#05 一般民間病院にとって救急の患者さんの受け入れにはいろいろな判断が伴います

NPO法人東京アレルギー・呼吸器疾患研究所の常任理事、副所長の渡邉直人医師は、アレルギー呼吸器科の専門医として、4箇所の医療機関に勤務している。 気管支喘息(以下、喘息)やアレルギー疾患が専門分野で、薬剤アレルギー、食物アレルギー他、各種アレルギー疾患の診療に携わっている。喘息やCOPDの臨床診療をはじめ、アレルギー疾患に対する免疫療法(減感作療法など)も行っている。勤務先の蔵前内科クリニックでは、肺癌や難治性の呼吸器感染症に対してNK細胞を利用した免疫療法も行っている。 今後はアレルギー疾患に対する禁煙活動(ブルーリボン)を推進し、一般臨床医に適した喘息の治療指針を提唱していく構想を練っている。 (『ドクタージャーナル Vol.6』より 取材・構成:絹川康夫, 写真:安田知樹, デザイン:坂本諒)

受け入れたくてもできないという状況もある

私は4箇所の医療機関で非常勤医として主にアレルギー・呼吸器疾患の患者さんを診ています。

それぞれが特色のある医療機関ですが、医療経営ではどこも一生懸命努力しています。

一般民間病院にとって救急の患者さんの受け入れにはいろいろな判断が伴います。ニュースなどで「患者さんのたらい回し」など社会的に非難される報道があったりしますが、私は対応のできない患者さんを無理して受けないというのは、経営者側や病院責任者の立場として考えた時理解出来ます。

特に訴訟や医療過誤の問題がこれだけ取り沙汰される現代では仕方のない事かもしれません。それは受け入れたくても受け入れられない極限の状況下での判断であると思うのです。問題なのは、そこに患者側と医療側との認識や考えの大きな違いがあるということです。

かかりつけ医は患者にとってのライフライン

病気を根治するための先進医療の進歩と同時に、予防医学、予防医療の重要性が問われている昨今、かかりつけ医をつくることは患者さんにとってのライフラインだと思います。

患者さんにとってのホームドクターやかかりつけ医と呼べる医師がいれば、患者情報の伝達や緊急の対応処置、入院がスムーズに行くはずです。ですから患者さんが、かかりつけ医を作ると言う事はとても大切だと思います。

救急で搬送されて来た患者さんの病歴や薬歴が分からないのが一番困るわけです。それこそ検査の余裕が無い緊急の場合は患者さんの生死にも関わってきます。かかりつけ医がいれば患者さんの情報が得られます。かかりつけ医が自分の患者さんの緊急要請を断るという事はあまり無いはずです。

地域における医療機関の役割分担とは

かかりつけ医が常日頃、通院患者の病状を把握し、いざという時には責任を持って大病院に送る。これが病診連携だと思います。

また、患者さんの検査において民間医療機関と大病院や大学病院との医療連携も非常に大切だと思います。

大病院は優れた検査体制を整えていますが、病床はほとんど常に埋まっている。

一般病院は検査体制では大病院にかなわないが、入院を受け入れる事ができる病床に余裕がある。

であれば、専門的な検査を大病院が行い、その診断に応じて入院は一般病院が引き受けて治療する。

地域におけるそのような医療機関の役割分担が発揮されれば救急患者の搬送拒否も少なくなるかと思われます。

在宅医療への取り組み

開業医のもうひとつの役割として、これから高齢化社会になってくるので在宅医療への取り組みがあると思います。

少なくとも自分の地域で困っている患者さんの要望があれば、往診や訪問看護といった在宅医療に取り組むべきだと思います。

ところが、最近よく言われる看取りの医療や在宅医療に取り組んでいても、いざと言うときに見放してしまう先生がいるのです。

公立病院や大病院で救急当直をしていますと、在宅診療の患者さんが運ばれてくる事がとても多いのです。在宅医がついているはずなのですが、救急病院に回されてくるのです。

受け入れる病院側では、その患者さんの病歴や薬歴も分からないから診断にとても苦労する訳です。そのような救急のケースにこそ在宅医療と大病院の医療連携が活きてくるはずなのですが、現状ではあまり上手くいっているとは言えません。

医師会主導で地域の医師達の団結と連携協力があると在宅医療は上手く運ぶと思います。

蔵前内科クリニックの基本情報

この記事の著者/編集者

渡邉直人 NPO法人東京アレルギー・呼吸器疾患研究所 副所長 

NPO法人東京アレルギー・呼吸器疾患研究所 副所長、常任理事。日本アレルギー学会認定指導医(専門医)、代議員。
神奈川県横浜市出身。1988年獨協医科大学卒業、同アレルギー内科 入局、1999年獨協医科大学呼吸器・アレルギー内科病棟 副医長、2002-2004年ロンドン大学キングスカレッジ校留学、2005年聖マリアンナ医科大学 呼吸器感染症内科 講師、2012年東京アレルギー・呼吸器疾患研究所 副所長(常任理事)

この連載について

NPO法人を設立し、アレルギー・呼吸器疾患の予防および診断・治療の普及に取り組む

連載の詳細

NPO法人東京アレルギー・呼吸器疾患研究所の常任理事、副所長の渡邉直人医師によるアレルギー・呼吸器疾患の予防および診断・治療の普及に関する連載。 渡邉直人氏はアレルギー呼吸器科の専門医として、4箇所の医療機関に勤務している。 気管支喘息(以下、喘息)やアレルギー疾患が専門分野で、薬剤アレルギー、食物アレルギー他、各種アレルギー疾患の診療に携わるエキスパート。喘息やCOPDの臨床診療をはじめ、アレルギー疾患に対する免疫療法(減感作療法など)も行っている。勤務先の蔵前内科クリニックでは、肺癌や難治性の呼吸器感染症に対してNK細胞を利用した免疫療法も実施。 今後はアレルギー疾患に対する禁煙活動(ブルーリボン)を推進し、一般臨床医に適した喘息の治療指針を提唱していく構想を練っている。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。