#03 訴えを上手に聞き、丁寧に説明し、励ましながら患者さんと一緒に治療に取り組む

緒方哲郎氏は、20年以上前から取り組むへき地医療を、クリニック開業後の現在も続けている。毎月2回、平日の診療後に最終便で沖縄に入り、翌日は離島での診療を行い、その日に帰京し翌日からクリニックで診療を行うというハードなものだ。 住んでいる場所で受けられる医療に差があってはならない。しかし現状の過疎地や離島におけるへき地医療は、多くの医療関係者の善意や使命感によって維持されている状況にある。 ホームドクターとして地域医療に携わりながらも、へき地医療に取り組み続けている緒方哲郎氏にへき地医療の現状や課題を伺った。 (『ドクタージャーナル Vol.17』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)

医師は徹底した聞き役であり励まし役であれ

― ここからは耳鼻咽喉科医としての緒方先生のお話をお聞かせください。緒方先生の医師としての日頃の信条とはどのようなことでしょうか。―

私は耳鼻咽喉科医として、主に耳の手術を20年以上にわたり行ってきました。

耳鼻咽喉科で扱う病気は種類も多くて、原因がわかり難いわりには症状が大きく出てしまうことも多く、耳鼻咽喉の病気で苦しんでおられる患者さんも多くいます。

ですから診察の際は、患者さんの症状をよく見極め、話を丁寧に聞くことが大切となります。

私は、医師としての基本姿勢は、患者さんの訴えを上手に聞いて、病気について丁寧に説明し理解してもらい、励ましながら一緒に治療に取り組むことにあると思っています。

医師は医療の専門スペシャリストですから病気を治すことが役割です。でも病気で不安を抱えている患者さんが医師に求めているのは、より精神的なもの、例えば治るという希望や安心とか、丁寧な説明や治療に対する納得ではないかと思っています。

ですから、医師は徹底した聞き役であり、励まし役であれと思っています。

全ての病気が解明されているわけではありません。人の体と命を扱う仕事である以上は、あくまでも謙虚であれ。そう思って日々の診療に取り組んでいます。

患者さんに納得して帰って頂くことが大切

― 緒方先生は、山王耳鼻咽喉科クリニックの院長としてクリニック経営にも携われています。最後にクリニックのマネジメントについてお聞かせください。―

クリニック経営の基本とは、患者さんが安心して治療を受け、納得して帰って頂くことだと思います。

大森駅から徒歩2分の山王耳鼻咽喉科クリニックには、近所のお年寄りからビジネスマン、幼稚園のお子さんまでと幅広い層の患者さんが、多様な疾患で来院されます。

当クリニックは山王地区の耳鼻咽喉科のホームドクターとして、耳、鼻、喉の各種症状の診察・治療を全般的に行なっております。さらには聴力検査機器や聴力検査室なども充実させ、補聴器専門外来も開設しています。

常日頃から、スタッフには資格の有無に関わらず、患者さんに対して医療のプロフェッショナルとしての仕事、行動、立ち居振る舞いを求めています。

患者さんは、不安や苦痛を伴って来院されます。全てのスタッフがそれぞれの持ち場でプロの医療者として、患者さんに寄り添い、安心して治療を受け、納得して帰って頂く。

患者さんには、私の責務として治療で満足して頂き、スタッフの責務として治療以外の全てのサービスで満足して頂く。近隣の薬剤師の先生方にも強くお願いしています。

特に大切なことは、患者さんが満足して、納得して帰って頂くということなのです。そのことを当クリニックのスタッフ全員が理解してくれていますので、それ以外のことは言いません。あえて言えば、それが私のクリニック経営のマネジメントと言えるかもしれません。

患者さんが自由に医者を選ぶ今の時代にとって、安定したクリニック経営の在り方とは、患者さんに満足して帰って頂くことの繰り返しの結果として、後から付いてくるものと感じています。

― 本日は、実際にへき地医療に取り組まれている緒方先生だからこそ伺えた貴重なお話でした。ありがとうございました。―

この記事の著者/編集者

緒方哲郎 医療法人社団如星会 山王耳鼻咽喉科 院長 

【専門領域】耳鼻咽喉科学全般。大学では耳の疾患の手術療法を中心に研究を行う。
1989年東海大学医学部卒業、東海大学医学部耳鼻咽喉科入局、1995年東海大学医学部大学院医学研究科修了 医学博士、2006年山王耳鼻咽喉科開院。1992年より厚生省の「僻地医療支援プログラム」に参加し、沖縄県八重山地方の耳鼻咽喉科診療に取り組み、現在も月2回沖縄県の離島での検診を行っている。

最新記事・ニュース

more

遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。