#02 キャンプ座間返還跡地に総合病院を新設し、救急搬送の域内完結率改善に取り組む。

社会医療法人ジャパンメディカルアライアンスの歴史は、今を遡ること40年前に「救急こそが医療の原点である」という信念のもと、志を共にした日本医大卒業の若き4人の医師が6年の準備期間を置き、昭和48年に、病床数50の病院として埼玉県北葛飾郡杉戸町に医療法人仁愛会東埼玉総合病院を開院したことに始まる。 その10年後、昭和58年9月には神奈川県海老名市に海老名総合病院を開院し、平成15年に医療法人仁愛会から医療法人社団ジャパンメディカルアライアンスに名称変更した。  平成21年には複数の都道府県にまたがる法人としては全国初の厚生労働大臣認定の社会医療法人に移行し現在に至る。 (『ドクタージャーナル Vol.10』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

医療経営にとって最重要課題とは人材の確保

- 人材確保は多くの医療機関にとって悩ましい課題ですが、貴法人の取り組みを教えてください。また、鄭理事長は、医師には3つのEBMがあると言われますが、それはどのようなことでしょうか。-

鄭氏:医療機関の経営にとって最も重要なのは人材の確保だと思います。有能な人材をいかに整えておくかということ、さらにはその人材を、医療法人が目指す方向に如何にベクトルをひとつにしてゆくかということが重要です。

これは医療に限ったことではなく一般の企業にも言えることだと思いますが、特に医療は属人的な仕事の最たるもので、医療経営にとって最大の経営基盤とは人材だと思います。

医療の世界では、特に経験が最も重要です。

医師をはじめ医療人にとって、最初はテキストに則ったEBMの医療が、10年後には現場経験に裏づけされたexperience(経験)のEBMに、更にその後、人の死や悲しみなどの人生経験を積むことによって得るemotional(心情)のEBMへと変遷してゆくことで、さらに良い医療が出来るようになります。

ですから医師に限らず看護師にも長く医療に従事することで培った経験を十分に活かして欲しいのです。人材は貴重な医療資源とも言えます。ですから、人材の確保とは採用だけでなく長く勤務できる環境を整備する事も含まれます。

鄭 義弘

課題は必要な部署に対する有効な人材配置

鄭氏:当法人の人材確保に関しては、地域差はありますが全体的に見れば順調だと思います。

医師については、十分とは言えないまでも、海老名総合病院では臨床研修医制度で就職希望者がある程度確保できています。看護師は、職場環境の整備に力を入れた結果、埼玉と海老名では毎年純増で20から30名が採用できています。

特に看護師についていえば、まず教育制度の充実や移動も含めた人材配置が上手くいっていることに加え、フレッシュマンフォロー研修や仕事での悩みを受け付ける窓口を設置してストレスを溜めない働き易い環境を作ることで、離職率も下がっています。そこには、各施設の看護部長の功績が大きいと感じています。

今の課題は、本当に必要なところに対する有効な人材配置です。

どうしても急性期偏重や都市部偏重の勤務希望傾向があります。しかしそれは必ずしも地域の医療ニーズには合致していない。

毎年全職員に対して行う事業報告会においても、必ず人材の有効的な配置を訴え、若いうちに介護や僻地医療などいろいろな現場を経験することの重要性を訴えています。

私自身、卒業後4年目での療養型の病院勤務や、他にも高度救命救急センター勤務、僻地に近い地域での医療勤務も経験したおかげで、それぞれにおける医療の必要性が本当に理解でき、その経験が今でも活きています。

- 米軍のキャンプ座間跡地の大規模な再開発における病院誘致で、貴法人が座間市より指名を受け話題となりました。新病院の計画についてお聞かせください。-

鄭氏:当法人では以前より、海老名総合病院に隣接して救命センターの機能を持った新棟の建設計画がありました。

その準備を進めていた矢先に、座間市のキャンプ座間返還跡地の一部への病院誘致が公募となり、この県央地域全体の病床機能の適正配分を踏まえた私共の新病院計画が座間市に採用されました。

地域外の医療法人よりは、この地域で30年の実績を有し地域を熟知している当法人のアドバンテージもあったと思います。また座間市医師会の理事の方々からも、当法人で良かったと言って頂いております。

座間市の特徴としては小規模の民間病院が多いために二次救急需要に応需しきれず、座間、綾瀬地域においては救急搬送の市内完結率が3割ほどしかありません。

残りの患者さんは二次医療圏外の厚木や大和、相模原、藤沢に流出しています。その方々を我々の座間新病院と海老名総合病院を一体化して機能分化させることにより、座間市の救急患者さんも地域全体で7割から8割の市内完結率に上げていきたいと考えています。

座間市の市民アンケート調査でも要望のトップは市内に救急を受け入れる病院が欲しいと言う結果だそうです。

計画としては、今後は病床機能再編の中で海老名総合病院は高度急性期病院としての機能を担っていきます。そのためには療養も亜急性期的な機能も海老名総合病院には置けませんので、従来あったその部分を、一般急性期を含めて全部座間市の新病院に移転させます。
つまり機能で病院を分けるという発想です。

ひとつの大きなケアミックス病院があって、高度急性期は海老名で、それ以外の総合診療は座間で、両病院が連携してこの県央地域の医療をカバーしてゆくという計画です。

当初座間市としては300床規模の急性期病院を希望していましたが、医療資源の有効利用を考えた時に、海老名総合病院から6Kmしか離れていない場所に同じような病院を作ることが果たして意味のあることなのか。地域における目指すべき病院のあり方について座間市とは随分刷り合わせを行いました。

最近では海老名市と座間市の行政間でもお互いの医療資源を共有するコンセンサスが出来つつあるように伺っています。

この記事の著者/編集者

鄭義弘 社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス(JMA) 理事長 

医療法人社団ジャパンメディカルアライアンス理事長、医師(消化器内科)。昭和61年東海大学医学部卒、東海大学医学部付属病院臨床研修医、平成8年医療法人社団ジャパンメディカルアライアンス(旧 仁愛会)海老名総合病院内科、平成10年海老名総合病院内視鏡室科長、その後同病院消化器内科科長、内視鏡センター長等を経て、平成16年医療法人社団ジャパンメディカルアライアンス理事、平成21年社会医療法人ジャパンメディカルアライアンス副本部長、平成23年理事長就任。

この連載について

地域医療連携と機能分化で地域内完結型の医療・福祉の実現を目指す社会医療法人

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。