いつからはじまる?電子処方箋のシステムと導入メリット

2022年9月から運用予定だった電子処方箋。現在は2023年1月からの運用が予定されています。電子処方箋が導入されることで利便性が飛躍的に向上し、医療業界に大きな変化が訪れることが予想されます。
厚生労働省の発表した電子処方箋の運用ガイドラインに基づいて、電子処方箋について情報をまとめました。導入するかどうか検討する際に役立てていただければと思います。

2023年1月運用開始予定の電子処方箋とは?

引用:厚生労働省「電子処方箋」

電子処方箋とは電子的に管理された処方箋のことで、医療機関、薬局、患者さんが処方、調剤データを確認しやすくし、情報連携を活性化することを目指したシステムです。

電子処方箋が導入されれば、オンラインで処方箋の運用を行えるようになります。また、複数の医療機関や薬局で直近に処方情報・調剤情報を閲覧することが可能になり、重複投薬の確認もしやすくなるでしょう。

患者さん自身も電子処方箋を確認することができます。おくすり手帳をオンライン化したものをイメージしてもらうと分かりやすいかもしれません。簡単にオンラインで確認できるようになるため、医療関係者だけでなく患者さんの負担軽減にも繋がります。
新型コロナウイルス蔓延の影響もあり、電子処方箋に対する期待値は高まりました。結局当初の予定通りにはなりましたが、開始時期の前倒しが検討されたほどです。

厚生労働省は電子処方箋の概要として以下の内容をあげています。

オンライン資格確認の基盤を活用した電子処方箋のサーバーを設置する
医療機関は電子処方箋を登録する
薬局において、患者の本人確認を行い、電子処方箋のサーバーから当該患者の電子処方箋を取得する
薬局は調剤情報を電子処方箋サーバーに登録する
※電子処方箋の情報を活用し、処方情報・調剤情報を他の医療機関・薬局で閲覧することを可能とする仕組みを構築する

引用:厚生労働省「電子処方箋の仕組みの構築について」

電子処方箋導入による変化

電子処方箋導入による変化は医療機関、薬局、患者さんのすべてに起こります。その中でも医療機関にもたらされる変化はひと際大きいでしょう。予想される変化の中でも主要なものをご紹介します。

診察内容の変化

電子処方箋の導入により医療機関に大きな変化が訪れるでしょう。処方だけでなく、診察方法も変化するかもしれません。今までの診察では過去に自身のクリニックで行った処方・調剤の情報を確認することはできましたが、他のクリニックで行われた処方・調剤の情報を確認することは困難でした。

しかし電子処方箋により、直近の情報であれば患者さんの許可を得ることで他医療機関での処方・調剤の情報を容易に入手することができます。今までよりも正確に患者さんの容態を把握できるようになるでしょう。

重複投与の抑制

日本の医療は投薬量が多いという問題を抱えていました。その原因の一つが重複投与です。これは専門化されたクリニック、病院が乱立するにも関わらず、連帯が取れていないために発生していました。電子処方箋の運用が開始されることで重複投与をより確実に防止することができるようになります。

見込み患者数の増加

電子処方箋の普及に伴い増加を予想されるのがオンライン診療です。オンライン診療がさらに普及すれば、クリニックの立地に関わらず、見込み患者数を増やすことができます。いつの日かオンライン診療が主流になる日が来るかもしれません。他のクリニックと差を付ける方法として、今からオンライン診療に力を入れるのも一つの手です。今後、クリニックにとって必要性の高い技術となってくるでしょう。

このように、変化するのは処方箋の出し方だけではありません。電子処方箋の導入により、診察方法も変化する可能性があるのです。今よりもっと手軽に、そして正確に診察できるようになるのは、クリニックにとっても患者さんにとっても大きなメリットです。

電子処方箋運用手順

引用:厚生労働省「電子処方箋 概要案内」

患者さんの個人情報を扱うため、電子処方箋の運用は慎重にならざるを得ません。そのため、運用方法は複雑になるのではないかと不安に思う方もいるのではないでしょうか。ですが、複雑な運用は電子処方箋管理サービスが対応してくれるので、実際にかかる医師の手間はかなり少ないです。詳しい手順は厚生労働省の発表した「電子処方箋の運用ガイドライン」に記載されていますが、ここではそれをよりシンプルにし、分かりやすい形にまとめました。手順を理解する際の参考にしていただければと思います。なお、電子処方箋は院外処方のみを対象としたものです。

  • 患者さんが電子処方箋を希望しているかどうかを確認する
  • 電子処方箋標準フォーマットに基づいた電子処方箋を作成する
  • 電子処方箋管理サービスに「アクセスコード」と「確認番号」の発行を要求する
  • 電子処方箋管理サービスに作成した電子処方箋を送信する
  • アクセスコードと確認番号を患者さんに伝える
  • 患者さんが薬局でアクセスコードと確認番号を提示する
  • 薬局は電子処方箋管理サービスから、アクセスコードと確認番号により電子処方箋を得る
  • 薬局は調剤し、患者さんに薬を提供する
  • 薬局は、電子処方箋管理サービスへ調剤結果を送信する

電子処方箋を使いこなす

電子処方箋の登場により、医療機関、薬局、患者さんにとってより便利な環境になることでしょう。大きな変化が起こることが予想されるため、医師の方々には柔軟な対応が求められます。電子処方箋の普及に伴い、オンライン診療の患者数が増加する可能性もあることから、今後の経営方針を新たに考えても良いかもしれません。

自院で導入する・しないに関わらず、医療業界は大きく動くはず。クリニック経営を左右すると言っても過言ではありません。大切な情報を漏らすことなく、今後の方針・経営について検討してもらえたらと思います。

※本記事は2022年1月時点で公開されている情報をもとに作成しています。最新の情報については、厚生労働省のホームページをご覧ください。

この記事の著者/編集者

ドクタージャーナル編集部   

各種メディアでのコラム掲載実績がある編集部員が在籍。
各編集部員の専門は、社会における機能システム、食と健康、美容、マーケティングなどさまざまです。趣味・特技もボードゲームに速読にと幅広く、個性豊かな開業支援チーム。
それぞれの強みを活かしながら、医師にとって働きやすい医療システムの提案や、医療に関わる最新トレンドの紹介などを通して、クリニック経営に役立つ情報をお届けします。

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開業応援コラム~クリニック経営の入り口~

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本連載は、開業医の方々の支援を目的としたコラムです。これから独立を考えている、あるいはクリニックを開業したばかりの医師の方々に向けて、クリニック経営に関するお役立ち情報を発信していきます。開業準備や医療設備、人事関係、集患など、コラムによってテーマはさまざまなので、ぜひ参考にしてください。

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