人 全国在宅療養支援診療所連絡会の取り組みについて。

私は、今までの在宅医療の在り方を、考え方も含めて新しくしていかなければならないと思っています。

現在多くの医師が個々で在宅医療に取り組んでいても、必要とする人にとってはまだまだ点にすぎません。これからは面が求められます。

在宅医療を望んだ時に、国民の誰もがどこででも受けることができる医療の地域連携を作る。と同時に、医療の質も高めていく。その作業を、全国在宅療養支援診療所連絡会で取り組んでいます。

連絡会に参加している優れた医師たちの経験と英知を集約して、望ましい在宅医療の質を確保する。面と質の両面でこれからの在宅医療の在り方を追求し、「住み慣れた地域で家族とともに療養したい」、「最期は自宅で」といった国民の希望にこたえられるよう努力してゆきたいと考えています。

新田クリニックの取り組み

当院では、地域住民のかかりつけ医として外来診療と在宅診療を行っています。

在支診の制度ができる前から、25年間にわたり24時間在宅支援を行っていまして、現在、在宅診療の患者さんは施設在宅を除いて80数名おられます。

土、日も外来診療を行っており、外来患者さんも24時間対応でいつでも電話を受け付ける体制を敷いています。ですから2000名以上の患者さんを24時間診ている計算になります。

クリニックの看護師は4名、他に施設の訪問看護師が7名います。師長は開院当初から勤務してもらっていますし、他の皆さんも長期間勤務してくれています。

当院の看護師やケアスタッフの患者さんに対する思いは私よりも強いかもしれませんね。

今までもそうですが、外来で通院されている患者さんが高齢になり、本人が希望すれば在宅診療に切り替わってゆく。

自然の流れで在宅医療の選択肢も提供できる。地域医療の中で “患者さんが望む生活を支援すること”の一つの選択肢が在宅医療だと思っています。

この記事の著者/編集者

新田國夫 新田クリニック 院長 

一般社団法人 全国在宅療養支援診療所連絡会 会長。日本臨床倫理学会 理事長。
1944年岐阜県生まれ。1967年早稲田大学第一商学部卒業。1979年帝京大学医学部卒業、帝京大学医学部第一外科・救命救急センター勤務。1990年医療法人社団つくし会新田クリニック設立。主な著書/『生き方、逝き方ガイドブック 最期の暮らしと看取りを考える』(朝日福祉ガイドブック)2015年、『安心して自宅で死ぬための5つの準備』(主婦の友社)2012年、他

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。