これで完璧!あなたのクリニックから一流のスタッフを育成する方法

クリニック経営において大切な要因の1つにスタッフの質があります。患者さんが来院した際、初めに話すのも、最後に話すのも医師ではなくスタッフである場合がほとんどです。スタッフの質がクリニックの印象を大きく左右すると言っても過言ではありません。

患者さんに満足していただけるスタッフはどのようにすれば育成できるのでしょうか。

スタッフ教育の重要性

クリニック経営を行う上で意識されにくいことですが、スタッフの教育には莫大な時間とお金がかかります。スタッフ教育の重要性を無視することはできません。

スタッフ教育は言うまでもなく、患者さんに満足していただくために行います。しかしスタッフの教育は患者さんだけでなく、他のスタッフにとっても利益があります。

スタッフがクリニックを退職する主要な要因の1つに「業務量に見合わない人員配置により発生するきつい仕事」が挙げられます。また、仕事のきつさにはスタッフの教育不足が影響します。スタッフの教育を行うことで一人ひとりの力を伸び、業務効率化が進み、時間に追われることが減るでしょう。その結果、離職率の低下を実現することができるかもしれません。

スタッフの行う業務は多岐にわたりますが、内容に関係なく業務に対する姿勢が非常に大切になります。なかには、医師や他のスタッフを補佐する役割を果たすスタッフもいるでしょう。

そのようなスタッフが自分から動かず、手伝う際も最低限のことしかしない場合、予定より勤務時間が長くなる可能性があります。一人ひとりのスタッフがやるべきことを理解し自発的に動けば、業務効率化につながり余計な時間や手間を削減できます。スタッフ教育は、働きやすい環境を作ることにも役立つのです。

患者さんにとって素晴らしいスタッフを育成することはもちろん、他のスタッフにも有益なスタッフの育成を目指しましょう。

どのようなスタッフを目指すか

クリニックでスタッフに求められる主な能力は、マニュアルに沿って動く正確性と、その場に合わせ判断し行動する柔軟性です。

クリニックの仕事は大部分がマニュアル化できます。たとえば、来院された患者さんにはまず体温を測定していただき、次に問診票を記載してもらうなど。このような部分は患者さんごとに対応を変える必要がなく、マニュアル通りに行動できるスタッフが求められます。

一方、マニュアルが活用できない場面も存在します。たとえば、患者さんの連れてきた赤ちゃんが泣き出してしまい、泣き止まないとき。診察の邪魔になってしまう可能性があるため、赤ちゃんが泣き止まない原因を親御さんと一緒に探るなど、柔軟な対応が求められます。しかし、業務が忙しくそのような対応が取れない場合もあります。そのような場合はどうするのか、マニュアルに載っていない部分はスタッフの判断力に委ねられます。

また、忘れてはいけないのは患者さんに寄り添えるスタッフであることです。患者さんは身体の具合だけでなく、医療費や治療内容などさまざまな心配を抱えて来院します。その不安を軽減できるスタッフであるためには、大前提として身だしなみ・挨拶・表情・言葉遣いがその場に合ったものであることが重要です。

教育時に心がけること

スタッフの教育を行う際はスタッフに合わせた教育が必要になります。すべての場面を想定しそれぞれの対応策を教育できれば良いのですが、そうはいきません。医師や教育担当者がスタッフにかけられる時間は限られていますし、想定外の場面はどうしても発生してしまいます。ですから、そのような際にも対応できる柔軟性を持ったスタッフに育てることが大切です。

そのためには、スタッフの成長段階に合わせ教育方法を変える必要があります。たとえば、新人で基本的な業務内容を把握しきれていない場合には、業務内容を一つひとつ丁寧に説明しながら実際にやって見せる。一方、基本的な業務内容は覚え、実践できるようになったスタッフには、業務の目的を伝えたうえで自分で考えながら動いてもらう。このような変化をつけることで、マニュアルに載っていない場面にも対応できるスタッフを育成しやすくなります。

また、教育されたスタッフが後に入って来るスタッフを教育できるようにすることも大切です。教育期間中から今後教える機会があることを伝えておけば、より積極的に覚えようとするでしょう。そのためにも教えるべき内容はチェック項目などを用いて整理しておくと良いですね。教育担当者自身が作成することで作業内容を整理することもでき、他者にも教えやすくなります。

育成方法

スタッフ教育は不確実性が付きまとうもの。とにかく時間をかければその分成長するとは限りません。確実に成長させるため、適切な順序を踏んでいくことをおすすめします。

目的・目標の設定

まずは、目的・目標を設定する必要があります。これは新人スタッフ自身が行う活動です。とはいえ適切でない目的・目標を設定した場合には、スタッフの自主性を尊重しつつ修正する必要もあります。

このとき、目的と繋がりのある目標を立てることがポイントです。目標を達成しても目的達成に近づかないのでは意味がありません。

たとえば目的を

  • 「患者さんに安心感を与えるクリニックスタッフになる」

とした場合、以下に示す目標が良い例として挙げられます。

  • クリニックにふさわしい言葉遣いを覚える
  • スタッフ間での報連相を欠かさない
  • 患者さんに接するときは笑顔を心がける

計画の作成

次に、計画を作成します。これも新人スタッフ自身が行う活動です。自分で計画を作成することで主体的に取り組みやすくなります。目的・目標の設定で定めた目標に合わせ、必要なスキルをリストアップしましょう。それらのスキルが身につくよう、計画を作成します。

目的・目標に合わせ新人スタッフに必要なスキルをチェック項目にしておくと、成長度合いを分析する際に役立つのでおすすめです。

実行

計画に基づいて実行していきます。初めは教育担当者がお手本を見せる必要がありますが、実践なくして習得はありません。新人スタッフにも積極的に業務をこなしてもらいましょう。

人は五感を刺激されると記憶に残りやすいと言われています。視覚・聴覚だけでなく、実際に業務をこなすことで、触覚や嗅覚も刺激できるのでより効果的です。スタッフの記憶に残りやすいよう、工夫していきましょう。

分析

できたこと・できなかったことを明確にし、次に繋げます。もしここで計画に修正が必要な場合には、臨機応変に対応しましょう。

スタッフのモチベーションを上げるためにもできたところは褒め、できていないところは共有します。ただし、思考がマイナス方向ばかりに向いてしまう可能性もあるため、できていない部分ばかりに目を向けないよう注意してください。また、褒める際には具体的な事柄に触れると喜ばれやすいです。

修正

最後にできなかった部分を再度指導します。できなかった部分を乗り越え、目標を達成することができれば、目標の設定から達成までの1サイクルが完了です。このサイクルを繰り返すことで、最終的な目的の達成に繋げていくことができます。

スタッフ教育がクリニックの価値を決める

クリニックに求められるスタッフは正確性と柔軟性を備えたスタッフだと述べましたが、これはスタッフ教育も同様です。必要なことは教えつつ、相手に合わせて教育の仕方を変えられることが望ましいでしょう。誰でも同じように成長するわけではありません。すべてのスタッフを同じように教育しようとするのは教育担当者側の傲慢です。教育する際も柔軟性を持つ必要があります。

患者さんに満足していただき自分たちも働きやすいクリニックをつくるためにも、スタッフ教育は特に力を入れたいところです。ぜひ今回ご紹介した内容をスタッフ教育に役立ててください。

この記事の著者/編集者

ドクタージャーナル編集部   

各種メディアでのコラム掲載実績がある編集部員が在籍。
各編集部員の専門は、社会における機能システム、食と健康、美容、マーケティングなどさまざまです。趣味・特技もボードゲームに速読にと幅広く、個性豊かな開業支援チーム。
それぞれの強みを活かしながら、医師にとって働きやすい医療システムの提案や、医療に関わる最新トレンドの紹介などを通して、クリニック経営に役立つ情報をお届けします。

この連載について

開業応援コラム~クリニック経営の入り口~

連載の詳細

本連載は、開業医の方々の支援を目的としたコラムです。これから独立を考えている、あるいはクリニックを開業したばかりの医師の方々に向けて、クリニック経営に関するお役立ち情報を発信していきます。開業準備や医療設備、人事関係、集患など、コラムによってテーマはさまざまなので、ぜひ参考にしてください。

最新記事・ニュース

more

遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。

人工内耳の発展によって効果や普及率が格段に高まってきた現代。今だからこそ知りたい最新の効果、補聴器との比較、患者さんにかかる負担について伺いました。重度の難聴を持つ患者さんが、より当たり前にみな人工内耳を取り付ける日は来るのでしょうか。

本連載の最後となるこの記事では、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、これからの悠翔会にとって重要なテーマや社会的課題、その解決に向けてのビジョンについて伺いました。

こころみクリニックは正しい情報発信とぎりぎりまで抑えた料金体系、質の高い医療の追求を通して、数多くの患者を治療してきました。専門スタッフが統計解析して学会発表や論文投稿などの学術活動にも取り組み、ノウハウを蓄積しています。一方でTMS療法の複雑さを逆手に取り、効果が見込まれていない疾患に対する効果を宣伝したり、誇大広告を打つクリニックもあり、そうした業者も多くの患者を集めてしまっているのが現状です。 こうした背景を踏まえ、本記事ではこころみクリニックの経緯とクリニック選びのポイントについて伺いました。

前回記事に続いて、首都圏で最大規模の在宅医療チームである悠翔会を率いる佐々木淳氏に、「死」に対しての向き合い方と在宅医が果たすべき「残された人生のナビゲーター」という役割についてお話しを伺いました。

人工内耳の名医でいらっしゃる熊川先生に取材する本連載、1記事目となる本記事では、人工内耳の変遷を伺います。日本で最初の手術現場に立ったのち、現在も71歳にして臨床現場で毎日診察を続けられている熊川先生だからこそお話いただける、臨床実感に迫ります。