院長・家族・従業員・患者の誰もが幸せになる事業承継

<本連載について>
事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのかわからなかったりで悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では「今日からはじめる事業承継」と題して、院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えるために役立つ記事を発信していきます。

【今日からはじめる事業承継1日目】
開業した日を思い出してみる

事業承継1日目は診療所の歴史を振り返ってみることから始めましょう。「自分の腕一本で勝負したい」「もっと住民に寄り添った診療をしたい」と思い、病院や医局を飛び出した先生方も多いのではないでしょうか。数十年に及ぶ歴史を振り返れば、患者から言われた感謝の言葉に涙したり、資金繰りに困り銀行に頭を下げて回ったなんて苦い思い出もあるかと思います。

日本のどこに住んでいても医療が受けられるこの恵まれた環境は、あの日開業を志した医師達のおかげといっても過言ではありません。ただ、今の子供たちが大人になる頃にはこの恵まれた環境は無くなってしまうかもしれません。なぜなら、日本では毎年7,000施設以上の診療所が廃業しており、事業承継が円滑に進んでいないためと言われています。

事業承継は最も重要な経営の悩みでありながら緊急ではないと先送りにした結果、悲しい結末や辛い思いをした方も見てきました。だからこそ私たちは、「今日、思い立った日から事業承継を進めて欲しい」と伝えています。相談をしてみる・情報収集をしてみる、一歩でも前に進むことができれば、医療を未来へつなげる可能性が見えてきます。この日本にはあの日開業した先生方と同じように次の未来を託せる医師たちがたくさんいるのですから。

本稿を通じて、院長・家族・従業員・患者の誰もが幸せになる事業承継の方法を模索していければ幸いです。

西山賢太

【今日の知識】
事業承継の方法には大きく3つの選択肢がある

まずは「事業承継」という言葉そのものを説明します。事業承継とは、会社の経営権や理念、資産、負債など、事業に関するすべてのものを次の経営者に引き継ぐことを指しますが、その方法には大きく3つの選択肢があり病院や診療所においても同様です。

親族承継

ご子息やご親族の医師に診療所を引き継ぐ方法です。家族や従業員等の関係者から受け入れられやすい反面、親子で診療科や専門が異なる、医学部進学と同時に大都市圏へ息子が住まいを移し帰らない、勤務医として医療に専念したいなど、様々な理由で承継に至らないケースも最近は増えています。

院内承継

院内で勤務するNo2や非常勤で来てくれている医師に承継を行うことを指します。診療方針や評判を知る医師に診療所を引き継ぐことは患者や従業員からの理解も得られやすいというメリットがあります。その一方、引き継ぐ際には出資持分の譲受など金銭的な負担も発生するほか、借入金の連帯保証人にもなりうるため一筋縄ではいかないのが現状です。

第三者承継=M&A

子供・親族・院内で勤務する医師以外の方に診療所を引き継ぐ方法です。MはMergers(合併)、AはAcquisition(買収)の略です。親族承継や院内承継に次ぐ事業承継手法として注目を浴び始めています。

事業承継に悩む経営者は意外に多い?

ご自身が経営する病院や診療所を「いずれは子供や親族に継いでもらいたい」と考えている経営者も多いのではないでしょうか。その一方で、開業医の友人から息子がせっかく医師になったのに、蓋を開けてみれば診療所を継がなかったなんて話も聞いたことがある方も多いと思います。そこで診療所における事業承継の実情を少しお話します。

日本医師会総合政策研究機構が2019年1月に発表したワーキングペーパー「医業承継の現状と課題」によれば、診療所の86.1%が「後継者が決まっていない」という調査結果が明らかになりました。開業したばかりで理事長が若く事業承継が当分先というものも含まれている点に注意は必要ですが、それらを加味しても高い値です。つまり逆の意味をとらえれば、「後継者が決まっている」割合は13.9%であり、ほんの一握りの診療所しか後継者を決定できていません。更に同調査では後継者の属性についても質問があり、52.9%が「後継者は子にする」と回答されています。

「後継者が決まっている」13.9%と「後継者は子にする」52.9%を掛け合わせると、その値は約7.3%となり、子供が継ぐと決まっている割合は約1割程度となりました。親の事業を継ぐのが当たり前だった昔とは異なり、今や「子供が親の診療所を継ぐほうが珍しい時代」になりつつあります。ただ、診療所を継がない子供が悪いわけではなく、時代の移り変わりと共に継げない理由が増えてきたと言ったほうが適切かもしれません。最近は次のような理由で事業を引き継げなかったという相談も増えてきました。

☑︎子供が医師でない

医療法第46条3第1項には医療法人の理事長は原則、医師又は歯科医師と規定されています。子供がいたとしても医師免許を保有している必要があるため、株式会社などよりも承継のハードルが1段2段高くなっています。

☑︎親子で診療科・専門性が異なる

精神科と心臓血管外科では診療内容から治療薬に至るまで大きな違いがあります。親子で診療科・専門性が異なるケースは多々ありますが、実際に親の診療所を引継ぎ、子供が得意とする診療科で新たにスタートを切るケースはごくわずかと言われています。

☑︎嫁や家族の反対にあってしまった

医学部進学と同時に子供が大都市圏へ住まいを移し、Uターンを期待していたものの戻ってこないケースです。当初は実家の診療所を引き継ぐ予定でいたものの、医学部卒業後にそのまま大学病院で腕を磨き同僚と結婚・出産、子供が幼稚園・小学校に通い始めた時には住宅も購入しており、結果的には奥様の反対でUターンが実らなかった事例もありました。

☑︎勤務医として働き続けたい

以前は開業を医師人生の目標として掲げていた方も多かったのですが、「病院の勤務医として臨床の第一線で医療を担い続けたい」「開業は失敗する可能性もありリスクだ」と捉える医師も増えてきました。自分のやりたい医療を自分の手が届く範囲でやるという新しい価値観が生まれつつあります。

少々ネガティブな理由が続いてしまいましたが、それほどに病院・診療所の事業承継は難しく相応の準備が必要だと言えます。事業承継に関する悩みは、親族承継・院内承継・第三者承継(M&A)のいずれかで多くの場合解決することが可能です。1つでも多く選択肢を持っておくために、ぜひとも今日から事業承継をはじめていただき、本稿がその一助となれば幸いです。

まとめ

多くのハードルがある病院・診療所の事業承継を少しでも円滑にできるよう本連載をスタートしました。毎月1回の頻度で事業承継の基礎知識や成功失敗事例、質疑応答など有益な情報をお届けします。

本連載を通じて、事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えるためのお役に立つことができれば幸いです。

株式会社fundbookの基本情報

会社名株式会社fundbook
ホームページhttps://fundbook.co.jp/
所在地東京都港区虎ノ門1-23-1 虎ノ門ヒルズ森タワー24F
TEL03-3591-5066
事業内容M&A仲介事業

fundbookは最先端のテクノロジーとアドバイザーの豊富な経験を融合した新しい形のM&Aを提供する会社です。2021年に創設された「ヘルスケアビジネス本部」には、病院・診療所の事業承継・M&Aを200件以上成約に導いてきたメンバーが揃い、業界最大級の経験と実績に基に安心と成果を提供します。

この記事の著者/編集者

西山賢太 株式会社fundbook アソシエイト 

株式会社fundbookヘルスケアビジネス本部所属。薬剤師・調理師・医療経営士。埼玉県済生会川口総合病院にて薬剤師としての実務経験を得た後、新たな視点で医療業界に貢献したいという思いから株式会社日本M&Aセンターへ入社。病院・診療所における事業承継やM&Aのほか、事業計画策定・病床機能転換など経営支援にも携わり、2021年株式会社fundbookへ参画。

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医療を未来へつなぐために「今日からはじめる事業承継」

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事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのかわからなかったりで悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では「今日からはじめる事業承継」と題して、院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えるために役立つ記事を発信していきます。

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