クリニックの売上を保つために必要な競合クリニックとの付き合い方

競合の患者数や来院経路を調べる方法

閉院するクリニックは少なくありませんが、新規開院するクリニックも後を断ちません。開業希望地に競合がいないということはまずありません。ですから、開業前の競合分析は必須です。

競合クリニックを評価・分析するためには、各クリニックの患者数を把握することが先決。調剤薬局は、クリニックごとの処方箋受付枚数をデータとして持っています。これを手に入れることができれば、競合にどれくらいの患者さまが来院しているのかが分かるのです。

また、ネット予約システムを導入しているクリニックなら、そのクリニックのホームページやアプリなどで、だいたいの患者数を確認できます。あるいは、思い切って直接見に行くのも一つの手です。この際、混雑しているクリニックであっても、患者数が特別多いわけではなく、診察のスピードが遅いだけという場合もあるので、一人あたりの診察にどの程度時間をかけているのかまで注意しておくと良いでしょう。

患者数の把握ができたら、続いて調べるのは来院経路です。これにより、開業後にどれだけ集患できるかの見込みが立てられます。ネットで情報を探すのはもちろんですが、見通しの良さや看板などは実際に現地を訪れてみないとなかなか分かりません。面倒かもしれませんが、一度は競合クリニックに足を運ぶことをおすすめします。

それでは、具体的にどのような点を確認すれば良いのか見てみましょう。

競合クリニックとの距離

電車社会なら半径500m~1km以内、車社会であれば半径2~4km以内が診療圏です。この診療圏が重なる同じ科のクリニックが競合なわけですが、脅威度は競合との距離も大きく関係してきます。一般的に自院との距離が近ければ近いほど、患者さまの取り合いが激しくなる傾向にあります。

ただし、距離的には近くても患者さまの動線が異なる場合は影響を受けにくいのが特徴。たとえば、線路や川などで隔てられているところがある場合、移動がしづらいので診療圏内であっても線路や川の向こう側にあるクリニックからは、そこまで影響を受けないこともあります。地形や人の流れにも目を配り、競合を判断しましょう。

競合クリニックの通りがかりにおける認知度の高さ

競合クリニックの通りがかりにおける認知度の高さは重要な評価項目です。その地域を生活圏とする人々にどれだけ認知されているかによって、開業後に自院と比較検討されるか否かが決まります。通りがかりの人数がどの程度なのか、通行中に視認されやすいかで認知度を測りましょう。

競合クリニックの評判

新規患者さまの獲得はもちろん、再来患者さまの数にも関わるのが口コミです。口コミと聞いてまず思い浮かべるのはネット上の口コミではないでしょうか。

ネット上の口コミは簡単に見つけることができます。Googleビジネスプロフィール(旧Googleマイビジネス)や病院検索用のポータルサイトが良い例です。しかし、ネット上の口コミは誰でも書けるうえに真偽のほどが定かではありません。良い口コミの投稿をお願いしていることもあれば、競合クリニックがわざと悪い口コミを投稿している場合もあり、精査が必要です。

一方、人と人との直接のやり取りの中で発生するリアルな口コミもあります。実際に受診したことのある方に忌避のない意見を聞ければ一番なのですが、なかなかそれは難しいでしょう。その場合、医薬品の卸業者や製薬企業の営業マンに聞いてみるのも有効です。

競合クリニックのネット力

マイナーな診療科ほどネットの情報が影響してきます。自院と診療圏が被るクリニックでネットに力を入れているところがどれだけあるのかは事前に確認しておくと良いでしょう。

関連キーワードで上位表示されるかどうかに限らず、ホームページの内容も要チェックです。その地域における競争の激しさは、クリニックのホームページの質との相関関係が少なからずあります。なぜなら、クリニック激戦区でない地域は、ネットに頼らずとも十分に集患がしやすく、ネットに注力する必要性を感じていないと思われるからです。

クリニック激戦区においてはこれと反対の傾向にあり、ホームページ制作費やネット広告費をかけてでも患者数を増やしたいと考えるところが多くなります。

ホームページに力を入れているかどうかは、次のようなことからもわかります。

スマホに対応していない

スマホ対応のホームページが増えてきたのは2015年頃からです。今ではスマホでネット検索する方が8~9割と大きな割合を占めています。それにも関わらずスマホ対応に変えていないということは、あまり見られていない、あるいは見られる必要が薄いホームページだということです。

また、スマホ対応はしていても、最初に作ったきりで長いことリニューアルしていないホームページもネットには力を入れていません。ネット関連の技術は年々向上しています。古いままだと、他のサイトと比べて読み込み速度やデザインなどが劣るため、患者さまに見てもらいにくくなります。

更新頻度が低い

ホームページ開設時から情報がまったく更新されていない、または直近の更新が見当たらないホームページを持つクリニックは、ネットでの情報発信に力を入れていないことが多いです。

ただし、ホームページではなく病院検索サイトやSNSなど他の媒体では積極的に情報発信しているケースもあります。さまざまな方法で競合クリニックの情報を探ってみるのがおすすめです。

その他

ネット力に直接関係しているわけではありませんが、現状、クリニック名も自然検索やマップ検索の順位に影響しています。

「地域名+診療科名」の検索キーワードであれば、クリニック名に両方が含まれている方が上位表示されやすいです。Googleマップ検索において「診療科名」の検索キーワードであれば、クリニック名に診療科名が入っていた方が上位表示されやすい傾向にあります。

新規開院する場合、単科のみを診療するクリニックであれば、少なくともクリニック名に「診療科名」を、複数科を診療するクリニックであれば、少なくともクリニック名に「地域名」を、クリニック名に入れることをおすすめしています。

競合ができる確率を下げる予防策

競合クリニックを評価・分析できるということは、開業後に新たな競合ができる確率を下げるための予防策を立てやすいということです。開業すれば、いずれ評価・分析される側になります。その際、脅威が小さいクリニックと思われてしまうと、容易く競合が生まれてしまい、死活問題になりかねません。競合の出現によって年間数千万円もの売上を失ったクリニックもあるほどです。

そのため、新規開業する医師に「あの場所なら勝算がある」と思わせないように手を打ち、新たな競合の出現を予防することが大切になります。

弱く見せないために

新規開業する医師が競合調査をした際に「このクリニックは弱い」と判断されてしまうと、その地域で開業される確率が高くなります。つまり、一番の予防策は集患力が強いクリニックであるように見せることです。

通りがかり

どこで開業するかによって、クリニックの前を通りがかる人の数が決まります。ただし、クリニックの前を通る人が多くても、その存在に気づいてもらえなければ集患はあまり見込めません。看板や外装を工夫することにより、視認性を高めることはできますが、それにも限界があります。

集患力があるように見せるためには、多少家賃が高くても通行量が多く視認性の良い場所で開業するのが重要です。

ホームページ

ホームページからは、院長の経歴や年齢、専門性、診療時間、休診日といった基本的な情報が読み取れます。クリニックによっては内装が分かる写真や医療設備の説明を掲載していることもあります。

これらの情報は、開業志望の医師にとって重要な判断基準です。たとえば、一般的に院長が高齢だと、近いうちに閉院する可能性が高いうえ、ネット関係に弱いと判断されやすい傾向にあります。

この場合は若く見える写真を掲載したり、後継者がいるのであればそれを明示したりすることで、競合の開業を予防しやすくなるでしょう。

また、ホームページのデザインやレイアウトも大切です。開設時と同じデザインを使い続けていませんか?

たとえ情報をこまめに更新していても、見た目が古いホームページだと、ネット対策が不十分だと思われかねません。情報の追加やデザインの修正など、ホームページ会社には定期的に相談することをおすすめします。

なお、現在のホームページ制作会社に満足していないのであれば、ホームページを移管・リニューアルすることも選択肢の一つです。クリニックのホームページを制作した実績があり、それらのホームページが「地域名+診療科名」のキーワードで上位表示されている会社が良いでしょう。

口コミ

口コミの数や内容は、患者さまだけでなく開業志望の医師にも参考にされるものです。

病院検索サイトやGoogleビジネスプロフィールなどの口コミが少なかったり、評価が良くなかったりすると、近くに開院される可能性が高くなります。

意図的に良い口コミを集めるのは難しいですが、かかりつけの患者さんに依頼して口コミを書いてもらうのが最も確実でしょう。

口コミを依頼するときは口頭で依頼するだけでなく、口コミの投稿方法とQRコードが書かれた紙を渡すと、待ち時間などで投稿してもらいやすくなります。

ネット集患に関する詳細は、『競合と差がつく クリニックの経営戦略-Googleを活用した集患メソッド』に記しているので、ご興味のある方はぜひ手に取ってみてください。

競合と差がつくクリニックの経営戦略
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診療時間を長くする

平日4日と土曜日午前を診療しているクリニックが多いですが、可能であれば休診日はなるべく作らないようにすると良いでしょう。

また、診療時間も早朝から夜遅くまで伸ばすことにより、患者さまに選ばれやすくなります。

急に具合が悪くなったり、休日や仕事後にしか来院できなかったりする患者さまもいます。そのような方々は、クリニックが多少自宅や職場から離れていても、来院してくださる可能性が高いです。

複数医師の診療体制

混雑しているクリニック向けではありますが、常勤医師もしくは非常勤医師を雇用して複数の医師で診療できるようにすることも有効です。

常に混雑していて待ち時間が長いと、患者さまの満足度は下がります。そのため、近くに開院したら患者さまが流れてくると考える開業志望の医師もいるのです。

待ち時間を減らすことにより、その地域の医療需要が供給を上回りすぎないようにでき、新規開業を予防しやすくなります。

競合を寄せつけないために

競合クリニックが近くにできるリスクは常にあります。たとえ隣のビルに競合クリニックが開業することになっても、保健所は許可するでしょう。

しかも、競合クリニックは自院より好立地で開業する傾向にあります。 近くで開院されてしまうと、否応なく患者さまが分散されます。ですから、そもそも競合クリニックを寄せつけないためにあらゆる手立てを講じる必要があるのです。

競合クリニックが物件を契約する前に開業することがわかれば、共通の知人などを介して開業場所を離れた場所などに変えてもらうよう説得するなど。あるいは、ビルオーナーに競合とは契約しないように依頼することもできるかもしれません。

開業志望の医師やビルオーナーにお金を支払ってでも、開業後の影響を鑑みれば十分試してみる価値があるのではないでしょうか。

また、競合によるリスクは一度退ければなくなるわけではありません。常に脅威に対するアンテナを張り続ける必要があります。その覚悟を持ってクリニックを経営していってください。

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この記事の著者/編集者

蓮池林太郎 医療法人社団SEC 新宿駅前クリニック院長 

1981年、東京都生まれ。5児の父。医師。作家。帝京大学医学部卒業。2009年、新宿駅前クリニック開業。2011年、医療法人社団SEC設立。クリニックの開業支援や経営コンサルティング、記事執筆、講演などをおこなう。著書に「競合と差がつくクリニックの経営戦略―Googleを活用した集患メソッド」(日本医療企画)、「患者に選ばれるクリニックークリニック経営ガイドライン」(合同フォレスト)など。

  医療法人社団SEC理事長
  新宿駅前クリニック 皮膚科 内科 泌尿器科 院長
  蓮池林太郎(はすいけりんたろう) 
  蓮池林太郎ホームページ:https://www.hasuikerintaro.com
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  〒160-0023 東京都新宿区西新宿1-12-11山銀ビル5F
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この連載について

クリニック経営は開業場所で決まる。立地選びの大原則

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遺伝子専門医でもある熊川先生は、難聴のリスク遺伝子を特定する研究にも携わられてきました。信州大学との共同研究を経て、現在では高い精度で予後を推定できるようになっています。 将来を見据えたライフスタイルの設計のために。本連載最終記事となる今回は熊川先生の経緯や過去の症例を伺いながら、難聴の遺伝子検査について取り上げます。