在宅ケアチームに精神科医の力を加えた診療モデル

前回記事「かかりつけ医だからできる認知症患者との関わり方」に続き、本記事ではGP(General Practitioner:総合診療医)とは何か、また認知症の診療にGPや精神科医が関わる意義について伺いました。

日本におけるGP(総合診療医)

GPとしての役割を果たすためには、ジェネラリストであることが必要です。

医師にとってスペシャリストを定義することは容易ですが、一方でジェネラリストの定義は難しい。どのようなスキルや能力を持っていればジェネラリストなのか。「広く浅く」という言葉で表現し尽せない深さがそこにはあるのに、専門医でなければ結局何をやっているのか、と問われると答えに困ってしまいます。

ある在宅医の先生が、「自分はこれができるではなく、求められる役割に応じて自分を変えることができるのがジェネラリスト」だと言われました。それは非常に的確なジェネラリストの定義だと感じました。

日本ではGPが制度付けられていないため、心ある専門医ほどGPの役割も果たそうとして、逆に身動きが取れなくなってしまうという姿も見受けられます。

現在、松戸市では地域医師会が松戸市立医療センターなどの中核的な病院に呼びかけ、「二人主治医制」という制度を推進しています。

これは、これまで中核病院の専門医にのみかかっていた患者さんが、将来的に複数の疾患を抱え通院困難になり、在宅医療が必要になる可能性がある場合、松戸市在宅医療・介護連携支援センターを通じてかかりつけ医を持つことを促すものです。

専門医とかかりつけ医が密に連携することは、もちろん患者さんの利益になりますが、専門医の先生方にその専門性を遺憾なく発揮していただくことにもなります。

日本の開業医は「かかりつけ医」としての役割を期待されており、これはGPという概念とも重なります。

しかし、日本ではGPの養成プログラムは少なく、当初専門医としてキャリアを重ねた医師が、開業して個人的研鑽によりGPとしての機能を身につける、というキャリアパスがまだまだ多いようです。

「GP‒精神科医‒多職種訪問チームモデル」 とは

「GP-精神科医-多職種訪問チームモデル」は、こうした日本の医師養成制度を背景にしたサービスモデルです。

私が所属するあおぞら診療所では、GPを中心に複数の専門医が在籍し、1人の患者さんに対して主治医だけでなく、必要に応じて異なる専門医が訪問し、看護師やソーシャルワーカーなど多職種のメンバーと連携して、24時間365日の在宅ケアを提供しています。

これまでの訪問診療の過程で見えてきた事は、患者さんに新たに精神医学的問題が浮上することや、認知症と診断された方が実はうつ病であったり、神経変性疾患とされた方が身体症状症であったりなど、主病名が精神疾患であると捉え直しが必要な例も少なくないということです。

だからこそ「GP-精神科医-多職種訪問チームモデル」で、精神科医が在宅ケアチームの一員として機能し、さらに生じる精神医学的な問題にも対応する。在宅ケアにおける精神科医の役割は決して小さくないと考えています。

このような形で、精神科医が関わる例はまだ珍しいと思います。

あおぞら診療所外観(引用元:あおぞら診療所HP

在宅医療に精神科医が関与することは、たとえ週1日であっても非常に重要であることが、個人の経験とささやかな研究からわかっています。

地域でメンタルクリニックを開業している先生方も、単独で在宅医療に参入するのは困難でも、週1日の非常勤医師として在宅医療に関わるということならさほど難しくないでしょう。

「GP-精神科医-多職種訪問チームモデル」は、総合病院におけるリエゾン・コンサルテーションの在宅版としても機能し、特に総合病院で経験を積んだ精神科医にとってはなじみ深い医療形態です。

また近年厚生労働省は「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム」の構築を目指していますが、その実現においても、有益なモデルになり得ると考えています。

今や認知症は、一般的な疾患である。

認知症は10年前後にわたる慢性の疾患です。軽度から中等度くらいまでは、BPSDの出現などで精神科の必要性がそれなりに高いと言えます。しかし、重度以降はBPSDも消失し、身体症状としての要素が色濃くなります。身体合併症も「見つけにくく、治しにくい」度合いを増し、全身の管理が必要となってきます。

今や認知症は一般的な疾患であり、GPが診療すべき疾患です。疾患の軌道特性からも、長い経過をGPが主治医として付き添うことが相応しい。

精神科医の力が加わることで、認知症の方が最期まで住み慣れた地域で暮らすことが、より実現可能になるでしょう。

あおぞら診療所の基本情報

クリニック名あおぞら診療所
ホームページhttp://aozora-clinic.or.jp/
住所〒271-0074 千葉県松戸市緑ヶ丘2-357
電話番号/FAX047-369-1248
診療内容訪問診療を中心とする内科

この記事の著者/編集者

北田志郎 あおぞら診療所 副院長 

博士(医学)。精神保健指定医。日本精神神経学会専門医・指導医、日本中医学会評議員、日本プライマリ・ケア連合学会認定医・指導医。分担執筆に『在宅医療バイブル(第2版)』(日本医事新報社、2018)、『在宅医療テキスト(第3版)』(勇美記念財団、2015)、『今日の治療指針2021』(医学書院、2021)、『医師アウトリーチから学ぶ 地域共生社会実現のための支援困難事例集』(長寿社会開発センター、2023)など。

この連載について

精神科医が在宅医療・認知症に関わる意義とは

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。