#06 術後のQOLを高めるためのがんの免疫療法

東京都町田市の戸建て住宅が立ち並ぶ閑静な住宅街の中にある、西嶋医院とケアセンター成瀬。 この地域で西嶋公子院長は、40年近くにわたり地域のかかりつけ医として、外来診療と在宅医療に取り組んでいる。 特筆すべきは、住民のボランティアグループの結成や、地域ケアの拠点「ケアセンター成瀬」の建設陳情活動など、常に自らが中心となって、住民参加による街づくりに尽力してきたことだ。 「常にみんなで意見を出し合い、みんなの合意の上で全てを決めてきました。私への反対意見があった時でも、必ず全ての意見を尊重してきました。多数決や強制で決めたことは、一度もありません。」と、住民参加型の街づくりにこだわってきた。 長年の活動に対して、平成27年に第3回「日本医師会 赤ひげ大賞」が贈られている。 西嶋公子院長は自らを、住みやすい街づくりのコーディネーターであり、オルガナイザーと自認する。 (『ドクタージャーナル Vol.28』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)

「第4のがん治療」多価樹状細胞ワクチン免疫療法に取り組む

平成29年から、がんの患者さんに対して、標準治療と併用して「多価樹状細胞ワクチン」という免疫療法に取り組んでいます。

私は30年以上に及ぶ外来診療で、多くの患者さんのがんを見つけて、その都度適切な専門医に紹介してきました。

しかし術後の患者さんの中には、副作用や生活上の支障などで抗がん剤治療が受けられない人や、術後のQOLが大きく損なわれている方もいます。

そのような方たちには、多価樹状細胞ワクチンによる免疫療法をお勧めしています。

実際にステージ4の患者さんの著効例も経験し、「第4のがん治療」という実感を何人もの患者さんの症例から得ているからです。

これは、通常の静脈採血によるわずか25mlの血液の培養から、多価樹状細胞ワクチン(獲得免疫)とNK細胞(自然免疫)によるがん治療をハイブリッドで行う免疫療法です。

この免疫療法の大きな特徴は、分子標的薬よりも多い個別のがんやペプチドを用いることで患者さん一人一人のがんに合わせた治療の個別化ができるという点と、特許を取得した培養技術により、少量の血液からワクチンが作れるうえ重篤な副作用もなく、外来通院でも在宅でも治療が可能で、患者さんへの肉体的な負担も少ないということです。課題は自由診療という点ですが、治療法の選択肢の一つとして十分に価値はあると思っています。

患者さんにとっては、がんの治療後のQOLも重要

がんのサバイバーは増えていますが、その人たちのその後の人生がQOLの高いものとは言えない現状があります。

がんになった結果として、その後の人生を諦めなければならないのであれば、サバイブの意味はありません。

国立小児病院に勤務していた時に、抗がん剤と放射線治療を行い、がんの治療に成功した生後8カ月の乳児がいました。100人中2人しか生き延びられなかった中の一人です。

しかし、当時の技術では狭い範囲への放射線照射はできず、胸全体に照射することになったため、それが原因で胸郭が変形してしまい、そのまま成人しました。

20数年後、彼から、就職のために胸に異常はないという旨の診断書を書いてほしいと依頼があった時に、がんから生き延びた患者さんの、その後の人生のQOLも視野に入れて考えることが医師には求められていることを痛感しました。

小児がんから生き延びたその二人は、成人した後も未だに結婚はできていません。とても気の毒だと思います。

また、若い女性の乳がんでは、手術後も長期間ホルモン療法をしなければなりません。そのことは結婚、出産に大きな影響を及ぼします。

しかし、一定の標準療法の後に免疫療法を行うことで、がんの再発を防げれば、結婚も出産も安心してできます。そういう選択もできるのです。

標準治療と免疫療法の併用で、その人の残りの人生のQOLを上げることができる

医療が進んだ今でも、がんの治療後の人生を支えるサポートが充分とは言えません。

私は、患者さんのQOLを考えた時に、免疫療法もがん治療の選択肢の一つに考えられると思っています。

標準治療と併用して免疫療法も行うことで、その人の残りの人生のQOLを上げることができるからです。

それも、私がかかりつけ医で、患者さんの全てを分かっているからこそ、免疫療法もがん治療の選択肢に入れることができるのです。

ですから免疫療法は、本来であればかかりつけ医が行うのがベストだと思っています。 

その人の人生をどうやって支えるのか、ということが大切なのです。

最初に診断でがんを見つけて、適切に専門医療機関で標準療法を行ってもらい、なおかつ、その後の選択肢として免疫療法もあるというのは、私にとっては嬉しいことです。

この記事の著者/編集者

西嶋 公子 医療法人公朋会 理事長 

医療法人社団公朋会理事長、西嶋医院院長。社会福祉法人創和会理事長。NPO在宅ケアを支える診療所市民ネットワーク理事、社会福祉法人創和会理事長、町田介護支援ネットワーク協同組合代表理事、平成27年 第3回「日本医師会 赤ひげ大賞」受賞。昭和45年 東京医科歯科大医学部卒、昭和47年 国立小児病院、国立療養所神奈川病院勤務。昭和54年 西嶋医院開設、平成元年 ボランティアグループ「暖家の会」設立、平成5年 センター建設促進住民の会 事務局長、平成8年 「ケアセンター成瀬」施設長、平成9年 西嶋医院を医療法人社団公朋会に改組。

この連載について

住民参加型の地域包括ケアを志向し、 コーディネーターとして住みやすい街づくりに尽力する

連載の詳細

最新記事・ニュース

more

遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。