#04 公的保険制度に風穴を開ける
連載:住民参加型の地域包括ケアを志向し、 コーディネーターとして住みやすい街づくりに尽力する
2019.08.28
平成18年の介護保険制度見直しで、悪性腫瘍の第二号被保険者への介護保険適用を実現させる
平成16年と平成17年に、厚生労働省から介護保険制度の中の、ターミナル・ケアにかかわる分野の見直しのためのヒアリングに呼ばれました。
その時に私が強く訴えたのが、悪性腫瘍の第二号被保険者への介護保険適用の妥当性でした。
当時、介護保険制度には、様々な矛盾や問題点が浮き彫りになっていました。
40歳から64歳の第二号被保険者の悪性腫瘍の患者さんは、特定疾患に認められていなかったので介護保険料を負担しているにもかかわらず、介護保険を利用できなかったのです。
介護=高齢者という図式から発生している制度の矛盾です。
私はこの矛盾の見直しを提言しましたが、そのためには裏付けとなるエビデンスが必要と思い、全国の知り合いのドクターに電話をかけまくり、個人のネットワークをフルに駆使してたくさんの症例を集めました。
全国の先生方のご協力の結果、悪性腫瘍の第二号被保険者(40~64歳)のデータが289例も集まりました。
私の持つ73例の悪性腫瘍の第一号被保険者(65歳以上)のデータと、予後も含めて比較分析したところ、両者とも全く同じ状況なのに、一方は介護保険が使えていて、一方は介護保険が使えていないという、制度の矛盾がはっきりと浮かび上がりました。
これらのデータに裏付けされたペーパーを厚生労働省に提出した結果、平成18年から第二号被保険者でも悪性腫瘍末期の患者さんは、介護保険が利用できるようになりました。
介護保険の適用拡大で可能になった訪問入浴で、気持ちよさそうな患者さんの姿を見た時、そしてご家族から感謝された時、とても嬉しかったし、頑張って良かったと思いました。
公的保険制度に風穴を開けることは大変なことでしたが、私が地域のかかりつけ医であることと、そして多くの協力してくれる仲間がいたからこそ、できたことだと思っています。
※表参照
第1号被保険者(65歳以上) 73例 |
第2号被保険者(40~64歳) 289例 |
|
---|---|---|
男:女 | 70%:30% | 51%:49% |
平均死亡年齢 | 75.4歳 | 55.9歳(40~64歳) |
平均介護者数 | 1.5名 夫10%、妻63%、親0%、 子59%、その他23% |
1.4名 夫30%、妻47%、親8%、 子32%、その他20% |
平均在宅療養日数 | 69日 | 58日 |
転帰 | 在宅97%、入院3% | 在宅85%、入院15% |
訪問看護 | 97% | 79% |
訪問介護 | 32% | 3% |
介護機器 | ベッド(70%)エアーマット(53%) | ベッド(13%) |
医療処置 | IVH18%、HOT23% 吸引機15% |
IVH27%、HOT35% 吸引機9% |