#03 【新宿ヒロクリニック】24時間365日の診療で、地域の患者さんに貢献する

新宿ヒロクリニックの英 裕雄院長は、「地域におけるかかりつけ医の役割とは、地域を健全にすること。健康な地域づくりを進めていくことだと考えています。ですから、疾病だけにとどまらず、患者さんを取り巻く社会問題にもアプローチせざるを得ないと思っています。」と語る。 在宅医療の延長線として外来診療を捉え、開業以来21年間、在宅医療で養ってきたノウハウやシステムを活かし、外来診療にも積極的に取り組んでいる。(全4回) (『ドクタージャーナル Vol.23』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

新宿ヒロクリニックの取り組み。

新宿ヒロクリニックは約100人のスタッフで、24時間365日の診療に当たっています。現在5人の常勤医師と、30人ほどの非常勤医師で、外来診療と訪問診療、夜間の当直診療を行っています。

看護師は、常勤看護師が8人、非常勤看護師が5人です。リハビリチームとして理学療法士8名、言語聴覚士1名。他に介護相談員、管理栄養士、事務・受付スタッフ、往診車や無料送迎車のドライバーも兼ねた医療アシスタントが13名在籍しています。各セクション間での情報共有がスムーズに行えるように、院内の電子カルテシステムも独自に構築しています。

24時間365日「よりそいコール」

「よりそいコール」とは、当クリニックで行っている地域医療支援サービスで、どなたでも利用できる制度です。

事前に登録して頂ければ、当クリニック以外の地域のかかりつけ医や病院にかかっている患者さんでも、いざという時に往診とか緊急時対応が必要な人に、24時間365日いつでも連絡を受けた私たちが代わりに往診し、その結果を担当のかかりつけの医師に報告するという仕組みです。

このサービスは、私が新宿医師会の理事だった時に、新宿区医師会による「往診支援事業」として開始したものが原型となっています。2008年、新宿区医師会・新宿区と協力しながら『一人暮らしでも安心して療養できる町・新宿』作りを目指し、新宿区医師会診療所にかかりつけ医のための往診サポートシステムを立ち上げました。

新宿区民の方々に『新宿医療安心カード』を配り、直接区民の往診依頼や電話相談依頼などに対応するという予防医療的在宅医療システムの構築を目指したものでした。

当初私は、ダブル主治医制を目指したのですが、最初は夜間だけの往診の代行でした。ある程度の成果も上がっていたのですが、その後事業変容を余儀なくされて、時期尚早だったこともあり、最終的にはこの事業は3年で終わりました。「よりそいコール」はそれを引き継ぐ形で、当クリニックが独自に行っているものです。現在、150人くらいの患者さんが登録しています。

昨年の稼働実績では、156名の患者さんを往診し、出動回数は139回でした。往診地域は新宿区が最も多いのですが、中野区、渋谷区、文京区、千代田区、中央区、港区にまで及んでいます。医療機関の登録では、外来診療専門の開業医で、患者さんが急変の時には当クリニックで診て欲しい、というような医師に登録してもらっています。

かかりつけ医的な在宅医療をされている医師や、在宅でも在総診を取っていない医師の利用も多いです。地域のかかりつけ医師と患者さん双方からとても喜ばれています。このシステムを、地域の医療支援の仕組みとして定着させていければ、非常に有効だと思っています。

新宿ヒロクリニック

通院が困難な方のための無料送迎サービス

足腰が弱り、通院するのに公共交通機関に乗ることが難しい。脳梗塞の後遺症で麻痺があり車いすで生活している。訪問診療を受けているが、検査で外来にかかる時だけ利用したい。など、通院が困難な方のための無料送迎サービスを行っています。

医師がクリニックで外来患者さんを診ている間は、往診車が空いています。その往診車を使って患者さんにクリニックに来てもらうというシステムで、どなたも無料で利用できます。

実は実績として、これが一番伸びているかもしれません(笑)。在宅もありがたいけど、わざわざ来てもらうよりは、外来に来たいという患者さんが以外と多いのです。無料送迎サービスの月間実績は120回ほどになります。

送迎車は車いす対応の福祉車両の他に、医師往診用の7台の往診車も利用し、ご高齢者や体調の優れない方にも適応できるように研修を積んだ、13名のクリニック専属の医療アシスタントチームが担当しています。

地域で社会生活を行う人たちを地域の中で支える仕組みとしては、在宅医療や外来診療は一つのアイテムではありますが、それだけでは足りません。それぞれのニーズに応じた、不便の穴を埋めるものがあって、初めて様々な人の地域での社会生活を支えられると思っています。外来に来ることができないなら、こちらから出向いてお連れしましょう、という発想です。

患者さんの中には、せっかく送迎してもらうのだから帰りにデパートに寄ってくれ。なんていう注文もあったりして、スタッフが困ってしまうこともあるようです(笑)。

東京がんサポーティブケアクリニック

私たちは、特にがんの緩和医療にも力を入れています。がんは日本人の死因第一位を占め、今後ますます増えてきます。がんの種類によって栄養指導も千差万別ですし、患者さんにもそれぞれ個別の対応が必要になってきます。

2015年に、元がん研究会有明病院、緩和治療科部長・緩和ケアセンター長の向山雄人医師に入職頂き、新宿ヒロクリニックでがん在宅医療とがん緩和ケア内科外来を行っていましたが、2016年8月より向山雄人医師を院長として、新たに医療法人社団三育会東京がんサポーティブケアクリニックを港区新橋に開設ました。

ここでは、がん緩和ケア内科外来と、新宿ヒロクリニックと連携して24時間365日対応のがん在宅医療を行っています。一般的に、在宅でのがんの緩和ケアは、疼痛コントロールにより、自宅で穏やかに最後まで過ごすことをサポートするという看取りの在宅医療が多い。

しかし、向山雄人医師のがんの在宅緩和ケアは、予後を改善するあきらめない在宅緩和ケアという点で大きく際立っています。病院から自宅に帰ってきたがん緩和ケアの患者さんを、時にはまた病院に戻すこともあります。そうして、がん患者さんの予後を改善します。向山雄人医師は、がんの在宅緩和医療でも、諦めなかったら実効性のあることが数多くできる、ということを実証しています。

その人の人生を最後まで穏やかに過ごしてもらうためのがんの緩和医療と、患者さんの病態把握に力を入れて予後の改善を目指すがんの緩和医療が、お互いに補完、融合することで、より実効性の高いがんの緩和医療ができるのではないかと考えています。

(続く)

この記事の著者/編集者

英裕雄 新宿ヒロクリニック 院長 

医療法人三育会理事長、新宿ヒロクリニック院長。1986年慶応義塾大学商学部を卒業後、93年に千葉大学医学部を卒業。96年に曙橋内科クリニックを開業し、2001年に新宿区西新宿に新宿ヒロクリニックを開業する。2015年に現在の新宿区大久保に新宿ヒロクリニックを移転、開業し、現在に至る。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。