#06 術後のQOLを高めるためのがんの免疫療法
連載:住民参加型の地域包括ケアを志向し、 コーディネーターとして住みやすい街づくりに尽力する
2019.09.02
「第4のがん治療」多価樹状細胞ワクチン免疫療法に取り組む
平成29年から、がんの患者さんに対して、標準治療と併用して「多価樹状細胞ワクチン」という免疫療法に取り組んでいます。
私は30年以上に及ぶ外来診療で、多くの患者さんのがんを見つけて、その都度適切な専門医に紹介してきました。
しかし術後の患者さんの中には、副作用や生活上の支障などで抗がん剤治療が受けられない人や、術後のQOLが大きく損なわれている方もいます。
そのような方たちには、多価樹状細胞ワクチンによる免疫療法をお勧めしています。
実際にステージ4の患者さんの著効例も経験し、「第4のがん治療」という実感を何人もの患者さんの症例から得ているからです。
これは、通常の静脈採血によるわずか25mlの血液の培養から、多価樹状細胞ワクチン(獲得免疫)とNK細胞(自然免疫)によるがん治療をハイブリッドで行う免疫療法です。
この免疫療法の大きな特徴は、分子標的薬よりも多い個別のがんやペプチドを用いることで患者さん一人一人のがんに合わせた治療の個別化ができるという点と、特許を取得した培養技術により、少量の血液からワクチンが作れるうえ重篤な副作用もなく、外来通院でも在宅でも治療が可能で、患者さんへの肉体的な負担も少ないということです。課題は自由診療という点ですが、治療法の選択肢の一つとして十分に価値はあると思っています。
患者さんにとっては、がんの治療後のQOLも重要
がんのサバイバーは増えていますが、その人たちのその後の人生がQOLの高いものとは言えない現状があります。
がんになった結果として、その後の人生を諦めなければならないのであれば、サバイブの意味はありません。
国立小児病院に勤務していた時に、抗がん剤と放射線治療を行い、がんの治療に成功した生後8カ月の乳児がいました。100人中2人しか生き延びられなかった中の一人です。
しかし、当時の技術では狭い範囲への放射線照射はできず、胸全体に照射することになったため、それが原因で胸郭が変形してしまい、そのまま成人しました。
20数年後、彼から、就職のために胸に異常はないという旨の診断書を書いてほしいと依頼があった時に、がんから生き延びた患者さんの、その後の人生のQOLも視野に入れて考えることが医師には求められていることを痛感しました。
小児がんから生き延びたその二人は、成人した後も未だに結婚はできていません。とても気の毒だと思います。
また、若い女性の乳がんでは、手術後も長期間ホルモン療法をしなければなりません。そのことは結婚、出産に大きな影響を及ぼします。
しかし、一定の標準療法の後に免疫療法を行うことで、がんの再発を防げれば、結婚も出産も安心してできます。そういう選択もできるのです。
標準治療と免疫療法の併用で、その人の残りの人生のQOLを上げることができる
医療が進んだ今でも、がんの治療後の人生を支えるサポートが充分とは言えません。
私は、患者さんのQOLを考えた時に、免疫療法もがん治療の選択肢の一つに考えられると思っています。
標準治療と併用して免疫療法も行うことで、その人の残りの人生のQOLを上げることができるからです。
それも、私がかかりつけ医で、患者さんの全てを分かっているからこそ、免疫療法もがん治療の選択肢に入れることができるのです。
ですから免疫療法は、本来であればかかりつけ医が行うのがベストだと思っています。
その人の人生をどうやって支えるのか、ということが大切なのです。
最初に診断でがんを見つけて、適切に専門医療機関で標準療法を行ってもらい、なおかつ、その後の選択肢として免疫療法もあるというのは、私にとっては嬉しいことです。
森口敦 ドクタージャーナル東大生チーム・コーチ兼メンター