製薬会社から営業されたクリニックの対応【MR と医師の付き合い方】

2013年度を境に減少し続けているMRという職。コロナ禍とそれに伴うデジタル化の影響を受け、その減少に拍車がかかっています。しかし、MRはクリニック経営に欠かせない重要な存在です。本記事ではMRの基本的な仕事の内容を整理し、医師とMRが協力することで実現できるメリットについてご紹介します。

製薬会社の営業は何のため?

MRとはMedical Representative(医療情報担当者)の略で、製薬会社などに所属し、医師や薬剤師などの医療従事者に自社の医薬品について情報を提供するのが主な役割です。「製薬会社の営業」と呼ばれているように、医薬品を販売しているというイメージを持たれがちですが、実際に医薬品を販売したり、価格交渉したりすることはありません。

類似した職種にMarketing Specialistを略したMS(医薬品卸販売担当者)があります。製薬会社から仕入れた医薬品や医療材料、医療機器などの多岐にわたる商品を医療機関や調剤薬局に安定的に供給するのがMSの仕事です。MRと大きく異なる点として、さまざまなメーカーの商品を公平かつ客観的な立場から比較し、適切な商品を選択してもらうこと、医療機関や調剤薬局と価格交渉を行って販売することが挙げられます。

こうして両者を比べてみると、販売まで行うMSの方が営業にふさわしいと思われるかもしれません。ですが、MRの本質的な役割を考えてみてください。製薬会社の立場から見た時、以下に挙げる3つを実現するためにはMRの存在が欠かせません。

  • 自社の医薬品を普及させること
  • 自社の認知度・売上を向上させること
  • 自社の医薬品の使用感や有効性、課題などの情報を収集すること

さらに、MRが働きかけることでクリニック側にも、医薬品を適正に使用し、患者さんの安全を確保できるというメリットがもたらされます。

そもそも営業の目的は、単に商品やサービスを販売することではありません。営業とは自社の商品やサービスを提案・紹介することで、お客様のニーズに応えたり課題解決をしたりする仕事のことです。製薬会社とクリニックの双方に良い影響を与えるMRは、まさしく「製薬会社の営業」と呼ぶのにふさわしいと言えます。

MR(医薬情報担当者)がクリニックのためにできること

MRの活動は上記のような情報収集・提供がメインとなりますが、クリニックと密に関わるMRだからこそ提供できる価値があるのは事実です。昨今はMRの数が減少していることで一人ひとりの存在意義が今まで以上に問われており、各製薬会社やMRは独自の工夫を凝らしています。MRとクリニックの関係強化により、今後は多方面で医療業界の発展が期待できるでしょう。ここでは実際に始まっているMRの取り組み例をもとに、クリニックが得られるメリットを3つご紹介します。

①病診連携・診診連携の架け橋に

クリニックの医師はより高度な治療が必要だと判断した時、患者さんを紹介できる基幹病院についての情報を求めます。また、基幹病院側としても、患者さんが退院した時にその後の治療を継続できる地域のクリニックについての情報が必要です。さらに、現在は複数の疾患を持つ患者さんが多いため、診療科目が異なるクリニック同士の連携も重要になります。

このような各医療機関との連携に役立つのがMRです。MRは基幹病院とクリニックはもちろんのこと、クリニック間の架け橋にもなることができます。専門領域が近い医師同士についても、一方の医師にとって初めての症例経験だった場合は、既に経験のある他方の医師に繋ぐことができるでしょう。

②講演会の開催

さまざまな診療科目のクリニックがある地域であれば他院との連携を図るだけで良いのですが、専門医の少ない地域だとそうはいきません。時にはそのクリニックが専門としていない科目の診療を行わなければならないことがあります。そのため、医師はその科目の知見を深めなければなりません。

このような医師をサポートするため、講演会を開催するMRもいます。さまざまな医師との繋がりがあるMRは、講演会やセミナーの講師に適した専門医とも面識があるからです。MRならではの人脈を駆使することで、最新かつ専門的なノウハウを学ぶ機会を設けることができます。また、講演会は単なる学びの場ではなく、医師間のネットワーク作りの場として活用できるのも魅力です。

③医薬品に留まらない情報提供

近年は地域の高齢化とともに、往診や訪問診療の比重を高めるクリニックの医師が増えています。入院せずになるべく自宅で過ごしたいというニーズが高まっていること、高齢者世帯を見守り孤独死を防ぐことなどが主な理由です。また、介助する家族や施設スタッフの支援も重視されている今、在宅医療は非常に大きな意味を持っています。

高齢化に伴い、今後は医薬品に限らない、患者さんの総合的な支援が重要になることは確実です。医療業界の動向や最新の医療機器、地域内の医師数といったMRの持つ情報は必ず役に立つでしょう。

MRの医療営業はクリニックと製薬会社の架け橋

MRは病診連携・診診連携の架け橋にもなりますが、その前にクリニックと製薬会社の架け橋として機能するのが基本です。新型コロナウイルスの感染拡大以降、MRは従来の訪問とは異なる形で医師との接点を維持・拡大しています。リモート面談や電話、郵送、電子メールなど活用しながら、今まで以上に活動の幅を広げているのです。

コロナ禍によってオンライン化が進んだことで、医師とMRが対面で接する機会は今後ますます減少するでしょう。そのような中でも、医師はMRを有効に活用し、MRは医師にとって有用な働きかけをできるよう、相互理解・相互扶助の意識が必要です。ただの営業と思わずに、良きパートナーとして支え合えると良いですね。

この記事の著者/編集者

ドクタージャーナル編集部   

各種メディアでのコラム掲載実績がある編集部員が在籍。
各編集部員の専門は、社会における機能システム、食と健康、美容、マーケティングなどさまざまです。趣味・特技もボードゲームに速読にと幅広く、個性豊かな開業支援チーム。
それぞれの強みを活かしながら、医師にとって働きやすい医療システムの提案や、医療に関わる最新トレンドの紹介などを通して、クリニック経営に役立つ情報をお届けします。

この連載について

開業応援コラム~クリニック経営の入り口~

連載の詳細

本連載は、開業医の方々の支援を目的としたコラムです。これから独立を考えている、あるいはクリニックを開業したばかりの医師の方々に向けて、クリニック経営に関するお役立ち情報を発信していきます。開業準備や医療設備、人事関係、集患など、コラムによってテーマはさまざまなので、ぜひ参考にしてください。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。