第三者へ継いでもらう方法(M&Aで『後継者不在』の問題を解決した事例編)

<本連載について>
事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのか分からなかったりで悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では「今日からはじめる事業承継」と題して、院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えるために役立つ記事を発信していきます。

〈今回の記事について〉
前回は、M&Aを成功させるポイントとして『タイミングの見極め』『目的の整理』『アドバイザー選び』の3つが極めて重要であると解説しました。今回は、実際の事例を用いてM&Aをした後の未来やその裏話を掘り下げてみたいと思います。

【今日からはじめる事業承継7日目】
M&Aで「後継者不在」の問題を解決!

中国地方で病院を経営していた医療法人の事例です。当時の理事長の年齢は70歳を超えたばかり、大変お元気そうに見えましたが3年ほど前から時折体調を崩す日々が続いていました。

理事長には医師の娘さんがいましたが、病院は継げないと言われてしまい、誰を後継者にすれば良いの悩まれる日々が続きました。そこで、患者や職員からの評判も良い院長に継いでもらえれば安心じゃないかと考えるようになりました。

とある日、院長と2人で話す機会があり、意を決して院長に相談したものの、残念ながら「私は医者です、経営者の器じゃないですよ!」との返答。あまりの即答に理事長自身があっけにとられる状態となってしまいました。


その後悶々とした日々が続くなか、顧問税理士に相談したところ第三者承継(M&A)という手もあると教えてもらい、意を決して当社にご相談に来られました。お会いして開口一番「正直M&Aには不安がある」と一言・・・当時の理事長は、M&Aに「乗っ取り」のイメージを持たれていました。

3つの希望条件でお相手探し

まずは理事長の不安を紐解いていくことが先決だと考え、M&Aというのは事業承継や経営戦略の選択肢の1つに過ぎず日本でも認知されてきていること、そして何よりお相手は理事長自身が選べること、こちらから希望条件を提示できることを説明しました。

議論を重ねた結果、以下の3つの希望条件でお相手を探すことになりました。

①患者の診療を継続し、運営方針を踏襲して欲しい
②スタッフ全員の雇用を継続し、給与削減はしない
③理事長は継続勤務(できれば週に3~4日程度)

私たちはこの3つの条件を大前提としてお相手を探し始めました。数十を超える候補先から幸いにも1つの病院グループと縁が生まれました。この病院グループはこれまでにも後継者不在や経営不振という課題を持っていた病院や診療所を迎え入れており、経営改善にも定評のあるグループです。

このグループが以前承継した病院の「施設見学」も行い、実際にM&Aを経験した病院の明るい雰囲気や、いきいきと働く従業員の表情を見て、このグループとであれば一緒にやっていけるだろうと思ったそうです。

①②③の希望条件もすべて受け入れてくれることを約束に、この病院グループと一緒に歩むことを理事長は決断しました。デューデリジェンスや最終契約の条件調整も、とんとん拍子というわけではないながらも無事にM&Aが成立する日を迎えることができました。

成約式では、これまで理事長を陰から支え続けてきた奥様から花束が贈呈され、感謝の手紙が読まれました。また、理事長から奥様へは航空券がプレゼントされ、夫婦で行く何十年ぶりの海外旅行が約束されました。

後継者も見つかり、第二の人生へ

幸いにも譲受先の病院グループが医師を迅速に採用・派遣してくれたため、当直もほとんどなくなり体調面の不安も解消されていきました。馴染みの患者さんや気心の知れたスタッフの方々に囲まれながら診療を続けられています。また、休日には大好きなゴルフを楽しんだり、奥様と日帰り旅行にいくなど2人の時間も満喫できるようになったそうです。

一方、スタッフの反応はどうだったのかというと、病院グループに属したことで逆に安心感が増したという結果になりました。理事長の体調不良や後継者である娘さんが病院へ戻ってこないこともスタッフは薄々気づいており、「これから病院はどうなるんだろう」と一抹の不安を抱えながら勤務を続けていましたが、病院グループの支援を受けられることが決まりこの不安も解消されたと聞きました。

実は、いくつかの裏話が存在

一見、極めてシンプルな後継者不在型のM&Aでの成約となった本件ですが、いくつかのバックストーリーがあったので改めてお伝えしたいポイントとしてご紹介をさせて頂きます。

1.約束が守られず退職してしまった院長

実は3年前に長年勤務してくれていた先代院長がいらっしゃいましたが、退職をしてしまったそうです。なぜ退職をしてしまったのでしょうか?実はここがターニングポイントの1つになっていたのですが、この先代院長とは元々は3年以内に経営権とともに理事長の座も譲り渡すとの約束があったそうなのですが、先延ばしが繰り返されていました。

結果どうなったかというと、「守られない約束」を待ちきれず近隣にクリニックを独立開業してしまったのです。もし、この約束が守られていたのならば50歳代で現役バリバリの後継者として理事長を務めていたかもしれません。

2.医師と結婚した娘(女医)

院長への承継は不可能となり、都内住んでいた医師のの娘さんにも声をかけたようですが、既に勤務医のご主人と結婚し、出産と育児で病院を継ぐという事は現実的に難しかったようです。

このシチュエーション、私たち本当に数多く見てきました。「もしかしたら、娘が医師の旦那と一緒に帰ってきてくれるかもしれない」というパターンです。ただ、私たちの経験則から言えば、一緒に帰ってきてくれたパターンはほぼ皆無というのが現実でした。娘さんが医師の旦那さんと結婚=後継者不在の解消とは言い切れないのです。

3.そもそもマネジメントタイプでなかった現院長

また、本稿の冒頭で理事長就任を依頼した52歳の現院長は、根っからの医師であり診療だけに集中をしたいタイプ、職員を束ねたり対外的な営業も苦手としており、そもそもマネジメント指向ではありませんでした。

すべての選択肢を同時にテーブルに並べることが大切

約束が守られず退職してしまった院長、医師の旦那さんと結婚した娘、マネジメントタイプでなかった現院長、都合3度の親族・院内承継に失敗した後にM&Aを知り成約に至ったわけですが、ここまでにおおよそ10年近くの検討時間が過ぎています。

昨今のトレンドは親族承継がだめなら院内承継、院内承継がだめなら第三者承継というステップではなく、すべての選択肢を同時にテーブルに並べて将来の判断をする事が一番だと考えています!

このように同時並行であらゆる事業承継の方法を考えることは後継者候補にとってもそれぞれのメリット・デメリットが俯瞰できるため、「こんなはずじゃなかった」「この方法を知っていれば別の選択をした」というような後悔を防ぐことにもつながります。

「病院・診療所を継がせたい誰かがいる」からこそ事業承継は余裕を持って、私たちのようなプロの経験も活用しながら、誰もがこれで良かったと思える結末を迎えられるよう、その一歩を進めてみてはいかがでしょうか。

まとめ

今日からはじめる事業承継7日目は、M&Aによる「後継者不在の問題解決」を基に成功ポイントやバックストーリーも解説しました。

円滑に事業承継を進めるためには、親族承継がだめなら院内承継、院内承継がだめなら第三者承継というステップではなく、すべての選択肢を同時にテーブル並べて将来の判断をする事が最も大切です。

とりあえず相談したいという状態で構いませんのでお気軽にお問い合わせください。きっと力になれることがあると思います。

株式会社fundbookの基本情報

会社名株式会社fundbook
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事業内容M&A仲介事業

fundbookは最先端のテクノロジーとアドバイザーの豊富な経験を融合した新しい形のM&Aを提供する会社です。2021年に創設された「ヘルスケアビジネス本部」には、病院・診療所の事業承継・M&Aを200件以上成約に導いてきたメンバーが揃い、業界最大級の経験と実績に基に安心と成果を提供します。M&Aに関するコラムやM&A事例なども多数紹介しています。

この記事の著者/編集者

西山賢太 株式会社fundbook アソシエイトヴァイスプレジデント 

株式会社fundbookヘルスケアビジネス戦略部所属。薬剤師・調理師・医療経営士。埼玉県済生会川口総合病院にて薬剤師としての実務経験を得た後、新たな視点で医療業界に貢献したいという思いから株式会社fundbookへ入社。病院・診療所における事業承継やM&Aのほか、事業計画策定・病床機能転換など経営支援にも携わる。

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医療を未来へつなぐために「今日からはじめる事業承継」

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事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのか分からなかったりで悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では「今日からはじめる事業承継」と題して、院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えるために役立つ記事を発信していきます。

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。