#02 DXを可能にする電子カルテ選び5つの視点
連載:業界主要プレイヤーがリレー形式で語る電子カルテの本当の選び方
2021.05.20
多くの先生方が1日の中で最も長い時間触れられるクリニックにある機器といえば「電子カルテ」ではないでしょうか。現在はありとあらゆる種類の電子カルテが登場しています。 一方、選択肢が多くなったことで電子カルテ選びが複雑になったことも事実かと思いま す。 本連載では「これから電子カルテの導入を考えている先生」や「すでに電子カルテを使われている先生」あるいは「先生に代わって電子カルテの入力をされているクラークさん」に 向けて、電子カルテメーカーを取り扱っている各社からそれぞれの会社の特長、思いなどを リレー形式でご提供致します。(PHCメディコム株式会社 小川誠一郎)
この記事について
「DX(デジタルトランスフォーメーション)」がビジネスのキーワードとなっているが、「経営者がDXを深く理解していないと上手く行かない」が結論となる事が多い。電子化されたデータが活用されれば医療従事者や患者の変化や進化を促すのは間違いないが、そのスピードは他業種に比較すると遅く感じている。何が我々のDXを可能にするのだろうか。
私は抄録作成システム、研究用データベース、内視鏡ファイリング、予約システム、請求システム(米国)などを設計してきた経験があるが、最も実感している事は、「電子化により自分の医療が変化した、進歩した」という事だ。変化のために多量のデータを扱う能力、応用方法、責任を自ら身につけるか、強力なパートナーを見つけ継続して進化する努力をすべきだ。電子カルテを選択する際の条件は各医療機関で異なろうが、DXを重視する場合、私の具体的な判断とその理由を参考にして欲しい。
電子カルテの要件1:データの透明性
電子カルテでは、医師が行うオーダリングの伝達経路、医療コスト、総請求額などが医師に認識しにくいUIが多く、1号、2号、3号用紙をすべて見ながら診療をしていた私にとっては違和感を感じる。医療費は患者の関心事として重要でそれを即座に把握できないのは困るし、院内で生じる様々なトラブルは費用、時間、伝達などに関する事が多いが、データが途中で透明化されていれば防げる場合がある。情報がきちんと見える設計は重要だ。
電子カルテの要件2:データの検索性
私の父(鵜川医院院長)は1970年代から種々の記録を電子化し、それらは引き継がれている。例えば内視鏡記録では個人とは切り離された年齢、性別、体重、使用した鎮静剤の量とその効果、合併症、患者満足度(非凡だ)のデータがある。私が医師になった1990年代には十分な情報量があり、患者にあわせて内視鏡時の鎮静剤の量を適切に調節できた。このデータは全国で通用するものではない。私は父の勤務する神奈川県西部の医療機関だけでなく、東京都、横浜市などの病院でも働きデータを蓄積・解析したが、適正な鎮静剤の量は医療機関のある地域、医師の技量の影響を大きく受けた。医療ではローカルなデータの蓄積と利用が大切な事だと身を以って学んだ。私は診療中に過去の自院データを参照する事が極めて多いが、そのためには電子カルテのデータ構造が重要だ。検索スピードはデータ型によって当然変化するため数値、短いテキスト、長いテキストなどの配置は巧妙に設計される必要がある。過去のデータを即座に検索し役立てられる設計の電子カルテは現在使っている一つを除き見つける事が出来なかった。
電子カルテの要件3:拡張性
内視鏡ファイリングを自ら設計したと書いた。自施設は他施設よりも検査数が非常に多く、画像の表示や所見の記載にかかる時間をなるべく短くしたかった。このプログラムは日本で検査数が上位に入る数名の先生にお使いいただいており、評価していただくのは速度の速さだ。こうした医療用プログラムを作る時に、電子カルテのデータが連携しやすいのは大切な事だ。APIが用意されている場合もあろうが、患者情報だけでは余りにも情報が少ない。例えば患者が来院した時間など、通常は連携が想定されないようなデータも利用できる設計が自分にとって重要だった。
昨今はXMLやJSON形式でデータがやり取りできる事が電子カルテのシステム要件として重要であるとされている。それは当然重要な事だが、拡張性がなければならない。
電子カルテの要件4:止まらない
電子カルテが止まらないための方法は多数ある。個人的には診療を1分でも止まらないよう、障害時すぐに復旧でき、紙が必要にならないシステム設計を行っている。
- 最小限の電力・台数で動くシステムを構築:ノートPCとモバイルプリンターと蓄電池あるいは発電機さえあれば、どんな災害時でもすぐに医療の再開が可能である。無床診療所程度の規模であれば複数台での運用も可能だ。東日本大震災では同じ電子カルテを使っている医師が知恵を出し合い緊急時の運用をどうするか話し合った。もともと開発者の吉原自身、阪神淡路大震災の経験を通じて、軽量に電子カルテを設計し、柔軟な運用を可能にした事が背景にある。最小システムでの運用を訓練しておけば、紙カルテは必要ない。
- 基本ソフトウェアが動作するハードウェアが小型化し、安価になった。重厚なシステムで冗長化するよりも、安いハードウェアを多重化し止まらないシステムを構築するのが妥当な選択だろう。
- 仮想化は今やどの電子カルテでも可能で有効な選択肢だと考える。自分もシステムの一部は仮想化しており、ハードウェアのアップグレードが容易になっている。「クラウド」はその表現形の一つにすぎない。
費用も方法も選択肢が多くあり、医院の経営に与える影響も大きい部分だ。十分な知識と経験がある人が増えるべきだ。
電子カルテの要件5:情報漏洩に強い
アメリカ合衆国保健福祉省(HHS)では、情報漏えいが生じた場合には一定期間内に報告の義務があり、その内容は医療情報漏えいポータル として、公開されている。医療情報のクラウド化に先んじた米国では、ほぼ毎日事故が報告されているが、気づかれない情報漏洩も多い。電子化された医療情報は活発に利用されるといっそう便利だが、情報漏洩が起きた時の影響はあまりにも大きい。患者への影響を軽視せず、責任感を持って運用する必要がある。
常に進化し続けることができる電子カルテ
現在私が使っている電子カルテは吉原正彦医師により開発された。難しい日本の保険請求の仕組みを分解し再構成したデータ構造を持つ。診療中即座に請求額がわかり、医療請求の制度が変化した時にもすぐに理解できる。診療録においてはデータの格納方法が巧妙で、過去の診察の記録を振り返るスピードが他社に比べて極めて速い。動作が速い事で閃きをすぐ形にしやすく、診療速度が上がる。高度なデータ連携が可能で機能を拡張しやすい。これらにより透明な医療、素早く効率的な医療、高度な医療になった。それはDXそのものだ。問診の方法、患者の経過観察、診断までの手順に影響を常に及ぼし、コミュニケーション時間が増加しきめ細かく迅速な対応も可能になった。私だけでなく多くの医療機関の電子カルテ導入を拝見し、電子化がそれまで困難だった仕事を可能にするのを目の当たりにした。
医療情報が電子化される事により、オンライン診療、オンライン資格確認、地域医療情報システムへの接続、治験、共同臨床研究、市販後調査、電子決済などが行いやすくなる。自動化すなわちRPAは今後ますます重要だろう。
しかしそれだけでデジタルにより医療が変化したとは言えない、特に無床診療所レベルでは。情報を電子化し利用することで常に変化し進歩していく事がDXだ。すでに述べた様に医療の情報は地域、医師個人の影響を大きく受ける。このローカルなデータを活用し変化し続けねばならない。デジタルな部分はアウトソーシングしました、ではもったいない。変わり続けていく事ができる電子カルテ、を使って欲しい。
株式会社ダイナミクスの基本情報
レセコン・電子カルテ一体型 Dynamics は開業医が開発した診療所発のソフトです。経費削減・業務効率化・診療の質の向上を目的として開発され「医師が医師へ良いシステムを」という趣旨で1998年から配布を始めました。現在では、5,000件の診療所でお使いいただいております。全国の医師のニーズを集めて進化を続けています。
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