子供や従業員へ継いでもらう方法(継いでもらうために必要な準備編①)

<本連載について>
事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのかわからなかったりで悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では「今日からはじめる事業承継」と題して、院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えるために役立つ記事を発信していきます。

前回は、事業承継を始める際の理事長の悩みや後継者の心配事について整理しました。理事長には「親心」ゆえに事業承継をつい先送りにしてしまうという悩みが、ご子息には父親が築いてきたものを「自分が経営者として守っていけるのか」という心配があること等を紹介しました。

では、どのような方法であればお互いの悩みや心配を解きほぐすことができるのでしょうか。その方法について解説していきたいと思います。

【今日からはじめる事業承継3日目】
継いでもらうために必要な3つの準備

前回、事業承継に失敗してしまうありがちなケースとして「ある日突然、病院や診療所を継ぐかどうか聞いてしまった」ばかりに、子供からYesともNoとも返事がもらえず時間ばかりが過ぎ、最後には継いでもらうことすらできなかった・・・という失敗事例を紹介しました。

このような失敗を回避するためには、きちんと準備を行い、適切な場所を設け、落ち着いた状態で話をするということが大事です。では、どのような準備を行えばよいのでしょうか。

わたし達は大きく3つの準備が必要だと考えています。

これら3つの準備は聞けばごく当たり前に感じるかもしれませんが、実際はなかなか「できない・やれてない」ケースが多いです。親子がお互い医師であれば当然のように忙しい日々が続き、ゆっくりと話ができる「特別な時間」を設けることはとても難しくなります。だからこそ、3つの準備を忘れないでください。

3つの準備の1つめは、その特別な時間を有意義な意見交換・ディスカッションの場にしてくれる「資料」の準備です。医療機関の内情や外部環境をほとんど知らない後継者のために、どのような情報やデータをまとめればよいのか解説します。

2つめの準備は「第三者の視点」です。当事者だけではなかなか進みづらい話は、客観的なファクトや事実を用いてお互いに理解しあう・認識を摺り合わせする段階が大切です。理事長と後継者が納得のいく着地点を見つける方法をお伝えします。

3つめの準備は「逃げ道」です。逃げ道とは一体何でしょうか。こちらは後に詳しく掘り下げます。

本稿では1つめに挙げた「資料」についてじっくり解説し、次回以降「第三者の視点」と「逃げ道」についてお伝えしていきます。

【今日の知識】
基本情報・市場動向・将来構想をまとめた資料を準備

では、実際にどのような情報やデータをまとめればよいのか説明してきいます。

法人の基本情報

まずは初級編として、法人の概要や事業内容を資料にまとめることを薦めています。

法人の歴史がわかる沿革、病院・診療所・介護施設の一覧、事業ごとの売上・利益などをまとめ、全体像のイメージが湧いてくる資料が好ましいです。

また、創業者が病院を創設したときの思い、創業以来この病院を支え助けてくれた人たちがどういう人だったのか?創業時一緒に出資をしてくれた人がいるのであれば、どういう関係性だったのかなど、創業者に直接聞かなければわかりにくい情報を網羅することも大切です。創業者からのメッセージや想い、ビジョンもしっかりと後世に伝えられるよう、数十年前の開業当時を振り返ってみてください。

この中で最も大事な情報の1つが出資持分です。認定医療法人制度の創設により出資持分なしへ移行を進める方も増えてきましたが、未だ多くの方が出資持分ありのまま継続をされています。出資持分の有無の確認するのはもちろん、親族ではない第三者が出資持分を持っているのであれば、事業承継のタイミングでそれを取りまとめるといった工程も必要になります。誰が持っているのか、いくら持っているのか、これまでの変遷をたどれるか、

そういったこともしっかり確認をしておいていただければと思っています。

地域の市場動向

次に中級編です、病院の内外の状況について整理をしてみましょう。

例えば、人口動態は簡単に調べることができわかりやすい指標です。10年・20年後に高齢化率はどの程度上がるのか、高齢者が増えるのか相対的に若者が減っていくのか。これを知っておくだけで高齢者が減らずに若者が減るならば、患者の獲得競争は今と変わらないが、従業員の確保はきっと今よりも苦労するだろうといったような予測もできます。

特に、「働き手」の確保はもはや待ったなしの状態です。看護補助として働くスタッフの時給が、となりのスーパーマーケットでレジを打っているアルバイトの時給より低いなんて現象が起きはじめています。人がいなければ成り立たないのが病院産業であるため、スーパーマーケットまでいかないまでも近しい業種の情報収集は行うことをおすすめします。

また、競合となる病院や診療所の調査も重要でしょう。人口動態と掛け合わせて医療機関数を確認すれば、10万人あたりいくつ病院があるかなど、その地域で医療機関が過剰なのか不足気味なのかすぐにわかります。過剰であればそれだけ、経営環境はこれまでよりも厳しくなるという予測ができます。

更にインターネットを使えば、各医療機関が1日何人の患者を入院させているか、外来患者を診療しているか把握することもできます。医療機能や病床規模が近しい近隣病院と比較して、自分たちのパフォーマンスは上回っているのか否という点も現状として認識をしておきましょう。

将来の構想

最後の上級編として、初級編・中級編で把握した情報を基に現状の問題点や課題を解決する経営戦略の案や収支シミュレーションを作ります。

例えば、診療所の外来患者が年々減り続けているという課題を抱えているとすれば、次のような改善パターンが検討できるかもしれません。

  • 診療所の特徴や強みを明確にしてインターネットを使い広報する
  • オンライン診療にも対応できるよう医療情報システムを導入する
  • 患者満足度調査を行い診療所の問題点を見つけ従業員と改善する
  • 建て替えや修繕に向けて業者から見積を取り予算感を確認する

現状の課題は言い換えれば、未来のポテンシャルとも変換できます。このように未来を見据えた準備をすることで事業承継をした後、細かな課題はさておき医療機関の生命線を担うような根幹部分の課題に真っ先に着手できるよう後継者にも意識づけることが可能になります。

しかし、実はここに落とし穴が潜んでいます。

上記のような将来予測やシミュレーション自体は医療コンサルティング会社や会計事務所にお願いすれば作成できると思います。ただ、よく散見されるのは「作りっぱなし」です。

是非作った「計画」を誰がいつまでに実行するのかまでセットで考えて頂きたいと思います。「現経営者」なのか、「継ぐ側」なのか、それとも「一緒に」なのか。ここまで検討をしておきましょう。

建て替えや設備のコスト

おまけで1つできれば用意をしておきたいのが「建て替えや設備のコスト」に関する資料です。

病床の総量規制がスタートしたのが1985年の第一次医療法改正です。いま多くの病院が築40年近く経過しており建て替えラッシュを迎えつつありますが、東日本大震災以降、建築費は上がり続けており約2倍近くまで上昇しています。診療所においても同様で切っても切れない、建て替え問題をしっかりと見える化することが大事です。

「継ぐ側」の心配な事の項目でも少し話をしましたが、耐震基準や老朽化に問題を抱えていたとすれば、次のような点は病院・診療所のどちらでも確認をしておきたいところです。

  • 現状の建物はいつまで使えるか
  • 建て替えに必要な費用はどの程度か
  • 地域の医療需要を予測すると建て替え後に必要な医療機能は何か
  • 新しい医師や従業員を採用する必要があるか
  • 特別な医療機器が必要か
  • 売上・利益はどの程度見込めるか など

このような情報を集めることであくまで仮説の域ではありますが、数年後にいくらくらいの費用が必要になるか、1つの指標が見えてきます。

私たちの経験でいうと一番しんどいのは「理事長、最後の夢」です。理事長の独断の構想で病院を建て替えたものの、結果としてその構想が気に入らない息子さんが戻ってこないということもありました。そのため、事業承継をすると決めているのであれば、病院の建て替えのプロジェクトに関しては、しっかり後継者の人に入ってもらって話をしていくというのも大切だと考えています。

この後20年30年と病院を経営するのは「継ぐ側」なのですから、「継ぐ側」がやりたい医療は何なのか?はたまた「やるべき医療」は何なのかをしっかりと踏まえて、それらが反映された病院にしていくというのは当然かと思います!「理事長、最後の夢」はできる限り避けた方が良いでしょう。

まとめ

今日からはじめる事業承継3日目は、どのような準備をすれば円滑に事業承継を進められるかという点に着目し、「資料」「第三者の視点」「逃げ道」の3つが必要であるとお伝えしました。

本稿でご紹介した「資料」作りのなかで最も大切なのは、「継ぐ側」にとって欲しい情報が集められているかという点です。次回は、残る「第三者の視点」と「逃げ道」について解説していきたいと思います。

この記事の著者/編集者

西山賢太 株式会社fundbook アソシエイト 

株式会社fundbookヘルスケアビジネス本部所属。薬剤師・調理師・医療経営士。埼玉県済生会川口総合病院にて薬剤師としての実務経験を得た後、新たな視点で医療業界に貢献したいという思いから株式会社日本M&Aセンターへ入社。病院・診療所における事業承継やM&Aのほか、事業計画策定・病床機能転換など経営支援にも携わり、2021年株式会社fundbookへ参画。

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事業承継と聞くと、引退を迫られているようで前向きになれなかったり、何から着手すればよいのかわからなかったりで悩みや不安を抱えている方も多いと思います。本連載では「今日からはじめる事業承継」と題して、院長が抱える事業承継への不安を1つでも解消し、笑顔で事業承継を終えるために役立つ記事を発信していきます。

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