認知症の人達に関わることは本当にやりがいがありとても楽しい

前回記事「慢性期医療はかかりつけ医として長い間患者さんと関わる医療」に続き、本記事では認知症医療に対する経験や病院マネジメントについての考え方について伺いました。

(記事内容は2021年に公開されたものです)

当時は認知症の患者さんに対してどうしたら良いのか分からなかった

内田病院に勤務した当初、私は最初から認知症の専門医ではなく、内分泌や糖尿病が専門でした。

認知症に取り組むようになった理由は、ここに認知症の患者さんが大勢おられたからです。

慢性期医療の患者さんでは9割近くの方に認知症があります。当時は、拘束されて騒いでいる認知症の患者さんがいたりして、現場の看護師や介護スタッフは困り果てていました。私はその姿を見て本当に驚きました。

食事の時にお味噌汁を上履きの中に撒いてしまうような人がいて、誰も拘束など望んでいないのに、どうしていいか分からない。それを皆、当たり前と思って何も考えずに縛っていた。

本当にどうにもならない状況がありました。尋常ではない世界です。みんな疲れ果てているし、こんな状況が長く続くはずもないと感じていました。

当時の多くの老人病院ではそれが当たり前でしたが、私には抵抗があり、この状況をどうにかしなくてはいけないと考えました。

そこで私は、縛られている患者さんをほどいて回りました。看護師やスタッフの抵抗もありました。私が毎朝ほどいて回っても、夕方にはまた縛られている。それをまたほどいて回る。そんなことを半年間、一人で泣きながら繰り返していました。本当に悔しくて仕方がありませんでした。

ところが半年目くらいから、患者さんの目に光が出てきて、目が合うと「ありがとう。」と言われるようになったりして、実は心が通じることが分かってきました。そのうちにスタッフからも賛同者が出始め、1年後には全く身体拘束がなくなりました。

そうであれば、お味噌汁を上履きの中に撒けてしまう患者さんにもきちんと話したら心が通じるのではないだろうか、と思うわけです。

そのような症例を一例ずつ手探りで積み重ねていきました。そのような関わり方の中で、「この人たちはどうにもならない人ではなくて、一人の人なのだ。」と思うようになってくるのです。

当時はまだ痴呆と言われていて、患者さん達はただ迷惑な対象としてしか扱われていない、そんな時代でした。

身体拘束をやめてから、病棟全体が明るい雰囲気に変わりました。

拘束を外してゆくと、面会がとても増えました。面会が少ないのは、実は私たちのせいだったのだと気づきました。今は病院だけでなく特養などの施設にも面会の家族が足しげく通ってこられます。そんなケアを行っていることでスタッフも変わっていきました。

認知症の人達に関わることは本当にやりがいがあって楽しい

しかも、まだ認知症の薬もなかった時代です。そんな中で、自分たちが認知症の患者さんにしっかりと関わりケアすることで症状が良くなるということが体験できると、面白くなってくるのです。

そうしているうちに、拘束がどんどん外れていきました。拘束が外れると今度は、起こしたり、食べさせたりする方向に向かっていきました。そうすると、まるで未開の荒れ野原だったところに、いろいろなことができるようになっていきました。

食べられるのなら食事を良くしていこう。拘束しなければ褥瘡(じょくそう)も治るよね。アクティビティは何ができるだろうか。とか、私たちが取り組めることがたくさん出てきました。

ですから、早い時期から食事にも取り組んできましたし、排泄にも取り組んできました。

褥瘡も2004年の褥瘡患者管理加算のはるか前から、数多くウォーターベッドやエアマットを導入していました。アクティビティも、アートセラピーや音楽療法など、世の中で話題になる前から取り組んできました。

それらは全て、一人の患者さんが快適に過ごせるためにはどうしたら良いのかと考えた結果から出てきた取り組みでした。

そんな取り組みを続けていると、それまで見放されてきた人たちの目が生き生きしてくるのです。さらにその姿に接するスタッフが輝いてくるのです。認知症の人達に関わることは、本当にやりがいがあり、とても楽しいことだと感動しました。

患者さんのために何ができるかが病院マネジメント

当時の医療現場には、看護やケアなど個々に良いリソースは沢山あったのですが、機能的な連携ができていませんでした。ですから、やるべきこと、やれることが沢山あって、しかもやればやるほど良くなっていきました。

まず何から始めたかというと、看護師さんたちと一緒に院内業務の改善を考えました。看護業務効率を上げるために、看護師の院内導線とか、病室の配置などを変えました。

仕事の効率化や組織活性化のために役務ごとの委員会もたくさん作りました。そうしてたくさん成功体験を積んできました。全員で取り組むことが私には面白くて仕方なかった。

最初はどうやったら働き易くなるのか、と考え行ってきたことが、結果的に経営に結び付くとは思ってもいませんでした。

ところが自分たちがやってきたことに対して、後から「褥瘡患者管理加算」や「感染防止対策加算」などの報酬が付いてきました。

なるほど、患者さんが望むことをきちんと行うと加算が付いてくるのだ。正しいと信じてやっていけば必ず時代が付いてくる事に気づきました。

例えば、エアマットの導入も最初は病院の完全な持ち出しでした。でも導入すれば患者さんも看護師も楽になる。褥瘡も減ります。褥瘡治療の経費も減らせます。

費用対効果の面から褥瘡の処置にかかる看護師の時間や手間を考えれば、予防に目を向けたほうが良いわけです。褥瘡に関する加算が始まる2年位前のことです。ですから褥瘡患者管理加算が最初から取れて導入時の経費はすぐに回収できました。

訪問診療加算もそうでした。今回の認知症加算も当院では認知症ケア加算1が取れます。

目先の収益ではなく、常に費用対効果を考えて色々なことに取り組んできたことが、結果的に病院経営にプラスに働きました。最初は多額な持ち出しも、後から全て回収できています。

このような経験を積み重ねてくると、これをやることが間違いないと確信したら、経費が掛かってもやろうという信念にもなってきます。

職員は人財

私は、患者さんと同じくらい全ての職員も大切にしたいと思っています。大切以上に職員が大好きなのです。強烈な片思いに近いかもしれませんが(笑)。

職員満足費というスタッフのための予算を部門長に渡して、使い方もスタッフに任せています。私の考えで進めました。特に外部のコンサルタントは使っていません。

スタッフの育成とは子育てに似ているかもしれません。

採用も全て私が直接行います。採用条件は、基本条件に加えて、覚悟を持って一緒に働けると思えるかどうか、という一点を必要条件としています。

どんなに必要に迫られたとしても、絶対にこの条件だけは譲れません。それでないと、結果的に周りの職員の負担になったり、利用者さんに迷惑をかけてしまったりするからです。また育てる時間とエネルギーや費用も無駄になります。

職員は、家族よりも長い時間をここで一緒に過ごす仲間です。ですから、仕事だけでなく礼儀作法や社会常識、身なりや言葉遣い、それこそお茶の入れ方に至るまで本気で関わって、どこに行っても信用され通用する人財に育てたいのです。

私たちの仕事では、優れた人間性が求められます。そうでないと良質なケアなどできません。

社会人として良識があって愛情豊かな人を育てたい。スタッフには選ばれてここで働いているのだというプライドを常に持ってほしいと思っています。これが私たちの理念の一つにある「共に育む」にも繋がっています。

(続く)

田中志子 氏 群馬県認知症疾患医療センター内田病院 センター長

医療法人大誠会 理事長、社会福祉法人久仁会 理事長、群馬県認知症疾患医療センター内田病院 センター長。医学博士、日本内科学会総合内科専門医、日本老年医学会老年病専門医、日本認知症学会認知症専門医・指導医、認知症サポート医、認知症介護指導者、日本医師会認定産業医、介護支援専門員。日本慢性期医療協会常任理事、特定非営利法人手をつなごう理事長、特定非営利法人シルバー総合研究所理事長。

この連載について

生まれ故郷をこよなく愛し、大好きな慢性期医療に取り組む

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群馬県沼田市の医療法人大誠会内田病院 理事長 田中志子(たなかゆきこ)氏は、故郷の沼田市が大好きで、慢性期医療が大好きといいます。 「大切な、この故郷のために、地域の老若男女が安心して生きられるようなまちづくりをしたい。医療を通じてまちづくりに貢献したい。医師という専門職の立場から地域を見つめ、まちづくりに役立ちたい。」と話す田中氏に慢性期医療について伺いました。