#03 篠﨑先生の想い 「その人らしく」生きるために
連載:“その人らしく” 生きるためにーー光免疫療法という選択肢
2025.03.22
最新のがん治療である「光免疫療法」について、国立がん研究センター東病院の篠﨑剛先生が語る本連載。3記事目となる本記事では、篠﨑先生が光免疫療法に携わる想いについて語ります。
今回取り上げるのは、楽天メディカルが開発した薬剤「アキャルックス」と「BioBladeレーザシステム」による「頭頸部アルミノックス治療」です。頭頸部アルミノックス治療は臨床試験によってその効果が証明され、現在は保険診療として受けることができます。
なお、民間治療として行われている光免疫療法に関する内容ではないためご注意ください。
アルミノックス治療の概要(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会のWEBサイトより)
https://www.jibika.or.jp/owned/toukeibu/topics/alluminox.html
ーー光免疫療法の分野に携わるようになった経緯をお聞かせいただけますか
篠﨑:アメリカのNIH(米国国立衛生研究所)で光免疫療法を開発した小林久隆教授と楽天グループの三木谷浩史社長の出会いがきっかけで日本でも治験が進められることになり、国立がん研究センターが第Ⅰ相試験から臨床研究に携わることとなりました(※1)。初めは、レーザー光を当てている最中から腫瘍が縮んでいく様子を見て、すごい治療だと思った覚えがあります。従来の治療に加えてこのような治療手段が一つ増えるのは有望だと考えて、そこから研究に関わらせていただいております。
篠﨑:また、この光免疫療法を新規導入する病院などに対して情報を発信したり経験を伝えたりしています。それにより医師側の技術が良くなり、治療成績も向上しています。
※1 第Ⅰ相試験…臨床試験の一つ目のフェーズ。臨床試験は、第Ⅰ相試験、第Ⅱ相試験、第Ⅲ相試験の3段階に分かれており、第Ⅰ相試験では少数の健常者を対象に薬の安全性を確認し、第Ⅱ相試験では少数の患者を対象に薬の有効性や安全性を確認し、第Ⅲ相試験では多数の患者を対象に有効性や安全性を最終確認する。ただし、抗癌剤の場合は、健常者の健康を害してしまう可能性があるため、通常、第Ⅰ相試験から癌患者を対象に行われる。また、抗癌剤以外でも被験者への効果や副作用の大きさを考慮して第Ⅰ相試験から患者に投与されることもある。

光免疫療法でレーザー光を当てる時の様子
(腫瘍にピンポイントでレーザー光を当てるには、医師側の手技も必要)
ーー臨床研究に取り組まれる際の先生の目標や想いについてお教えいただけますか
篠﨑:患者さんが「その人らしく」生きられることを目標に、研究に取り組んでいます。光免疫療法を行うことによって、体の機能を維持し、家族との豊かな時間を過ごせる、自分らしく生きられる、そのような患者さんが増えてくれればと思っています。
篠﨑:臨床研究というのは、人を対象にしている以上、人体実験と捉えられる側面もあるかもしれませんが、より良い治療に挑戦できる機会へのきっかけとも言えます。我々は患者さんに治っていただけるよう良い治療を提供することを第一に考えています。その上で、現在行われている臨床研究が最適な治療法の一つとして選択肢に挙がってくる場合は、患者さんにお話しするようにしています。
篠﨑:また、臨床試験を提案した際に拒絶される患者さんもいらっしゃいます。そういった方には無理にお勧めしておりません。臨床試験である以上、患者さんが無作為に光免疫療法を行う患者さんと従来の薬物療法を行う患者さんに分けられます。臨床試験に入っていただく場合には、このことを許容してもらわなければなりません。こちらはそのことを十分に説明するようにしていますし、その上で患者さん自身に治療を選択していただいております。
ーー光免疫療法において、大事なことは何だと考えていますか
篠﨑:チームで協力することが大事だと考えています。というのも、色々な要素が複合した治療だからです。薬剤の投与やレーザーの照射、その後の経過観察の段階などがあります。当院であれば、頭頸部外科、頭頸部内科、放射線科、看護師さん、薬剤師さんなどと協力して治療を進めています。
ーー「チームで」とありましたが、これは集学的治療の考え方とつながると思います。それぞれの治療間での連携はもちろん、患者さんの心のケアも大事になってきますか。
篠﨑:はい、もちろん大事です。そして、それに関しては看護師さんの力がものすごく大きいです。患者さんは、医師には言わなくても看護師さんにご自身の思いを言ってくれることが結構多いですし、看護師さんは患者さんの思いを聞き出し理解することに長けています。ですので、看護師さんと連携することで、患者さんが治療のことをどれほど理解してくれているのかを知るようにしています。

国立がん研究センター東病院 篠﨑剛先生
あとがき
新たながん治療として登場した光免疫療法は、その革新的な原理を以ってがん医療に新たな可能性を与えてくれました。現在は頭頸部のみに用いられていますが、近い将来様々な治療に用いられるようになるでしょう。しかし、光免疫療法は「魔法の薬」ではありません。他の標準治療の方がより良い効果が見込める場合もあります。取材を通して印象的だったのは、光免疫療法を押し付けるのではなくそれぞれの患者にとって最適な治療を選ぶことを大切にしている篠﨑先生の姿勢です。医師として患者のために尽くすのは当たり前という意見もあるかもしれませんが、筆者自身はそうではないと思います。医師が十分に説明しているつもりでも、患者やそのご家族にとっては理解が難しいということも少なからずあり、そういったことと真摯に向き合うためには、相応の覚悟と熱い想いが必要になってくると思うからです。篠﨑先生はまさにその覚悟と熱い想いを持って、患者が「その人らしく」生きられるよう懸命に取り組まれています。筆者自身もその想いを大事にしたいと思いますし、そのためにこの記事を通して光免疫療法について発信していきたいと考えています。この記事が、読者の皆さんにとって、光免疫療法を理解しご自身に最適な治療を選択する手助けになれば幸いです。
<国立がん研究センター東病院>
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<日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会>
ホームページ:https://www.jibika.or.jp/
森口敦 ドクタージャーナル東大生チーム・コーチ兼メンター