#02 リハビリテーションの真髄は在宅にあります。

神経内科医でリハビリテーション医でもある石垣泰則氏は、在宅医療の第一人者である佐藤智氏の「病気は家で治す」の教えに強い感銘を受け、20年以上に及び神経内科専門の在宅医療に取り組んでいる。 その経験の中で、家や家族、そして地域そのものに治癒力が宿っていることを実感すると語る。 「リハビリテーションの真髄は在宅に在り」と信じ、日常診療に取り組んでいる石垣泰則氏は、一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会の副会長として、在宅医療体制の充実を目指す活動にも日々尽力している。 (『ドクタージャーナル Vol.25』より 取材・構成:絹川康夫、写真:安田知樹、デザイン:坂本諒)

自宅にいる神経疾患の患者の多さに驚く

開院後の、クリニックがまだ認知されていない頃は、神経内科という特殊な診療科で、しかも在宅専門ということで、なかなか患者さんが集まらず苦労もしました。

その後、口コミで少しずつ広がったり、多くの取材を受けたり、学会で発表したりする中で徐々に患者さんが増えていきました。

その間に、潜在的に多くの患者さんが家で暮らしていることや、その患者さんが大変な思いをして病院に通っていることとか、適切とは言えない治療のもとで自宅療養している患者さんが沢山いる、という事実を数多く目の当たりにしました。

現在、当クリニックで在宅医療を行っている患者さんは160名ほどで、ほとんどが神経疾患の患者さんです。

神経疾患の中でも、パーキンソンならびにパーキンソン病関連疾患の患者さんが多く、ALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者さんもおられます。

ALSの患者さんの多くは病院から紹介された方々です。

日本におけるALSの有病率は人口10万人に対して2~6人といわれていますが、ALSの患者さんは在宅医療が必要な人たちです。

場合によってはしっかりした施設に入院せざるを得ない方々もいます。

ALSの患者さんとは最期までのお付き合いとなり、ご本人やご家族もそのつもりでおられます。

通院困難な方への訪問リハビリからスタート

入院していた患者さんが、家に帰ってから寝たきりの生活にならないために、城西神経内科クリニックの開業当時から、少しずつではありますが訪問リハビリを行っていました。

当時は、リハビリという概念自体がまだ浸透していなくて、そのための専門職も非常に少なかった。

医療的社会資源が乏しい中ではありましたが、手探りでいろいろな試みを行っていました。

その後1994年に始まった老人デイケアにいち早く手を挙げて、静岡県では2番目の認可となりました。

病床を閉めて通所サービスに切り替えることとなったため、それまでの患者さんで通院が困難な方に対しては訪問診療を始めたことが、在宅医療に取り組むスタートとなりました。

リハビリテーションの真髄は在宅にあります

― 石垣院長は、「リハビリテーションの真髄は在宅にあります。」と力説されていますが。―

病院でリハビリを受けていた方が、家に帰ると悪くなってしまうということがよくあります。

そこには理由があります。家に帰ると、病院のリハビリでしていたことができない、させてもらえない、あるいはサポートする家族がどうしたらいいかわからない、ということで、入院している時よりも悪くなってしまうのです。

患者さんにはそれぞれのライフスタイルがありますから、そのライフスタイルに応じた訓練や練習が重要なのですが、それは病院内の作られた施設での訓練だけでは到底できません。

家に帰った後も、入院中に行われていたリハビリテーションの形を変えて、その人の性格や生活環境、家族の状況、以前の社会的な地位や置かれていた立場などを考慮した、その人に合ったリハビリテーションを継続していくことが必要なのです。

在宅でのリハビリテーションでは、本人に合った生活の訓練ができるのです。

入院中のリハビリとは、いわばブルペンで投球しているのと同じで、本番のリハビリは在宅にあるのです。それがリハビリテーションの真髄は在宅にありということです。

私は、本当のリハビリとは在宅から始まるという信念を持っています。

この記事の著者/編集者

石垣泰則 コーラルクリニック 院長 

一般社団法人全国在宅療養支援診療所連絡会副会長、一般社団法人日本在宅医学会理事、
医学博士、日本内科学会認定内科医、日本神経学会神経内科専門医、日本在宅学会専門医、日本リハビリテーション医学会専門医、日本リウマチ学会専門医、日本医師会認定産業医、介護支援専門員
1982年順天堂大学医学部卒業、順天堂大学医学部脳神経内科入局、1990年城西神経内科クリニック開業、1996年医療法人社団泰平会設立 理事長、2009年コーラルクリニック開院

この連載について

「その人の尊厳を尊重しながら、病気は家で治す。最期まで寄り添う。」

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